最下層【居住区画】
「しめて20コルって所だな」
カウンターに並べられたそれらを指して、店主トートスはそう告げた。
見るからに用途の無さそうなガラクタに付いた値段としては、そこそこだろう。
「こいつは前に一つ5コルで買い取ってくれたじゃないか」
が、それはあくまでそれらの用途を知らない者の感想だ。
そもそもこんな物を買い取る物好きが居るのかという話になるが、もちろん居ない。
それらをガラクタでは無く、資源としてみている人間以外は。
「あぁ、あの時はな。あんまり見ないブツだったからその値段だったが、思いの外捌けなくてな」
「そりゃ無いよ、ただでさえ今日は少なかったのに」
「嫌なら持って帰れ、まぁ他じゃさらに買い叩かれるのが見えてるがな」
良いながら、その太い腕を組む。
ここの店主は、なぜこんな店をやっているのかと思うほど引き締まった身体をしている。
初見の人間からすれば、その風貌で入る店を間違えたのでは無いかと勘違いを起こす事だろう。
というか実際に僕がそうだった。
初めて訪れたときには、思わず二度見してしまった。
しかし、店主としての腕は確か。
ここらへんで買い取りの店と言えば、まずトートス雑貨が話に上がるし、そうで無くともこの集落での買い取り相場はこの店を基準としていると言ってもいい。
だからこそ、この台詞が嘘で無いことは理解できる。
集客で一番と言って良いこの店の買い取り価格を越える店が無いであろう事は、明白だからだ。
「……わかった、それでいい」
「あいよ、毎度あり」
並べられていた物を袋に詰めて、店の奥へと消える。
戻ってきた店主の手には、小さな袋。
「ほら、20コル」
「ん…………確かに」
その袋を受け取り、中身が間違いない事を確認して懐へとしまう。
疑っているわけではないが、人間のすることに完璧なは無い。
万が一の事を考えて、その場で確認するのは常識だ“
後で足りませんでした、なんて事になったら目も当てられない
「そう気を落とすな、今日は運が無かっただけだろ」
「それはそうだけど、さすがに1日の稼ぎが20ってのは面白くないよ」
「あー、それでもお前は歳の割には稼いでる方だろ? うちに来る客の大半は、多い奴でも30後半ってとこだからな」
「そりゃあ最下層辺りの稼ぎならそれが限界だろうね、そもそもからして比べるのがおかしいよ」
「さすが、中層に到達した人間の言うことは違うねぇ」
なにが面白かったのか、店主はそう言って笑う。
中層、正確には中層の第二区画だが、ついに先日僕はそこへ到達した。
全六層からなるこの地下シェルターだが、そのほとんどの部分が特異生命体、通称【sc】に占領されてしまった。
それでも先人達から僕達に至るまで、多くの探索者がその殲滅にあたったおかげで何とか最下層あるこの居住区画と、下層第二区画の安全が確保できるまでに至った。
二百年、それだけの時間をかけてたったの二層。
そしてさらに上の層にはもっと多くの【sc】が蔓延っている。
「まだ、中層だよ」
人類は、果たしてもう一度地上へ戻れるのだろうか。