▶これまでのあらすじ◀
【第5巻「玩具の町と銀の塔」までのあらすじ】
by ラムズ・シャーク
前章でクリュートという街に関するクエストを受けたわけだが、話をもう少し前にまで遡ろうか。
俺たちは人魚メアリの焦げた鱗を治すために、フェアリーに会いに行かなければいけない。だがフェアリーと話すためには、フェアリーの言葉を話せる、いわゆるフェアリー語翻訳家ならぬ者が必要だ。
ベルンにて、ウィルスピア・ワトーという少年を見つけた。そう、彼がフェアリーの言葉を理解する神力を持っているわけだ。
だが物事はそう上手くいかない。ウィルスピアの乙女の森(フェアリーがいるところだ)同行の条件として、クリュートのクエスト完遂を申し渡された。
このクリュートでのクエストが、前章の話だ。
子供の消える街──クリュートは、神造域になっていた。
クリュートに出かけた人間が帰ってこないとか、子供が消えるとか、その他摩訶不思議な現象は全て「クリュートが神造域だから」で片付けられる。
神造域ってのは、聖具が最初に落ちた場所のことだ。聖具は、神が創った魔法の道具みたいなもんだな。
神造域にそれ以上の定義はない。この世界の法則が通じない所とでも言えばいいのか? 起こりうることは、その場所それぞれで違ってくるんだ。
しいていうなら、神造域は入口で神門と呼ばれる門の建物が現れる。古びた白い大理石の門だ。
クリュートで、俺たちは神に会った。
この俺でさえ、神の姿を見たのはこれが初めてだ。金の腕輪は神との通信器具のようなものだからな、面と向かっては話せないんだ。
メアリは、歌で相手を操る神力について釘を刺された。地の神アルティドが依授したんだってな。
そうそう、アヴィルも言っていた通り、これは本来セイレーンという化系殊人になるはずの依授だ。つまり人間しか持たないはずの神力。
人魚は、歌で相手を操るなんていう根も葉もない噂のせいで嫌われているわけだが、このセイレーンこそ、そんな誤解を生む元凶と言ってもいい。
なぜ地の神アルティドが、皮肉にもそんな神力をメアリに与えたのかは────、さて、な?
水の神ポシーファルは他にもわけの分からんことを言っていたようだが、もうその辺りは無視しよう。
俺の元には時の神ミラームがやってきた。
ミラームとの会話自体はどうでもいい。どうせ分かんねえだろ。
大事なのは一つだけ。俺が魔法にかかったってこと。
どんな魔法かって? それくらい自分で調べろ。あとはそうだな、魔法を解く鍵についても知っておいていいんじゃねえか?
それから、俺はメアリに季節の話をしてやった。ペガサス(*1)が出てくる話だ。だがペガサスがいた処女の森は死んだのさ。三年前、プルシオ帝国がニンフ(*2)を虐殺したせいで。
あとはラミア(*3)の話もしてやったっけ。その時俺はメアリの血を飲んだんだ。味? 味なんてもう覚えてねえよ。
そして、俺の不手際のせいでメアリはラミアという使族のアヴィルに拐われた。
ラミアは人間を食う使族だ。銀髪で、《完全治癒》という能力を持っている。ようは異常に回復力があるってこった。
ラミアは“束縛”と“嫉妬”という言葉で評される使族だ。メアリはアヴィルに溺愛されて、一ヶ月間銀の塔に閉じ込められていた。
そのあいだに俺は一旦首都ベルンに戻り、海賊になりたい商人のアリスティーナと落ち合った。もちろんギルドにクエスト完遂の連絡はしたし、ウィルスピアももう手の内だ。
そして、彼らにも協力を要請してメアリを助け出し、俺はアヴィルを殺した。
殺したことの言い訳はしない。ただ殺したかった、それだけだ。いいことだとも悪いことだとも思ってない。ただそう生きるしかなかったんだ。あの場にいた誰もがな。
メアリは泣き続けているから一応慰めてやったさ。結局彼女は本当にアヴィルを愛していたのか、ただ辛い環境の中で彼を頼るしかなくおかしくなってしまったのか、それは俺にも分からない。いずれ分かる時は来るかもしれねえな。
ただアヴィルのためにも、これだけは言っておいてやろう。アヴィルは本当にメアリを愛していた。ラミアは嘘をついてあそこまで人を愛することはできない。メアリを閉じ込めた以上、彼の愛自体は本物だったんだろうよ。
それが正しい愛なのか、間違った愛だったのか──それを決めるのは俺じゃない。
一方レオンだが、ゼシルという騎士の男の協力で、同じ転移者の黒須熾衿を助け出したあと聖ナチュル国に向かうことになっている。
ゼシルは崇神教(*4)の教祖だ。口の中に光る鱗粉があって、胡散臭い「お分かり?」が口癖の騎士の男。
今回のクリュートに関しても、ゼシルは一枚噛んでいたようだな。誘童笛(*5)に手を出したわけじゃねえからどうでもいいが。
さて、次はレオンたちの様子を見てみよう。
俺がメアリを助け出したのは虚(*6)という季節が終わる頃だが、次の話は虚が始まった日にまで遡る────。
*1 ペガサス
(地の神アルティドが創った使族だ。魔物じゃねえぞ。翼を持った真っ白なヒッポス(馬)とでも考えておけばいい。こいつらは処女としか話さない)
*2 ニンフ
(こいつらも使族。自然に住んでいて、山にいる者はオレアード、海はネレイド、川はナイアド、木に住む者はドライアドと呼ばれている。それぞれ、草や水泡でできた髪の毛や服を着ている。名前は似てるが、エルフとは全くの別物だ)
*3 ラミア
(風の神セーヴィ、闇の神デスメイラ、時の神ミラームが創った使族。初めは人間の子供として生まれるが、15歳の頃から髪の色が銀に変わり始め、18歳で完全にラミアとなる。子供は作れず、10歳以下の人間の子供を食べて生きている。今回のクリュートは、ラミアの食べ物を用意するための街だったな)
*4 崇神教
(ゼシルが作った宗教。七人の神を同等と見なしている。使族は皆神から試練が与えられていると考え、真っ当に生きていくべきと唱えている。ようは、とりあえず神様信仰しとけって感じの宗教だ)
*5 誘童笛
(聖具の一つだ。聖具ってのは、神様が地上に落とした魔法の道具のこと。この笛を吹くと、子供が操られてその者の後ろをついていく仕組みになっているらしい)
*6 虚
(この世界の季節は、春、冬、夏、虚と回っている。一年は七ヶ月で、虚だけが一ヵ月しかない。虚のあいだは太陽と月がなく、すなわち夜と昼の区別がない。一日中薄暗い天気だ。風も雲もなく、太陽による影も生まれない。不気味な季節だと言われ、例えば聖具が落ちるのもこの季節であることが多いな)
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各章の最初に、毎回このようなあらすじがのっています。今までの話を忘れてしまった方は、その全章分(2巻~5巻)のあらすじを読めば少し思い出せるかなと思います。その他の設定については、設定集等を適宜利用してください。
作者の一番のエネルギーは読者様の声なので、一言でも感想等投げてもらえると凄く嬉しいです。これからまたよろしくお願いします…!




