最下層【居住区画】3
軽薄、無遠慮、尊大。彼を表す言葉は大まかに言ってこの三つ。
これで実力もあるというのだから手に負えない。
もっとも、彼自身がそれを意識している訳では無い。
有言実行と言うのか、彼は口にした事は必ず成し遂げてきた。
皆が無理だと諦めるような事でも、彼はやってのける。
有名なのは、彼がまだ実力者だと思われていなかった頃。
畑の管理域で【sc】が暴れている、という報告が入った。
運悪く、その時間には腕の立つ者は皆探索へ上がっていて、対応に困っていた所に彼が勢いよく声を上げた。
「どうしたんだい、狼型一匹程度ならどうとでもなるじゃ無いか」
皆は愕然とした。
狼型、と言うのは【sc】の種類で比較的弱い部類に入る。
しかしそれは探索をする者達からすればの話であり、ましてや見るのも珍しい怪物相手に戦いを挑む、というのは想像も出来ない事だ。
そして、この頃の彼はまだ探索者では無く、ただの一市民。
当然、その発言には多くの反発が返ってきた。
そしてその声を無視して、と言うかむしろ声援を受けるかのごとく彼は微笑みながら、その【sc】を退治した、と言う。
使ったのは立てかけてあった鍬一本。
彼は本当に、たった一人でどうにかしてしまったのだ。
戻ってきた探索者達共々、賛辞の声を掛けられた彼はこう言ったらしい。
「私は出来る事をしただけで、こんなに騒がれるような事は何もしていないよ」と。
ここだけ聞けばまるで聖人のように聞こえるが、そうでは無い。
普段の行いから考えれば、彼は問題児なのだ。
規律は破るし、人の話はまったく聞かない、おまけに女性に対して行きすぎたアプローチの噂にと、そう言った話には事欠かない。
それでも一部同年代の男達からは支持を得ていたようで、その取り巻き含め煙たがられていたのだが。
「はっはっは、トートス店主、今月は豊作だったよ。思いの外奥まで探索したのがよかったみたいだ」
「そりゃよかった、よかったが取りあえず上を着ろ、何が悲しくて男の裸なんぞ見なきゃならん」
「帰りに破かれてしまってね、生憎替えが無いんだ。我慢してくれ」
「そんな軽装で探索に出るからだろうが……」
彼はその実力を示し、探索者となり、『大言の探索者』そんな通り名が付けられた。