■層【■■区画■■部】
「――すが――――題が」
……生きてる。
意識が戻ってまずすることは状況の確認。
身体に違和感は無し。出血等も問題ない。
衝撃の瞬間、死を覚悟するほどの痛みだったのにも関わらず外傷が無いのは不思議だ。
手足に口は拘束されているが、ひと先ずは生かされた事に安堵しよう。
「では追って連絡します」
誰かと話す彼女の声。
けれど相手の声は聞こえず、目視できる範囲に彼女以外の人物は見当たらない。
「あ、起きた?」
こちらに気が付いた彼女が、そう言いながら近づいてくる。
先程はよく見えなかったが、何かを手に持っている。
それをしまいながら僕の前へしゃがみ込み、彼女は話し始めた。
「いやー、ずいぶん警戒してるみたいだったからハッタリの可能性も考えてたんだけど」
「それともそもそもが私の勘違いだったかな?」
「まぁ出会い頭にあれだし良い印象は無かったか」
「でもおかげで私の目的は無事達成したよ、ありがとうね」
返事ができない僕を余所に、彼女は捲し立てるように話す。
異様だった。
無垢な振りをしていた彼女と、通路での平坦な声の彼女。そのどちらでも無い。
終始楽しそうに話す彼女に僕は底知れぬ気味の悪さを感じていた。
「保険のつもりだったけど」
「もう君を生かしとく必要無くなっちゃった」
一転、彼女の声音が変化する。
平坦に、無機質に、冷酷に。
僕に死を告げる。
「ってことで最後に恨み言の一つでも聞いてあげましょう」
「ングッ」
口元を塞いでいた布が解かれる。当然手足の拘束はそのまま。
疑問は山ほどある。
何が目的なのか、何故僕だったのか、そもそも彼女は何者なのか。
けれどそれらの一切合切を飲み込んで、今言うべき事を吐く。
「下着見えてるぞ」
「……死ね」
瞬間、表情の消えた彼女がいつの間にか手にしていた短刀を僕へ振り下ろす。
僕はそれを眺め、あっけない物だな、と考えていた。
これまでも、死の危険に冒されたことは幾度とあった。
それらを文字通り死に物狂いで乗り越えて、僕は中層への道を見つけたのだ。
その終わりがこれだ。
(次は幾分かマシな世界でありますように)
そう願った刹那。
世界が揺れた。