第48話 スワト会
レオンの隣に座っていたエディは「俺は部屋に戻るよ」と言っていなくなった。その時にいつものごとくわたしの頭を叩いたのはやっぱりよく分からない。わたしの頭を叩くのが趣味なのかな。
「メアリ、座れ」
ラムズは席につくと、わたしにもそう促した。既に注文は済ませてある。机にエールが二つ載っている。レオン、ラムズ、わたしの三人で、その丸い机を囲んだ。
わたしが椅子に座ったのを見て、ラムズは話し始めた。
「とりあえずお前らに、この街で気をつけてほしいことを話す」
「警告ってことか?」
「まあそんな感じだ」
「オッケー、聞くぜ」
レオンは興味深そうに身を乗り出した。
「この港町アゴールに、スワトという男が来ている。スワトは、スワト会を率いている男だ。こいつに注意してほしいんだが……。そうだな、まず光神教は分かるか?」
「光神教なんて、言葉からしてヤバそうな雰囲気を感じるぜ」
隣で変にわくわくしているレオンを無視して、わたしはラムズに返す。
「えっとー……、プルシオ帝国で主に信じられている宗教よね」
「ああ。だが最近はハイマー王国も大きく影響を受けている。このスワト会のせいだ」
レオンは頭を振って、眉をひそめた。早口でラムズに言う。
「待てよ待てよ。俺地理は苦手なんだ。俺たちが今いるのはハイマー王国だっけ?」
「そうだ。南大陸の東側を占めている国だな」
「じゃあプルシオ帝国はどこに?」
「ここから大洋のタラタ海を挟んで、北大陸にある帝国だ」
「オッケー。理解した」
レオンは国のことも知らないんだものね。大変そうだわ。ここで生きていくうちに段々と分かってくると思うけど。わたしも海から出る前はほとんど知らなかったし
(この世界には、南大陸と北大陸、あとは東側にペイナウ大陸っていう小さい大陸がある。ペイナウには大きな国はないわ。砂漠地帯だからかな。タラタ海を囲むように、北と南、東に大陸があるの)。
納得したレオンを見て、ラムズは口を開いた。
「話を戻すぞ。レオン、この世界の神の名前は全部覚えたか?」
「もちろん。
第一神 地の神アルティド
第二神 風の神セーヴィ
第三神 水の神ポシーファル
第四神 火の神テネイアーグ
第五神 光の神フシューリア
第六神 闇の神デスメイラ
第七神 時の神ミラーム
これで合ってるよな?」
「ああ。七人の神に優劣はなく、最高神や主神というものも存在しない。司るものが違うだけで、同等の神だ。だが光神教は、このうち光の神フシューリアを最高神だと考えている宗教だ」
レオンはとんと自分の手を机の上に乗せた。
「いや、待ってくれよ。ラムズの言う『七人の神に優劣がない』っていうのはさ、それもある種一つの考え方なんじゃないのか? 光神教が正しい可能性だってあると思うんだけど」
せっかくいい所まで来ていたのに、レオンがそう話の腰を折った。さらに何を言っているのかもよく分からない。でもラムズはその発言を聞いて、むしろ感心したように頷いた
(これって、わたしだけが分かってないってこと?)。
「レオンはなかなか鋭い。そう言うなら教えてやろう。俺は神と話したことがある。その時に神の一人が言っていたんだ。『俺たちに優劣はない、全員が同等の神だ』とな。だから俺の言ったことが正しい。光神教は自分たちの思惑に合わせて神のあり方を勝手に変えているだけだ」
「いや待て! 神と話した?!」
レオンは瞠目してそう声を荒らげた。なにを驚いてるんだろう? 変なレオン。わたしは口を開く。
「ラムズは王様なの? 人魚は王様しか神様と話せないのに……」(*1)
レオンは、『神様と話せる』ってことにピンと来ないのかしら。神と話したことがある人がいないと、使族のことも依授のことも分からないのにね。神様がこうやって誰かに伝えたから、世界に広まっているのに。
わたしは、人魚の王様が金の腕輪を持っていることを思い出した。たしか、それを持っているから神と話せるって話だったわよね。
「ねえ、もしかしてラムズは金の腕輪を持っているの?」
「えっ? 金の腕輪って何だよ?」
また驚いているレオンに、ラムズがぱっと釘を刺す。
「おい。話を逸らすな。金の腕輪とか神と話した件については今度だ。今は光神教の話だ。とにかく光神教は、光の神フシューリアを最高神だと考えている。光の神フシューリアの司るものは?」
「えっとー。“光”ね。あとは“命”とか」
「メアリって意外としょぼいな。俺の方がもっと言えるぞ。“正義”、“自由”、“有”、“勇気”……」
レオンが馬鹿にしてきて、わたしはカチンと来た。わたしは今まで海の中にずっと住んでいたから、そんなに神様の話なんて気にしなくてよかったんだもの。
人魚は水の神ポシーファルだけが創った使族だし、そんなに色々知らなくても生きていけるもん。
ラムズはレオンの羅列した言葉を聞いたあと、ゆっくり頷いた。
「二人とも合っている。それに加えて、光の神は“無謀”や“無秩序”も表す。行き過ぎた勇気が無謀だな」
「あー。光っていて真っ白な場所は、たしかに闇よりも“無秩序”って感じがするよな」
「ああ。光神教はそのうちの“無秩序”を利用している。『フシューリアが最高神だから、世界は混沌に満ち溢れているべきだ』という馬鹿馬鹿しい理念を唱え、戦や争い、人が混乱することを好んでしようとする宗教だ」
ラムズの説明に、レオンは顔を歪めた。さっきからコロコロ顔が変わってて、見てて面白い。
「なにそれ、めちゃくちゃだな! そんな風に利用されるなんて光の神フシューリアも可哀想だな」
「人間なんてそんなものだ。そしてこの宗教をこの国ハイマー王国で浸透させているのが、スワト会だ」
「スワト……」
レオンはそう言って頭を傾げている。聞いたことがあるのかな。考えてみればわたしもあるかも? どこかでスワト会が活躍した話を聞いたのかな。きっとレオンもそうね。
それにしても、光神教は意味不明ね。そもそもフシューリアを最高神にしている時点で理解できないけど、世界が混沌に溢れているべきって……。頭おかしいんじゃない?
