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後の話:新たな騒動の発芽2

冒険者ギルドは人が多く行き交いしていた。

といっても、冒険者たちではなく職員たちがバタバタと動き回っているのである。


そしてここ、ギルドマスターの部屋は重い空気が張り詰めている。


「そういうことか……。ここ数日でえらく死肉漁りどもが景気良さそうにしていたわけだ」


ギルドマスターであるギルザークが頭が痛いのか額に手をあてて息を吐く。


「死肉漁り」とは、討伐依頼があった際、討伐部位だけ取って放置されたモンスターの死骸を運ぶ者たちを指す。

討伐したモンスターを放置することを、冒険者に対して何やってるんだと思うかもしれない。

しかし、大きなモンスターの場合、その死骸を運ぶというのは大変な重労働なのだ。

事前に運び屋を手配していれば持ち帰ることもできるだろうが、当然ながら費用が掛かる。

もし、その日に討伐できなければ支払い損になってしまうのである。

冒険者は職に就けなかった者たちであり、日雇いの仕事がほとんどであって手持ちに余裕のある冒険者というのはなかなかいない。

だから、運び屋を手配する場合というのは、モンスター討伐の目算が立っていて、なおかつそのモンスターの死骸を持ち帰ることで運び屋に払う以上の利益が見込める時に限る。


もちろん、持ち帰った死骸を買い取ってもらえることが前提であるが、買い取ってくれる先があるかを前もって確認しておく必要も出てくる。

また、毛皮や肉も傷の有無や質でかなり値を落としてしまいやすい。

自身が怪我をするかもしれない討伐の中でそこいらに気を使いながら戦うなど狂人の沙汰であれば、冒険者は最小限の討伐部位だけで放置するのもわかるというものだ。


翻って「死肉漁り」と呼ばれる者たちは買取先について独自に伝手を持っているものが多い。

正規に買い取られるより低い相場であるとされているが、とりあえず運んでさえくれば稼げるというわけである。


話は戻り、部屋に居る者たちの視線が一人の男に向かう。

その男はとても居心地が悪そうにしながらも「僕、関係ないし……」と小さい声で繰り返していた。

もちろん皆に視線を向けられているのは、タカヒロである。


「お前から話は聞いているから、それはわかっているんだが……」

「ただ、冒険者ギルドに連れてきたのがタカヒロさんですので」

「そして登録してそんなに日が経ってないのに、この状況だからな」


周囲から同情はしてもらっているが、理解してもらえていない。

というより、実際はタカヒロの認識の方がずれている。


タカヒロは王城勤めになったとはいえ、冒険者として働いていて、戦争にも参加して生き残った強者である。

そんな男が冒険者ギルドに連れてきた男を冒険者に登録させたのだ。

繰り返しであるが、冒険者は職に就けなかった者たちがなるもので、わざわざ連れ立って訪れて登録させる職ではない。

そこを注目されているタカヒロが伴って登録させた男となれば、タカヒロの技や教えを引き継ぐ子分か弟子として見ることになる。

そして、何かあったらタカヒロが面倒を見るのだと思うのである。


事実、タカヒロとマイが冒険者になった時、レッドとリベルテが一緒に来ていた。

別の思惑があったにせよ、レッドたちはタカヒロたちの面倒を見てきていたのだ。


「けっこうやってくれたようだな。10体分くらいになってるようだ。はぁ……」

「それは……」


ギルザークが調査結果を口にし、そこから導き出される事態にリベルテも合わせてため息を吐く。

いまいち何が大変なのか理解していないタカヒロは、まだ「僕のせいじゃない」と口にし続けていた。


「タカヒロ、いい加減帰ってこい。状況はかなりよくないんだからな」


レッドがタカヒロの肩を掴んで強く揺すぶる。

がっくんがっくんとかなり揺さぶられて違う意味で心配になる光景だったが、やっとタカヒロの意識が戻ってくる。


「問題は、いつもの時期のヤツに、間違いなく影響するってことだな」


ギルザークが重く吐いた言葉に、レッドとリベルテが嫌な顔をする。

そして、タカヒロは一拍遅れて近い時期にあったイベント事を思いならべ、気づいてしまって顔を青ざめた。

そう、センテピードとアーマイゼの繁殖による侵略である。


しかし、今回はそれだけに収まらない。

通常は森の中で食物連鎖が成り立っている。

虫や草を食べるモンスターがいて、それらを食べるモンスターがいることで、不必要にいずれかだけが増えることなく保たれているのである。


だが、今回はそのバランスを不必要に崩してしまっている。

グリトニースクワラルと言った小型から、クレイジーボアやバレットバジャー辺りも倒しまわっていたのだ。


