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後の話:新たな騒動の発芽3

月日と言うのは、あっという間に過ぎていく。

懸念されていた恒例の森から溢れてくるモンスターの対処は、想定よりずっと楽に終わった。

被害と言う被害も出ず、例年通り凌げたと言える。

もっともそう済むようにギルザークをはじめとしたギルド職員と一部の冒険者で事前準備に動いていたことと、それに巻き込まれるように魔法研究所から人員が派遣されてきたことが大きかった。


終わったことであるから酒の肴として話題に上がりそうなものだが、今年はどの冒険者たちも一切話題に出そうとはしない。

モンスターの数の多さを懸念して、過去冒険者として活動していた者たちにも声をかけ、マイも久々に武器を持って戦うことになっていた。

そのマイが、死んだ目をしてただひたすら食事をしていることから、無事終わったとはいえ、どれほどのものだったのか察することができるだろう。

そのマイの姿を見て気まずい雰囲気になっているのはあるが、他のだれもが触れないのだから相当な数を相手にしてきたということだった。


いつもの酒場で気を晴らすように酒を飲み、食事をしているのだが、まったく気が晴れない。

マイは先ほどの通りで、リベルテとタカヒロが酒を飲みつつ、ゆっくりと食べ物に手を伸ばしている。


「……レッドさんはまだ戻ってこないんですか?」


いい加減、この雰囲気に耐えられなくなったタカヒロがリベルテに話題を振る。


「ものすごく神妙な顔のギルザークさんに連れていかれたっきりですからね。早く終わるとよいのですが……」


リベルテはギルマスの用事に心当たりがあるのか、その眼はギルドの方角に向いてた。


それっきりで話が終わってしまい、タカヒロは他に何かないかと視線をさ迷わせ、たまたま目に光が戻ったマイと目が合った。

これ幸いと何か声をかけようとするタカヒロより早く、マイの目がすっと細くなる。

すっと周囲の気温も下がった気がして、タカヒロは少し身震いがした。


「タカヒロ君。今回はとても……とっても大変だったね」

「ソ、ソウダネ。大変ダッタヨネ」


声は普段通りに聞こえるのだが、やはり冷たさを含んでいる。

タカヒロ自身には、マイからこんな仕打ちを受ける心当たりはない。タカヒロ自身には。


「今回の原因にタカヒロ君は心当たりあるって聞いたんだけど?」

「誰から……、え、あ、はい。でも、僕のせいじゃ……」


誰がそんな悪意のある話をと思ったタカヒロだったが、ちらっと目線を動かした先でリベルテがほほ笑んでいたので察してしまった。


例年より数が多かったモンスターの侵略。

そう、とても数が多かった。

センテピードやアーマイゼが、特に多かったのである。


ワラワラと。

そして、カサカサと。


その際の光景をまた思い出してしまい、二人そろって背筋にぞわっと怖気が走る。

思い出してしまったマイがキッとタカヒロを睨むが、タカヒロにしたら八つ当たりでしかない。

ないのだが、黙っているしかないのが辛い所だ。


そんなタカヒロにとって腹立たしいことは、問題のニシノはごくごく普通に活躍していたらしいということだった。

あの光景を見て、怯んで涙目になりながら槍を動かしていてほしかった。

自分が通った道だけにそんなことを期待していたのだが、ニシノは普段通り、左右それぞれに剣を持って切り込んで暴れていたそうで、周囲から賞賛されていたというのである。


森で依頼に関係なくモンスターの討伐し、今回のモンスター増殖の原因を作ったやつが周囲から賞賛され、彼の手綱を取れなかったとして睨まれているタカヒロ。

親親類でもないのに、冒険者ギルドへ連れてきて登録を促したというだけの、この世界のルールを知ったつもりで知らなかったが故の理不尽。


タカヒロはグイっと残っていた酒を呷って、お代わりを注文する。

その様子にマイも理不尽だったとしゅんとする。


「お~、わりぃ。遅くなった……なんか暗いな。明るい話題にできないのは分かるがな」


そんなタイミングでレッドが合流する。

レッドが席につくと、リベルテが手配していたのかちょうどタカヒロと2人分の酒が届く。


酒をグイっと半分ほどを飲んだレッドが「かぁーっ」と息を吐く。


「レッド。それは少しおじさん臭いです」

「う、そ、そうか。まぁ、そう言われる年齢ではあ……すまん気を付ける」


レッドの年齢からすれば、おじさんと呼ばれても反論のしようがない事実なのだが、リベルテも同年代である。

そのことをリベルテの目力から理解し、レッドは謝罪しか口にできなくなる。

女性に年齢に関する話がタブーなのはどの世界でも変わらない。

物理的な行動もとれることから、この世界の方がより触れてはいけないのかもしれない。

それを近くに居たタカヒロも心に刻み込んでた。


「それで、用件は何だったのですか?」


リベルテが仕方ないとばかりに息を吐いた後、レッドに問いかける。


「ん? あ~、ちょっと軽く話せる内容じゃぁないな」


ここは酒場であり、レッドたち以外の客も当然いる。

特に、恒例のモンスター討伐の後でお金が入った冒険者が多くきていた。


「だがなぁ……。面子としてはちょうどいいんだよな」


レッドが周囲を警戒しながら、少し身を寄せるように合図する。

リベルテはすっと動き、マイは好奇心から乗り出す。

タカヒロはなんとなく嫌な予感がして混ざりたくなかったが、三人からの目に耐えきれなく動く。


「タカヒロたちは知らないと思うんだが、ギルドには依頼として貼りだされない依頼がある」

「そうですね……話したことがあるかもしれませんが、ゼリク商会の件と言えばわかるでしょうか?」


レッドが冒険者ギルドで通常ではない依頼があることを告げる。

すぐに何の話か分からない二人に、リベルテが補足する。


「あ~。レッドさんたちがこれまでに、どんな活躍をしてきたのか聞いたときに聞いた覚えがあります」


ゼリク商会の件とは、オリヴィエ商会で働いているコルディナの両親が立ち上げていたキルケ商会が、ゼリク商会によって冤罪をかけられて潰されたことに対し、無罪の証明と悪事を暴くためにレッドたちが動いた依頼である。