「スワト会は光神教の先駆者と言ってもいい。つまり、あいつらは人間が混乱するようなことを好んでやる奴らだ。スワトは裏社会の王とも言える」
「……裏社会か」
「裏社会? 表と裏? どういうこと? 何が表で何が裏なの?」
レオンとラムズに同時に溜息をつかれた。
どうしてレオンにまで呆れられているの? レオンは異世界から来たのにわたしの方が知らないなんて……。いや、人間のことだから知らないのは当然よね。
そういえばこの前、レオンはわたしにも「裏表がない」とか言っていたわね……。
レオンの方が説明してくれるみたい。彼はわたしに向かって話し出す。
「裏社会っていうのはさ、うーん。人間でいう光と闇みたいなもんなんだよ。人間っていうのは、他人の前ではいい顔をすることがある。でも心の中では悪いことを考えている。裏社会っていうのは、社会の悪い部分を指しているんだ。犯罪とか暗殺とかそういうのかな。メアリがやっている海賊行為だって、一応裏社会のものって言えると思うな」
「ふーん。なんか分かったような気もする」
ラムズは背もたれに体を預けて、深い溜息を吐いた。
「……ハァ。お前らと話していると本当に疲れる。話が進まない。とにかくスワトは犯罪者の王みたいなものだ。それで分かるか、メアリ」
「ええ、分かったわ。多くの人間が嫌だと思うことや法律で裁かれるようなことをたくさんしているってことね」
「そんな感じだ。そしてスワト会は化系殊人を雇っている」
「えっとー、見た目と性格が変わって、貰える神力がけっこう凄いものばっかで、あとは同じ神力を持つ者がたくさんいる。これが化系殊人だよな?」
レオンはそう言うと、「俺すごいだろ」みたいな顔でわたしを見てきた。──全然すごくない。こんなの当たり前のことだし。
でも異世界から来たレオンにしては頑張ったのかなー。せっかくだから褒めてあげよう。
「はいはい、すごいわね」
「覚えるの頑張ったんだぜ」
「ハァ。そんなことはどうでもいい。それでスワト会が雇うのは、多くはシーフとシャドウキラーだ」
「俺、それなんとなく分かるかも。盗人と暗殺者って感じか?」
「なんでわたしに分からないのにレオンが分かるの……」
異世界とわたしたちの世界って、通じるところがあるのかしら。わたしが知らないのにレオンが知っているなんて、なんだか落ち込む。
陸に住む化系殊人なんだし、仕方ないってことで自分を慰めておこ……。
「レオンの言い分で合っている。
シーフは、
謎かけの答えである名前
答えを間違えた者の所持品を無断で盗む能力
名前を知っている者以外に殺されない性質
爪のない指
──という神力を持つ」
神力は神に依授された新しい力のことだ。依授によって変化したことなら何でも──つまり容姿とかも入るんだけど……。
ラムズが挙げた四つの神力、それぞれの意味が全然わからない。謎かけっていうのはさっき聞かれたやつ? わたしは首を傾げる。
とりあえずエールでも飲もう。わたしがグラスに手を伸ばしたら、先にラムズに取られた。わたしが睨むと、ラムズが溜息を吐きながら言う。
「ただでさえ説明が大変なのに、酒に酔ったらもっと理解できなくなるだろう。メアリは黙って聞いてろ」
「う、うう……。たしかに……」
「俺は?!」
「お前もだ。あとで飲め」
レオンは項垂れたように頷いた。そりゃそうよね。レオンだけ飲めるなんてずるいもの。ラムズはグラスに口を付けて、エールをぐいっと飲んだ。酔っている風は全くない。お酒に強いのかな。
*1 人魚の王様
(人魚は一応、世襲制で王様が決まっている。といっても人間の王様みたいにやることがたくさんあるわけじゃないわ。
わたしたち人魚は自分の身は自分で守ってるの。それに、人魚同士の殺し合いや喧嘩はほとんど起こらない。装飾品なんかがあるわけでもないし、物を売り買いすることもない。窃盗もないわ。
食べ物は自分たちで海の中の海藻(海の中にいる魔植よ)なんかを取って食べているわ。それ以外に必要なものってあったっけ? 陸みたいに国はないし、だから税金もない。そもそも“お金”が存在していない。
王様は象徴的なものね。何か相談事があったら会いにいくけど、人間の王様みたいにすごく尊敬されているとか、崇められているとかってことはないわ。だから気軽に会いに行ける。そう、それで人魚の王様は、金の腕輪を使って七年に一回好きな神様と話すことができるのよ)
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