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ケンコンイッテキ  作者: もりを
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任命

 結局、捕獲された新入生は7人にものぼった。さらった側の9人とあわせて16人。これでなんとか試合のできる頭数がそろった体というわけだ。

 ラグビーというスポーツは、15人で一チームを形成する。そしてそのポジションは、それぞれの役どころにおいて極端に専門的な動きが求められる。重量、スピード、跳躍力、機敏さ、脚力、腕力、頭脳、器用さ・・・などなど、多様な個性を必要とするスポーツなのだ。逆の言い方をすれば、デブ、チビ、ノッポ、短足、せっかち、ずるがしこい、頭骨が頑丈、かっぱらうのが得意、走り出したらとまらない、座りこんだら動かない・・・などなど、日常生活では短所として忌み嫌われる部分が、各ポジションで思う存分に力量を発揮しうるのだ。

 太った人物だけをありがたがる相撲や、ノッポだけを欲しがるバスケ部、バレー部とは少々事情が違う。ラグビーでは、デコボコであればあるほど、戦略に幅ができるともいえる。スクラムを支え、相手を押し込む役割は、地に根の生えたようなずんぐりむっくりが有用だし、密集からボールをかき出す役割は、からだが小さくてすばしっこい者が任に合っている。スローインでの空中のボールの奪い合いには、背の高さと跳躍力が求められる。算数の出来るやつはゲームを組み立てるスタンドオフに向いているし、アタマは悪くても足の速いやつはウイングという切り札になりうる。蹴ることがうまいやつはキッカーに、投げることがうまいやつはスローワーになれる。かくてラグビー部は、別個の持ち味を誇るさまざまな人種のるつぼとなるのだ。

 そんなわけで、ラグビー部内にはいろんな体型をした人物がいた。岩のような体躯の小林さん(野獣コバヤシは、いつからかオレの中で「小林さん」という人間扱いにかわった)はじめ、巨大戦艦のような大男、ちょこまかと小回りのききそうな小男、敏捷そうな中肉中背男、ライオンタイプ、カバタイプ、キリンタイプ、チータータイプ、などなどだ。

 一方、キャンパス内からかき集められた新メンバーには、取り立てた個性は見当たらない。ちょい猫背な野生児、モデル体型だがぼんやりした目の色男、O脚の関西人、腹のたぷんと張った社長顔、優柔不断そうなもち肌男、頭の大きな学者ふう・・・そしてやせっぽちノッポのオレ。全体的にパッと見、たよりなさそうなのばかりだ。しかし重要なのは当面の数合わせであって、とりあえずはどんなのでもかまわなかったのだろう。

 それにしても、こんな出来そこないばかりを集めて、本当に大丈夫なのだろうか?先輩たちとルーキーとの体格差は歴然だ。

ーだけど先輩たちも、練習の中であの巨大な筋肉を手に入れたんだ。オレたちだって・・・ー

 今まで運動という運動をやったことがなかったオレは、密かに燃えた。生まれてはじめて感じるたぎり。それは闘争心だった。

 さて、オレは部に入った瞬間に、「フォワード」をやることになった。「ロック」というポジションだ。キャプテン・小林さんによる、わずか3秒の裁定だった。「背がたけーから」というのが唯一無二の理由付けである。小林さんは決断力のひとなのだ。

 当初、フォワード、と聞いて、オレは驚愕した。それは、先頭切って相手に攻撃を仕掛けるポジションと推測できる。サッカーでいえば、ストライカーだ。そんなエースの座をいきなりゲットしてしまったのだ。ラグビーなら、あのかっこいい「トライ」というやつをきめる役回りにちがいない。すごい大抜擢ではないか。なんかすいません。ラグビーのラの字も知らない新入部員に対し、キャプテンがこのような大英断を下すとは、前代未聞のことなのではなかろうか?先輩たちがオレのことを信頼してくれている証だ。その熱い想いに応えなければならない。

ーフォワード・・・前衛・・・最前線・・・インフロントオブファッキンエネミー・・・ー

 なんたって、いちばん前だ。目立つし、かっこいいし、モテるはずだ。オレは、一度手に入れたこの地位はなにがあろうと他人には渡すものか、と決意した。特に、愚鈍で凡庸そうな同期生たちには。このポジションを守りぬくためには、どんな苦しい練習にも耐えてみせる。得点を獲りまくって、人望厚いエースになって、チームを勝利に導き、スーパーヒーローになってみせる。やりまっせ、小林さん。よーし、とりあえず一年間に、オレの力だけで100トライ決めることを目標にしよう」・・・などと、のんきに考えていた。最初の練習がはじまるまでは。

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