最下層【居住区画】7
「俺こう見えて強いんだぜ? 絶対損はさせないからさ!」
「えぇっと……」
先ほどのやり取りがすぐ後ろから聞こえてきた。いつの間にか近くにまで来ていたらしい。
というかまだやってたのか。
悟られないように目を向ける。
「一人より二人、ってのが俺たちの常識よ!」
「で、ですが」
言い寄られている女性は、成程可愛らしい、整った顔をしている。
ちょっと腕に自信のある男であれば言い寄らない理由が無いくらいには。
男の方は一見すればよくいるタイプの優男。だがその言葉通り、装備のレベルは悪くない。
見掛け倒しでないのなら彼女にとっては良縁と言える。
周りも僕と同じ考えなのか、止めに入ろうとする者はいない。
強引ではあるが、無理矢理ではない。
むしろあれぐらいを軽くあしらえるくらいでなければここではやっていけない。
良くも悪くも彼女にとっていい勉強になる事だろう。
そう一人で納得し、目を放そうとしたとき。
「ッ!」
彼女と目が合った。見たことのある、助けを求める目。
「…………」
けれどそれに応える理由が僕には無い。
そのまま視線を切り、この場を去ろうと――
「わ、私、仲間居ます!」
「へ?」
男が素っ頓狂な声を上げる。
同時に、僕はとてつもなく嫌な予感がした。
足を速め、離脱を図る。
「あ、どこに行くんですか! 待ってください!」
「え、あ、おい!」
彼女もこれ幸いと僕を追いかけるようにして男から離れる。
僕の勘が警笛を鳴らす。これはまずい流れだ。