表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

異世界生活271日目③

 入ってきたのは中年程度の男が二人。農村だから農作業に従事しているのだろうか、どちらもかなり体格が良い。よりガタイの良い方は鋭い眼光でこちらを見据えているが、もう一人はそれに比べればずいぶんと柔和は表情を浮かべていた。二人はこちらを一瞥すると、眼光が鋭い男が訝し気に様子を伺ってきた。不躾な視線に居心地の悪さを感じ、ついつい頭を軽く下げる。

 

「どうしたんですか、こんな時間に珍しい」


「いや」


 レノアの質問に眼光が鋭い男が短く答える。その間にも視線はこちらに向けられている。なんだろう、完全に初対面なのだが、すでに気を悪くさせるような何かをしてしまっているのだろうか?かといって目をそらすのもなにか違う気がしてそのままそちらを見ていると、そのまま男が憮然とした表情のままこちらに近づいてきた。もう一人の男は慌てたような表情にはなるもの、止めようという動きまではしない。


「お前が村はずれに引っ越してきた冒険者か?」


「あ、えと、そうですね。シノ・イルアリアと申します」


 村のネットワーク、本当にすごい。この短時間でどんだけの人に情報が伝わっているのだろう。

 男はこちらを値踏みでもするように見ている。見てるというか、最早睨まれているようなレベルだ。怒らせるようなことを現在進行形でもしている覚えはないが、さっさと謝って楽になりたい気持ちすら頭をもたげてくるほどの眼光の威圧感。本当に居心地が悪い。


「えと、一応この村を拠点に今後冒険者活動をできればと思っていまして……」


「村には自警団がある」


「あ、そ、そうなんですね。皆さん体格良いですし、防衛意識も強いんですかね?」


「お前があそこに住むことは別に構わん。だが、村は自警団が守る。俺達には俺達のやり方がある。その邪魔だけはするなよ」


「は、はあ……」


 いきなりの喧嘩腰の発言にかちんと来ないでもないが、引っ越し早々トラブルを起こすわけにもいかない。依頼自体はギルド経由が多く、防衛任務よりは探索依頼の方が多く出されるとは言え、根本の依頼者はやはり一般市民であることが多い。近隣住民の評判は冒険者としての今後を大きく作用する要因の一つだ。イメージが良いことで損をすることは一つもない。って師匠が言ってた。

 男は言いたいことを言い終えたのか、踵を返して店の出口へと向かう。


「俺は、冒険者を好かん。お前もいつでも村から出て行っていいからな」


 男がこちらも見ずに言い放ち、そのまま出て行ってしまった。もう一人の男は終始困ったように笑っていたが、最後にこちらに一礼だけして、眼光が鋭い男に従ってそのまま出て行ってしまった。


「…………」


 何とはなしに、レノアを見ると、気まずそうに肩をすくめて、申し訳なさそうにしていた。


「これが、冒険者というのを明かすとまずい、ってことですか?」


 冒険者自体、極端に言ってしまえば暴力が仕事の職業なので、どちらかと言えば好戦的で野蛮な人格の人間の方が多いのは確かなようだ。僕自身が謂れのない差別を受ける、というような経験はまだないが、師匠からそういうイメージがあることだけは想定しておけ、とは言われている。その事実の一端を垣間見たようだった。


「まあ、そうですね。ランドも……あの文句言ってた方ですけどね。村を守りたい一心ではあるんですよ、あんな態度なのも」


「守りたいのは分かりますけど……」


 こちらとしては初対面で一方的に文句だけ言われているので、いい感情はない。

 端的に言えば、怒りが湧いているがぶつける場所がない。


「うちの村もいろいろあったんですよ。それもあって、あんな感じで冒険者に反感を持っている人は多いと思います」


「色々……」


「まあ、色々です」


 レノアは少し強めに言葉を返す。歓迎しているとは言っても、まだそれほど親しくも無い人に内情をすべてぺらぺらと喋るほど口を軽いわけでもないということなのだろう。こちらとしてもアルアリアとの関係を濁していている後ろめたさもあり、これ以上突っ込むことは憚られた。


「そうなんですね。それで、自警団を立ち上げて自分たちで村を守っている、ってことなんですね」


「そうですね。うちも一応ギルドの下請け仕事はしてますけど、たまに近くの依頼のために寄る冒険者向けの商売しかしてないです。

常駐の冒険者さんなんて私が店をやり始めてから初めてですよ。なので個人的には応援してますよ!」


「あ、ありがとうございます」


 レノアの素朴な朗らかさには癒されるが、ここまでの話を聞いて、何となく合点がいって気分が暗澹たるものとなる。

 多分、その辺の事情は師匠が把握していたのだろう。そして、アンチ冒険者ばかりの村で冒険者として生計を立ててみろというメッセージなのだろう。普通、自分の弟子ならもう少し難易度の低いところから始めるもんだと思うが……。あの人絶対楽しんでやがる。

 現状が色々知れて良い経験にはなったものの、今後のことを考えると、暗澹たる気持ちばかりが心に舞い降りる。

 ほんと、これから大丈夫なんだろうか……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