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『七行詩集』

七行詩 261.~280.

作者: s.h.n

『七行詩』


261.


しとやかに 僅かに乱れぬ 佇まい


僕の日々とは 無縁の世界から


まるで僕とは 無縁の世界から


水を汲むため 降りてきたように


人々に 決して紛れることはない


僕はただ 受け止められぬ その美しさを


視界の端に 感じるしかなかった



262.


解れても 今も切れない 人の縁


この糸を 僕は手放せず 引っ張り合い


互いに背を向け 歩いていけば


端正に 気の遠くなる 時間をかけて


二人が編んだ記憶さえ


やがて形を失うだろう


いっそ手を離せば 綺麗なままで 残るのに



263.


惹かれても 出会う意味など なかったのに


景色の一部であるように


貴方は流れ 去って行く


時は移ろい この道が


葉を紅く染め 枯れ落ちて


桜の季節を 迎えても


私の心が 移ろうことは なかったのに



264.


飽きもせず この苦しみを 手探りで


私は言葉にしてきました


来る日も来る日も 悩み悶え


貴方の理解を 望みました


それが鳴り響く たった一片(ひとひら)のメロディで


いつか貴方に 伝わるなら


私はもう 声を無くしても 構いません



265.


すぐ傍で 寝息を立てる 貴方を見て


私が眠りにつくまでに


自分の鼓動が おさまるのを


聴くことはきっとないでしょう


部屋の静けさは 寝苦しくもあり


また安らぎでもあるのだと


目を閉じる前の 夢を見ている



266.


美しさよ 黒い瞳の まなざしよ


ガラスのように 照り輝き


透き通る肌は 一世(ひとよ)の華


貴方の立つ場所 全てが舞台であるようで


どんな立派なドレスでも


貴方がその身に纏うまでは


きっと意味など 持たないのです



267.


要りませぬ 自ら背負えぬ 生涯など


私が画家であったなら


時を止め 真っ直ぐ貴方を 見つめては


描くことなど 出来なかったでしょう


歩を進め 自然なままに 呼吸して


流れる髪を 見つめればこそ


私には歌が 書けるのです



268.


夢という 大きな荷物を 背負い込み


この山を越えられるだろうか


この海を越えられるだろうか


芽吹かずに去る 蕾のような


報われぬ期待を 温めて


車輪を回してゆけるだろうか


貴方へ届けられるだろうか



269.


もしも貴方が 年を取ることを 恐れても


感情のままに 階段を駆け足で上り


その手を取りに行こうとする


愚かなほどに 単純な音階(うた)


十年後も 綺麗なままで 聞こえていたら


その時にこそ 誇りに思おう


“今の僕達が もっとも美しいのだ”と



270.


望まれぬ 恋をすることが 罪というなら


貴方もきっと 同罪です


思い(したた)めるだけで 良かったものを


貴方が変えたではないですか


変えたのは 貴方ではないですか


なのにどうして 素知らぬ顔で


私一人に 背負わせることができるのですか



271.


救われぬ ものと知りながら 慕うのは


自ら求めた 罰なのでしょう


この心臓を 鎖で縛ったのは貴方です


貴方が一歩 離れるごとに


この心臓は強く締め上げられ


一人の部屋は 血で滲んでいる


もう二度と 美しい日々に戻れないのですか



272.


約束は しても答えは 先延ばし


窓際の席に 並ぶのは


互いを見つめなくて済むから


突き放しも また 詰め寄るようなこともせず


貴方も私も 結局覚悟はできていないのだ


“今日こそは” いつか頷いてくれるのを


心待ちに 隣に貴方の 席を取る



273.


誰よりも 理解してみせたい心を


分かって欲しいと 重ねるほど


子供扱いするのでしょう


もう少し年を 重ねれば


貴方が分かるようになるなら


それだけを待ち この長い冬に耐えましょう


たとえその先 貴方が居ても 居なくても



274.


水上に 飛沫を立てず 音も立てず


波紋だけ残し 歩くように


息を飲むような 美しさよ


細い爪先が 高い踵が 君を支えられるのなら


白鳥は何故 泳ぐのだろうか


決して目を 汚さぬ君のように在りたいのか


君もまた そうなのだろうか



275.


貴方の向かいたい場所で


なりたい貴方に出会えたなら


私のもとへ 連れ帰ってきてくれますか


立派になった 貴方の姿も


儚くも懸命な その面影も


同時に迎えられるなら


待つ日々など 幸せへの過程でしかない



276.


暮れゆけど 私の世界は 終わらない


愛なき場所に 悲劇は生まれず


知らぬものは 愛を見つめる目を持たない


君がいたことで 救われていた


これは私の物語


誰が奪おうとしたとしても


君が泣いてくれたとしても



277.


帰る部屋を もしも突然 なくしたら


これらの荷物は 何処へゆくのでしょう


いっそ身軽に 伸びた前髪を切るように


物は捨てても 過去を捨ててはいけません


進む度 後ろ髪を引く 思い出を


たまらずに 引きずり歩いた 痕こそが


帰る場所まで 貴方を連れて行くのだから



278.


目を閉じて 長いまつげを伏せたとき


大きな瞳が隠れてもなお


ただ凛と浮かぶ顔立ちよ


どうして貴方は 私の目の前で


軽やかな歩を 止めるのか


美しさよ 貴方を見つめるためにこそ


私はこの目を持ったのだ



279.


この日まで 待たせたことの言い訳は


こうでも言おうか 貴方に見合うよう


長い支度に手間取っていた、と


貴方が 今日この場所に 来るまでに


時間をかけたのと同じように


そうでもなければ 出会いなど


この手に留めては おけないものだ



280.


平日の 同じ時間に 目が覚めて


アラームの音 そのまま止めずに聴いていた


他の誰かが止めることもなく


誰かに呼ばれることもない


もしも貴方の電池が切れたら


僕はきっと もう少し長い 夢を見て


その列車に 乗り入れることはないだろう



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