エピローグ
かつて皇女、げんざい騎士
1.エピローグ
昼の市場は朝に比べて比較的閑散としていて、歩きやすい。
アリは餅屋のおっちゃんから一番安い方餅の詰め合わせを受け取り、居候している家へと戻り始めた。
(私がここにきてからもう半年か~)
なんかずいぶんと前からここに住んでるような気分だ。
そんなことを思いながら、先ほど買った方餅ほおばった。これが今日の昼ご飯だ。
来た初めの頃が懐かしいなー。
そう思いながら片餅をしつこく噛んでいると一人の男がこちらに気づき駆け足で近づいてきた。
男は肩で息をしながら、目の前で立ち止まった。
「よう、アリ。ちょっといいかい。」
それだけ言って、ちょっとタンマと膝に両手を当て背中を上下させた。
骨と皮、まではいかないとしても、一般的な成人男性より細いこの男は普段走ったりしないのだろうなと思いながら見計らって声をかけた。
「どうしたんですか、ヤサイ。」
男、ヤサイは再び息を整えて真剣な顔でアリと目をあわせて言った。
「あんた、騎士団に入ったらどうだ。」
アリはまじまじとヤサイの顔を見て、そののち笑った。
「アハハハ、私をからかっているのか?騎士団が平民を募集するわけないでしょう。兵士ならともかくとして。」
アリがひとしきり笑い終わるのを待ってヤサイは肩をすくめながら言葉を続けた。
「それがな、前回の遠征で騎士部隊が大きくやられたっていうのは知ってんだろ。」
「ああ、ナザーレ王国との戦争のせいですよね。」
アリはそう言って片餅を1つ口に運んだ。
「それで、貴族や兵士から騎士にふさわしいものを騎士に繰り上げようとした。ところがどっこい、張りのあるやつが一人もいねーときた。お偉いさんは、実力のない奴らを騎士にさせるつもりはないらしい。で、俺ら平民に話が回ってきたわけよ。もちろん試験もあるがなあ。」
ヤサイは言葉を切ってグイっと近づくと袋の中をじっと見ているアリの顔を覗き込んだ。
「あんたの腕は確かだ。騎士になってみたらどうだ。」
「騎士ですか。なんだかめんどくさそうですね。それに、私より腕の立つ人もたくさん来そうですね。」
アリは袋の中に残った最後の一枚を見つめながらぽつりと聞いた。
「・・・騎士の給料はどれくらいです。」
ヤサイは私の方餅の袋を一瞥して言った。
「今のあんたの収入の30倍くらいだろうな。」
「どこに行けばいいですか!」