虫や草などを食べるモンスターが数を減らしているため、外敵が少なくなってしまったのである。

今度の侵略の数は増えそうであり、場合によっては肉食系のモンスターも餌不足とばかりに森から出てくる可能性が高くなっている。


ギルザーク達が把握している限りで済めば、増えるだろうがそこまで焦らなくても良いだろうと判断は可能である。

しかし、やはりそれは『今のところ』の予測でしかない。


「というわけで、頼むな」

「この国の人々の命と生活はお前にかかっている」


レッドがタカヒロの肩に手を置いて真顔で述べると、反対側の肩にはギルザークのごつい手が置かれ、圧倒的な圧力をかける。

精神面に対してだけでなく、肉体的にも圧力がかかっており、タカヒロの胃と肩にダメージを与えていた。

タカヒロはいつの間にやらとんでもないことになっていることを嫌でも理解し、その元凶がニシノであることに心の中であらん限りの罵倒を叫ぶしかなかった。


ふらっとした足取りでギルドマスターの部屋を出ていくタカヒロを見送る。

タカヒロはこれから城に戻って仕事をしなければいけないのだ。

タカヒロは城勤めの魔法使いであり、魔法研究の職員である。


すでに『神の玩具』の力は失っているが、それでも相応の器は残されているようで、今このオルグラント王国にいる魔法使いの中で、トップクラスの力を持っている。

優秀な力を持っているがゆえに仕事を振られ、強い力を持っているがゆえに国から監視されている。


タカヒロ本人としてはごくごく普通に暮らしていきたい思考の持ち主のため、仕事を放りだすことも出来ず、かと言ってこの国から逃げるという選択肢も念頭にはない。

だから、気が乗らなくても仕事に向かう。

おそらく昔からそうなのだろうなぁと思える哀愁漂う背中であった。


「なんとかなると思うか?」


ギルザークの言葉にレッドは首を横に振り、リベルテも難しそうな表情でレッドを肯定する。


「そもそもだ。そもそもあいつは『神の玩具』だ。力云々と自分から言っていたし、タカヒロにも確認させたから間違いない」


レッドは椅子に座りなおし、水の入ったコップを手に取る。


「『神の玩具』だったやつらが、これまでおとなしくしたことはあるのか? という話だ。ここしばらく、王国でおきた事件のほとんどに関わっていたんだ。そんな奴らに注意して、「わかりました」なんて言っておとなしくするとは考えにくい」

「そう考えると、あのお二人は本当に稀有な存在でしたね」


レッドたちの世界では『神の玩具』と呼ばれる、おおよそこの世界の人たちが得ることのない過ぎた力を持った者が時折現れている。

そして、彼らは大きな事件に関わっていることが多い。


過ぎた力とは恐ろしいものであり、自分たちの生活を守りたいこの世界の人たちからすれば、排除したいと考えられてもおかしくない存在なのである。

だが、過ぎた力を持った者たちだ。

排除に向かえば当然抵抗し、強すぎる力によって排除しようとした側が滅ぼされてしまう可能性が高い。

もっとも、同じ「ヒト」であることから、ともに生活してくこともできるとも考えられている。

ただし、ともに生活していくと言うことはその場所の生活に合わせるということであり、『神の玩具』とされる者がそのように暮らしたという記録は残っていない。

平凡すぎる生活に埋もれるため、記録に残したり、言い伝えが残る事態にならないのだ。


だから、レッドたちも当初はタカヒロたちを警戒して近づいていた。

監視を含め、なんだかんだとともに行動するうちに今の関係となったのである。


『神の玩具』すべてを否定する考えは持っていない。

だが、それはレッドたちのように深く長く『神の玩具』と関わってこれた個人の考えであり、国を守るという視点で考えた場合、個人の考えに固執してはいけない。

見るべき点から目を逸らしてはいけないのだ。


落ち浮いて考えた結果、アレはこの世界の一人のヒトとして生きることを考えていない、と思うしかなかった。

この世界に生きている人たちを、どこか代えのきく存在と見ている節が感じられるのだ。


「……情報感謝する。まぁ、当面は森から出てくるやつらに備えるとしよう。もちろんお前たちにも期待してるからな」


長く話し込んでも解決しない話をまとめ、ギルザークはレッドたちににやりと笑いかける。

レッドたちはあまり気乗りしないが無視できる話でもなく、訓練場に向かって槍の扱いを思い出すように体を動かすのだった。


ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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