オリハルコンの入れ歯 ~数多の食材を噛み切るために、最強の入れ歯を装着してみた、装着したら世界龍ですら余裕で噛み切れるようです〜
40年前。
「魔王! これで終わりだ!!」
世界を混沌に陥れた魔王は、勇者一行によって討伐された。
魔王の不在で魔族側は大人しくなり、世界には平和が訪れた。
そして月日はたち、現在へと至る。
ある一室、ソファに腰をかけ、暇を持て余している老人がいた。
名は、マーリン。
40年前、魔王討伐に参加したメンバーの1人である。
魔王討伐後、マーリンには二つ名がついた。
『大賢者』である。
数々の魔法を駆使して戦うことから、そう呼ばれるようになった。
そんなマーリンにも悩みはあった。
「ほんとうに、することがないのぉ」
マーリンは凄く暇をしていたのだった。
「はて、何をしようか」
マーリンは一生懸命に老後生活のことを考えていた。
老後2000万と言われるお金はすでに稼いである。
ならば他に何をしようか。更に深く考えていた。
そして閃く。
「お! そうじゃそうじゃ、いいことを思いついたぞ」
そういうと、マーリンは地下室へと向かった。
何かを探しているようである。
「どこにあったかのぉ、確かこの辺りに置いたはずなんじゃが、、、」
マーリンは隅々まで探した。
数分後。
「お、あったあった」
マーリンが取り出したもの、それは【オリハルコン】である。
世界にたった数個しかないオリハルコンだ。
そんなオリハルコンをマーリンは旅の道中見つけていたのだ。
本当に運の良いくそジジイである。
マーリンには唯一趣味があった。
とはいっても、最近はその趣味さえできにくくなったのだが。
マーリンの趣味とは、美味しいものを食べることである。
今までに食べたものは優に10万種を超え、発見した食材は6000種以上と言われている。
まさに、食のカリスマだ。
ならば、美味しいものを食べればいいじゃないか! そう思うかもしれない。
しかしマーリンには、最も大切なものがなかったのだ。
それは……
”歯”である。
食べるために最も大切なものはなんだ。
箸です。
手です。
フォークです。
違う。
”歯”である。
そんな最も大切なものを、マーリンは失ってしまっているのだ。
声もだすのも魔法でどうにかしているレベルである。
そんなマーリンは、歯抜け達に革命を起こす案を考え付いたのである。
「このオリハルコンで歯を作ればいいんじゃね?」
世紀の大発明である。
これが、この世界に、この宇宙に、入れ歯が誕生した瞬間だ。
「よし、これは入れ歯と名付けよう」
そしてマーリンは、入れ歯を装着した。
すると、オリハルコンの魔力が体に伝わり、力が溢れてくる。
「わしゃ決めたぞ! 美味しいものを探す旅に出よう」
こうして、マーリンは美味しい食材を探す旅に出た。
しかし、どれも微妙。
最古から伝わるオリハルコンの力を最大限に引き出す食材はなかったのだ。
そんな時、あることを耳にした。
ここから数100キロ行った先に、世界龍が住まう龍ヶ谷がありますよ、と。
マーリンは涎をたらした。
世界最古の古龍とはどんな味だろうかと。
急いで支度をして向かった。
しかし道中で盗賊と出会ってしまう。
「おいおい爺さん、こんな所でなにしてんだ? 殺されたくなかったら金目の物全部おいていきな」
「なんだね君たちは!」
マーリンはお怒りのようである。
「うるさい爺さんだなぁ、殺されてぇのか?」
「わしが……お主ら如きに殺されるとでも?」
「あぁッ? 武器も無しにどうやって相手をするってんだよ」
マーリンには、勿論魔法がある。
しかしマーリンは得意気な顔で”それ”を取り出した。
自身が開発した”入れ歯”である。
それを盗賊共に見せつけて言う。
「お前たちの目は節穴か、ここに武器があるだろう」と。
「うわ! きめぇ!! なんだよこの爺さん」
盗賊はドン引きである。
初めて入れ歯をみたのだ。
当然であろう。
「とにかくやっちまおうぜ!!」
「おう兄者!!」
当然マーリンは余裕の素振りである。
「小童が」
そう呟くと、入れ歯を手に持つ。
そうすることで、敵の剣を受け止めるのだ。
歯の部分が欠けていない。
見事なものだ。
「くそ! なんだよこのジジイ、化け物かよ!! 逃げるぞ!!」
盗賊は、マーリンに背を向けて逃げようとする。
が――――しかし!!
マーリンに逃がすという選択肢はなかった。
「散れ」
そう呟くと、手から赤い炎が出てくる。
火属性の魔法だ。
だが、単に魔法を放つわけではなかった。
入れ歯を手に持ち構えることで、入れ歯部分で魔力が増幅するのだ。
そうすることで、手から放たれる魔力が何百倍にもなって敵に届くのである。
勿論、盗賊は跡形もなく消え失せた。
「ふむ、これは……入れ歯増強破壊光線と名付けるか」
よし。これで世界龍の所へいけるぞ。
そして場所は龍ヶ谷、入口。
世界龍が天を舞っている。
「なかなか遠いのぉ」
そう思ったマーリンは、先ほどの入れ歯を口に装着した。
入れ歯とは、歯の代わりにするために歯型になっているのだ。
そのため、口の中に入れることで、魔力との親和性が極限状態になるというわけだ。
「ほな行こか」
瞬間、爆風と共に地面にクレーターができる。
直径20mといったところであろうか。
現在マーリンがいるのは、世界龍の背中の上。
「GYUUUUUUUUUUUUUUUU」
世界龍は暴れだした。
激おこである。
そして、その瞬間。
「いただきます」
世界で最も不吉な声が響いた。
マーリンは入れ歯をしっかりと装着し、噛みつく!!
「う、うっめええぇ!!!! ボーノ、マシッソヨ、デリシャース!!」
美味しさのあまり、未知の言語が飛び出す。
口に入れた瞬間、オリハルコンの魔力、そして世界龍の魔力が絶妙にマッチし【七色】の味を生み出した。
それが口の中で変化し続けるのだ。
まずいわけがなかった。
世界龍はさらに暴れる。
「BBBBBBBBHIHIIHIHIHIHIHHIIHIHHHIHHIHI」
「だまれ、飯がまずくなる」
オリハルコンによって強化された拳は、世界龍でもワンパンで失神させてしまうようだ。
失神してしまったために、墜落しだす。
土がついたらまずくなってしまう!
「はやく食べねば」
マーリンは特大級の入れ歯増強破壊光線を放つ。
「――NIWATORI☆」
世界龍は、一瞬の断末魔と共に丸焼きになる。
「上手にやけました~、ほな焼き肉食べよか~」
顎の最大出力をMAXに引き上げ、大きく口を開けた。
そうしてマーリンは、空中で全ての部位を食べつくしたのだった。
めでたしめでたし。