「内容的に依頼票出てたらびっくりするよね」

「後ろ暗いことがあるなら守りを固めたり、証拠をしっかりと潰されるだけだからな。貼りだした時点で仕事にならんな」


内容的に荒事になる可能性が高く、受けた側も下手に動いて捕まれば犯罪者として処罰される可能性が高い内容である。

そんなものを堂々と依頼板に貼りだされていたら、その依頼を受けるのは自殺志願者でしかない。


「なんというかそういうのって、その手の専門的なところがあって、そこがやってそうだと思うんだけど」


タカヒロが何とはなしに酒を飲みながら口にすると、レッドとリベルテから冷ややかな目を向けられる。


「この国ではそういったやつらは認められてない。仮にそんな奴らが居たら、潰している」


レッドが忌々しそうに口にし、ちらちらとリベルテに目を向けて気遣っていた。

そこでタカヒロはやってしまったことに気づいて、リベルテに向かって頭を下げる。

さすがに酒場で小声で話しているとしても動作は目につく。

リベルテはタカヒロの謝罪を受け、すぐに顔を上げさせる。


「それでなんで急にそんな話が出るんですか?」


状況を変えようと、マイがレッドに続きを振る。

タカヒロが心底ほっとした様子でマイに感謝をするが、マイはわき腹をちょっと小突いて反省を促す。


「あぁ、それなんだが。……アイツがな。『ランクが上がらない』とかわけのわからないことを騒ぎ出し、『そういった仕事をこなしてないからなのか』とか、ギルドで受付に絡んだらしい」


レッドの言葉を聞いて、全員が額に手をあてる。

やはり彼が問題の中心にいた。


「ランクがどうこうってのは脇に置いてかまわない話なんだが、『そういった仕事』と騒がれるのは放置できない。笑って流すにはあいつは目立ちすぎた」

「……そうですね。ギルドがそういった裏仕事的な依頼を受けることがあるなんて、公にできません。国が認めていないんですから」

「今回のモンスター討伐であいつは活躍しすぎた。さすがに冒険者内だけじゃなく、王都の人々にも広まっている。そんな奴がそういった仕事が『ある』と騒いだ。国も動かなきゃいけなくなる可能性が出ている」

「さすがに国も放置はしてくれませんよね……」


どこかに侵入して何か盗んでくるとか制圧してくるなど、この国が認めていない集団が行うような仕事内容である。

そういった仕事を行っているかもしれないとなれば、国が認めていない暗殺者などのギルドと変わらない。

国が放置しないのは当然だ。


「たしか、レッドさんたちが受けたことがあるし、その後の流れからして城の人たちも絡んでますよね?」

「……国が公に動けない問題の依頼の場合もある。公にならないように相当気を付けて調整されてな。そんな依頼を持ちかけられる冒険者ってのも、国とギルド双方から相当信頼されている奴に限る」


マイが気づいたことを口にすると、レッドは口に人差し指を当てたうえで事実を認める。


国を治めていくうえで、陰という部分はどうしても出来てしまうものだ。

治世を長く続けていくには、その陰をそのまま放置するわけにはいかない。

そして陰の部分であるため、表に出すことはできない。

だから表に出さないように対処しないといけない。


だから国にはそういった部隊が作られるものだが、そういった部隊が十分な数を持つことはない。

表に出せない部隊なのだ。

回せる金額に限度がついてしまうからである。

冒険者ギルドは、そういった部隊の手が足りないが、そういった部隊の手を出すほどでもない内容を国と調整のうえで回されているのだ。

最悪の場合、影の部隊がばれないようにするための隠れ蓑、尻尾きりに使われる可能性も含まれる。

そのため、ギルド側はギルド自身とそこで働く者たちを守るために、ギルド内部でも一部の物に限らせ、細心の注意を払って動いている。


それだというのに、ニシノは公然と騒いでしまった。

ギルドの建物内だからと言えども注目を集める人間が騒いだのだから、国からもギルドからも危険視されたのである。

これがその日暮らしが出来るだけの稼ぎで過ごす程度の冒険者なら、ここまでにはならなかったかもしれない。

なまじ活躍してしまって注目を集めたばかりであり、『神の玩具』であったために放置されなかった。


「最悪を覚悟しておいた方が良い」


レッドがその言葉で締めくくると椅子の背にもたれかかるようにして酒を飲み干し、お代わりと食べ物の追加を注文する。


やはり、『神の玩具』と呼ばれるものは、おとなしくするという選択を持たないことにレッドはため息をこぼす。

知らない場所に放り出されたら、多くの人は心細さから目立たないように、慎重に動くだろう。

だが、『神の玩具』は過ぎた力を持つ。持たされている。

そのため、何事かを出来てしまう。

レッドは自身の剣に視線を向けた後、つまみに手を伸ばした。


ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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