【名も無き探索者編】完
世界が揺れていた。
大きな地鳴りを伴うそれは、さながら世界の終わりかの如く。
「そんな、早すぎる!」
驚嘆の声。
少女が見せる初めての動揺。
その傍らには、先程まで軽口をたたいてた少年が横たわっている。
そしてそれは動かない。話さない。
深々と刺さった短刀が、その原因だろう。
気を失ったのか、もしくはすでにこと切れているのか定かでないが、その傷口からあふれ出る血を見れば取り返しがつかない事態なのは間違いない。
「……まさか見つかった?」
訝しげに少女が呟く。
その表情からはこれまでの様な余裕が感じられない。
少年と共に来た少女。
少年を謀った少女。
少年を害した少女。
「どちらにしても帰還は不可能ね」
彼女が何者で、何の目的をもってこの場所を目指したのか。
「連絡を取ってしばらく様子見、しかないか」
それを知るかもしれなかった少年は動かない。
「たかがシェルターとなめてた報いかしら」
少女は外套を羽織り、顔まですっぽりと覆い隠す。
「ま、気長にやりましょ、時間はたっぷりあるし何より」
うってかわって楽しげな声を発した少女は歩く。
「生き残りが居る事だしね」
動かなくなった少年を、一瞥する事なく。
この日、探索者であった少年は名を語る事なく、ひっそりとその生涯を終えた。