最下層【居住区画】2
「しかし中層クラスの稼ぎが20コルぽっちじゃ、そりゃ愚痴りたくもなるよな」
「ぐ……っ!」
「普通、その辺りの探索者なら日に三桁は越すって話だからなぁ?」
「ぐはぁ……っ!」
「まぁ、中層に到達して日が浅いんじゃ仕方ねぇか」
一通りからかって満足したのか、トートスはそう言って煙草取り出して咥えた。
が、咥えるだけで火を付けるそぶりは無い。
「仕方が無いんだよ、僕も行くまでは知らなかったけど、中層は下層とは用途が違うんだから」
「なんだ、下調べもしてなかったのか」
「まだ中層に上がるつもりは無かったし、様子見程度のつもりだったんだよ」
「なら驚いたろ、ここと比べたらあそこは綺麗すぎるからな」
「あぁ、人の痕跡がまったく無かったよ」
完全にオートメーション化された工業区画、それが中層。
ここで作られた製品、家電や食料、果ては動物までもが居住区へと送られてくる。
いや、送られてきていた、だ。
今ではもう工場は動いていないし、僕達にとってここはガラクタを漁る為の倉庫みたいな物だ。
だと言うのに。
「あらかた回収され尽くしたにしても、あれは綺麗すぎるよ。まるで最初からあそこには何も無かったみたいだ」
「行った奴は皆そう言うよ、期待外れだってな」
「あれじゃ下層の方が稼げそうなくらい……、通りで皆エアラインの方へ行くわけだ」
「まぁあそこはあそこで悪くは無いんだがな、何より――」
トートスがそこまで言いかけた時、店のドアが激しい音と共に開いた。
何事かと二人して入り口を見やると、そこには見知った顔が立っていた。
高い背に筋肉質な体躯、こんがりと焼けた肌のテカりが何とも言えない。
「やぁやぁお邪魔するよ、トートス店主!」
「面倒なのが来た……」
「今日は厄日だな」
二人してため息を吐く。