Q16 眠り姫はケーキで起きる?
ほのぼの?回です。 ……まあ今後の展開はおいおい書きます。
俺とルインは学園からやって来た火竜討伐部隊――大半は学園の教師達だった――に保護され、そのまま討伐部隊が用意していた高機動型の魔導馬車に乗せられた。火竜の襲撃が来るまで乗っていたものほどではなかったが、そこまで酷い乗り心地でもなかったのは幸いだった。
正直、どれほどの質問攻めにあうのかと思い辟易としていたが、意外にも教師たちは精々火竜の場所を聞くだけで俺たちを放っておいてくれたのは少し不自然に思えたが、魔力の大部分を消費してしまった俺はもちろん、火竜との戦闘という久々の緊迫感にさらされてかなり疲れていたルインは、放っておいてくれることを良いことに馬車の中でぐっすりと眠った。
それに、ルインは何かあの火竜に対して何か思うところがあったようだし、眠って気持ちを整えてもらいたかったしな。
火竜討伐部隊は、落下した火竜を捜索する部隊と学園に帰還する部隊に分かれて行動し、俺たちは帰還する部隊について行って学園に向かった。
この街には石造りの建物がそこかしこに立ち並び、常にたくさんの市場が開かれている。
その街から延びる街道は街の外にもつながっており、その果ては見えない。
市民はもちろんのこと、商人や旅人、はたまた鍛冶職人や魔道具職人などの様々な人々がその街に集っている。
――しかし、この街の真に特筆すべきは物はこの街の中心部にある世界最大の学び舎であるだろう。
プライレス国際総合学園。
この街、学術都市プライレスの発展の要にして、誕生のきっかけとなった学園だ。
この学園はこの街の政治の中枢も担っており、歴代の学園長と議会による話し合いにより今後の政治の方針を定めていく自治区である。
また、この学園は学ぶ意欲のあるものを拒まない。
たとえどんな種族であろうと、この学園の門をたたくものは平等に受け入れるのだ。
この学園の教育は素晴らしく、多くの国の王侯貴族はこの学校の卒業を義務とされているほどだ。
かくいう私も、この学園の卒業者である。
この本を読んでいる皆さんも是非一度この街と学園を訪れてほしい。
きっと、素敵な出会いがあなたを待っていることだろう。
~~冒険家ルフラン・フリーマン著 『美しき世界』より~~
「あなたたち、もうすぐ到着ですよ。起きなさい」
馬車の中で眠っていた俺はその声によって目が覚めた。窓から見える光はすっかり赤く染まっている。かなり長い時間眠り込んでいたらしい。
声の主は女性で、窓からこちらを覗き込むようにして声をかけていた。胸に学園のエンブレムが入ったバッジをつけているため、どうやら教師のようだ。
「すいません、ありがとうございます」
「いいのよそんなこと。それより、そこの眠り姫さんも起こしてあげなさい」
その優しそうな女性教師は、それだけ言って窓から顔を引っ込めてしまった。
「眠り姫ね……とてもそんな風には見えん」
そこには、良く言って無防備な顔、悪く言って大口あけたあほ面全開で眠るルインの姿があった。もうそろそろいびきの一つでもかきそうな勢いである。
窓の外を見ると下には大きな街が広がっていて、もうすぐ学園に到着しそうだ。気持ちよく眠っている所悪いが、これは確かに起こしたほうがよさそうである。
俺は一瞬、いつかのルインがやって来たような起こし方をやって仕返しでもしようかととも思ったが、ルインの寝顔を見ているとなんだか馬鹿らしくなってきたので普通に起こすことにした。
「おいルイン、起きろ。もうすぐ学園に着くぞ」
「…………んむぅ……あと五分」
いくら起こしてもルインは起きる気配を見せず、うんだとかむうだとか意味の無い声をだすだけだった。
「ふふふ……こんなにお菓子食べられないよぉ……でもライ君にはあげな~い……」
「おいどういうことだ。俺にも寄越せ」
こいつ、夢の中で自分だけもう食えないとか言いながら菓子食ってやがる。せめて夢の中でもいいから俺にも分けて欲しい。
「……やだ」
「お前実は起きてるんじゃないのか?」
「…………ぐう」
あ、完全に寝てるわコレ。
「おーい、起きろー」
結構強めに体をゆすってみたが反応なし。もはやさっきみたいな寝言すら漏らさなくなってしまった。
「どうしたもんか……あ、そうだ」
妙案を思いついた俺はさっそくそれを実行に移すべく、ルインの耳元に顔を寄せて、低い声で囁いた。
「ルイン、このすごく甘そうなケーキ、俺が食ってもいいか?」
「だめっ!!」
その一言でルインは飛び起きた。
寝ぼけているのか、それとも大真面目にケーキを探しているのか――多分後者だと思う――、周りをキョロキョロと見まわしているルインの様子が可笑しくて、俺はついつい笑ってしまった。
「ケーキ、ケーキは何処!? ……って、なに笑ってんのさライ君。ま、まさか!?」
「いやすまんすまん、お前がなかなか起きないから……くっくっく」
「ひ、ひどい! 私の純情を返せ!」
果たしてそれは純情などと言える代物なのだろうか。むしろただの食い意地だと思う。
「ほら、今度何処かに食いに連れてってやるから」
「約束だよ! 言質は取ったからね!」
「はいはい。それはそうと、もうすぐ到着だぞ」
「え、ほんと?」
ルインはそう言うが早いか、窓から顔を出して外の景色を見た。
「うわぁ、きれいな街」
「そうだな」
その後、俺とルインは上空からの街の景色を堪能し感想を言い合った。
当のルインは、街のケーキ屋やお菓子屋をいち早く見つけだしていて、もうすでに俺に連れて行ってもらうところを吟味しているようだったが、下手すると全部連れてけなんていうかもしれない。
……俺の財布は大丈夫だろうか。
俺は早くもさっき言ったことを後悔し始めていた。
そんな俺やルインのことなどお構いなしで、魔導馬車は進んでいく。
そしてついに、この街の中心、プライレス国際総合学園に到着した。