0.epilogue
作者の私は、野中暖と書いてノナカノンと読みます。どうぞよろしくお願いします。
ピーピーピーピー
けたたましいサイレンに、失いかけの意識を取り戻した。
何人かの医療関係者が、パタパタと足音を立ててこちらに向かっているのがわかる。
だが、彼らはこの箱に着くまでに「私の」菌が移らないような服に着替え、除菌をしなければならないだろうから、私が死ぬまでにここへたどり着くことはできない。
_______最も、たどり着きたいと思っていないだろうが。
ふと、天井を見る。
この真っ白な天井を見ながら考えるのは何時も、自分の人生について。
私の人生を一言で表すとするなら「無」だ。
私には本当に家族も友人も将来の夢も、生きる価値も、何にも無い。
いや、正確には愛も優しさも目標も持っていたが、そんな幻想はとうの昔に全部、すてた。
「.....っん?」
あれ?この雨みたいに頬を濡らすのはなんだろう。
少し暖かくて、塩っぽくて、苦くて、でも甘い。
なんだか胸もいつもと違う痛みを感じる。
ぎゅーっと締め付けられるような、でも優しく抱き締められたらこうなるんだろうなっていう。
死ぬ直前だから感覚がおかしいんだよ、きっと。
ああ、息が苦しい。
ピー、ピー
こんなあっさりとした最期なら、神様、少し欲を言ってもいいのなら、
「次はもう少し幸せになり......た.....い...」
ピー......
「...........来世の君に幸福を。」
そんな言葉が、最期に聴こえた気がした。