下層【廃屋】
接敵回数ゼロ。
それは僕が探索者となってから初めての事だった。
生体レーダーのおかげか、彼女の手腕が凄いのか。
おそらくはその両方。
何はともあれ、僕たちは【sc】と出会う事無く目的の場所までたどり着いた。
「これが……」
中層へと上がるための通路。その一つ。
「ここは多分、僕以外にはまだ発見されてないと思う」
されていたとしてもかなり少ないはずだ。
「まさか屋内にあるとは、盲点でした」
「もっと言うならご丁寧に家具で埋まってた」
「そこまで行くとまるで意図的に隠されていたかのようですね」
そう言われてみれば、なるほど。
先に発見した人間が秘匿の為に隠したとも思える。
しかし。
「んー、それはないかな」
「根拠を聞いても?」
「家具、とは言ってもほとんど風化寸前で、埋まってるというより覆っていたって感じだから」
実際、少し力を込めただけで崩れてしまったし。
「なるほど、それでしたら可能性は低そうですね」
「まぁ見つけたのは偶然、さらに結構前の事だからもう何人かは気づいてるかも」
こんな所にまで来る変わり者がいれば、の話だが。
「というか、既に中層への道は他にあるんですし、わざわざここを通らなくてもいいのでは」
「そこはほら、せっかく見つけたんだからさ」
もったいない様な気がしてしまう。
何より、自分で見つけたのだから使いたい、と思うのが通りだろう。
「それだけ面倒も増えるんですけど」
「一応僕は通った事があるから、そこらへんは大丈夫」
「何かあったら恨みますからね」
「突発的な事にまでは責任は負えないんだけど」
【sc】についてはレーダー頼りだから問題は無いし、通路の安全は前に確かめた。
問題はない。
「じゃ、行こう」
「先頭はお任せします」
「あ、うん」
なんだろう。
さっきまであれだけ明るい少女の体を崩さなかったのに、ここにきて急に雰囲気が変わった。
中層を前に緊張してる、とかか?
背後の少女に気を向ける。
あれだけ話しかけて来ていたのに、今ではだんまり。
それは喜ばしい事の筈なのに、僕の中では何とも言えない不安が膨らんでいた。