【復讐の魔法少女】現代に魔法少女と、異世界の勇者が現れたら【短編】
私の書いている別小説の世界観を踏襲した作品です。
ただし、別小説とは直接の関係のないアナザーストーリーです。
日本ではないどこかで、一人の少女が襲われていた。
「お嬢さん、その力は、どこで手に入れたのかな?」
「さあ? 貴方に関係あるのかしら」
「『精霊』を差し出すなら、命だけは助けてやってもいい」
下品な笑みを浮かべ、一人の男が少女に問いかける。男と同じような服装をした者が五人いて、全員が似てない形の『剣』を持っている。
「聖域、発動」
少女が小さく呟いた。その一言で、全員の間に緊張が走る。それは一定の強さを持つ『魔法少女』が使う魔法であり、これだけで敵の強さが段違いになる。
「囲め! 息の根を止めろ! 早く!」
魔法少女は、時間が経過するほど強くなる。ゲームに例えるなら、ステータス上昇効果のある補助魔法などを、重ね掛けしていく感覚。その為、対象を奇襲するか、素早く息の根を止める必要がある。
それでも、奇襲は滅多に成功せず、魔法少女は驚異的な『第六感』とも言うべき危機察知能力で、素早く反応する。
だから、日本にいる勇者が『魔法少女・捕獲マニュアル』を提唱した。例えばインターネット上の情報や、現地の有力者に取り入って情報収集の基盤を作り、魔法少女らしき人物を見つける。すぐ接触せず行動を監視し、身内を人質に取ったり無防備な状態を襲うなど、時間が掛かるが確実な方法を考案した。
例外としては、勇者や魔王の中でも『占い』や『索敵』に近い能力を持つ者がいて、そういう場合は、殺傷力に特化した部隊編成をする。
「くそっ、囮が効かないぞ」
「ぼやくな! 戦闘に集中しろ!」
少女の身元は判明していた。だから「家族を皆殺しにするぞ」と伝えた時点で、男たちは勝利を確信していた。最初から生かすつもりなんて無く、少女を殺すつもりではあったが、精霊を消滅させれば後は無力な小娘が残るだけなので、簡単な仕事だった。
「私は退けない。アイリスが死んだときから、覚悟はできている」
少女は白銀に輝く衣装を身に纏い、短めの杖を持って佇んでいる。少女は既に、過去に遭遇した勇者を殺していた。そして同時に、近くに存在する魔法少女と知り合いになる事に成功し、少人数だけど『魔法少女コミュニティー』とも言うべき集団を作っていた。
数日前に、近くに住む魔法少女が殺されて発見された。少女より年下で、妹のように思っていて、優しくて可愛らしい彼女が、死ななければならない理由が思い付かなかった。少女は、せめて楽に天国へ行けたことを祈りならが、ひとつの魔法を使った。
「魔法:彷徨える義憤の鎖」
少女だけに見える六本の鎖が、男達に巻き付いていた。その鎖は、魔法を使う際に『亡き人物』を思い浮かべると、他殺であれば因縁のある相手に結びつく。距離に制限はあるものの、目の前の六人が全て、報復の対象であることは間違い無かった。
「英雄と救世主は違う。私が貴方達を殺すのは、正義の為なんかじゃない。だから私は英雄ではなく、隣人を救う救世主になろうと決めたの」
「……私は正義の為に戦っている」
男には仲間がいるはずだった。なのに一人で戦っているような気分だった。
吹けば消えてしまいそうな味方を見た後に、輝くような白銀の衣装を着た少女を見ると、その周囲だけが綺麗すぎた。少女は手に持った『杖』を、その男に向けていた。
「だから私が悪だと言うの? 愚問ね。そんなの決まっているじゃない。私は間違いなく『悪』で、貴方も間違いなく『悪』なのよ」
「我らには、守るべき『世界』がある! 黄昏の聖剣・アルテミス!」
男は少女を射抜くように、まっすぐと両手で『剣』を持っていた。それは聖剣と呼ばれる異世界の武器。持ち主に武勇を運び、王道を往くよう神が願い生まれた武器。
周辺に光が満ち、暴風のように土煙が巻き起こる。満ちていた光が一点に収束し、静かに佇む少女にむけて、光線が放たれる。
「滅びろ、魔法少女! 我らは正義であり、正しい道を歩んでいる!」
――その日、世界の人々は認知する。今、この世界で何かが起きていることを。異世界から来た者たちと、更に別の異世界から来た『力』がぶつかる時、均衡していたはずの秩序が乱されていく。