下層【商業区画】4
「何かわかるかもしれません」
彼女がそう言ったのは、僕が中層で見た物の話をした直後。
その言葉は今の僕にとってありがたかった。
正直言って僕は機械類についての知識が皆無だ。
それが利益となるかどうかの判断はできても、用途まではわからない。
昨日のD型キャブレッサーにしても、それが希少であることは知ってはいるが、それがどういった目的で必要とされているのか、どんな役割を持つのかまでは把握していない。
だから中層へ至った時の僕の感想は「面倒臭そう」だった。
下層と違い、機械が規則正しく並んでいる場所がいくつもあり、そこまで荒れていない。
それらが作られてから膨大な時間が流れた筈なのに、見てわかるような劣化が殆どないのだ。
下層なら、家屋を漁れば『何か』の部品や機械が転がっているが、ここではそう言ったことは無い。
中層は違う。装置として形を保ったものが並んでいるだけだ。
そしてその装置が何なのか僕にはわからない。
いや、完璧に把握している者などもはやいないだろうが、それでも知識のある者ならある程度の推測はできるだろう。
その知識が無い僕には、何を優先的に回収すればいいかの判断ができない。
というか回収するための技術が無い。壊してしまいそうで触るのが怖い。
「……探索の主な収穫物ってそういった物の筈なんですけど、今までよくやってこれましたね」
「どうにも、頭に入んないんだよ。説明されてもその時だけで、次の日には売れる売れないの二種類に区分されてる」
「ある意味大物ですね」
「それでも中層に行けるまでにはなれるんだから、僕としては問題ないんだよ」
「その問題が今発生しているのでは?」
「…………」
何の反論も出来なかった。
「正論は時に人を傷つけるんだぞ」
「それを糧にできるかどうかが大成する分かれ道だと思いますけどね」
(たぶん)年下の少女に諭された。
ここ数年で今ほど自分の怠慢を呪ったことは無い。
帰ったらトートス店主に教えを請おう。事情を話して大笑いされるだろうが仕方がない。
今のこの屈辱に比べればどうと言う事は無い。
心の中でそう決意して、それでも数日はそれをネタに弄られるであろう事は確実だろうなと。
僕は憂鬱ながらに歩みを進めた。