その6「とでも思ったのか」
お久しぶりですな
ところで皆様は獣人なるものをご存知だろうか?動物の耳つけただけの姿から四足歩行が直立しただけじゃねぇのコレってやつまで幅広い、たまにアニメやマンガや映画に出てくるアレだ。いい歳ぶっこいてサブカルに頭髪の先から爪先まで浸かってる俺には実に馴染み深い架空の種族だ、エルフ獣人ドワーフはファンタジーでも鉄板、会ってみたいなーとは思ってた。
うん、そうなんだ。また過去形なんだ、つまりまぁ、察して?
異世界転移から数日経った頃、呑気に動画を見てたら軽快なチャイムが聞こえた。イレブンナインの入店チャイムをBGMに使用するとかこの実況主の趣味がわからんなーとか思ってたけど、どう考えてもガサゴソ物色する音が聞こえて来る。
「……」
とりあえず落ち着いて深呼吸、大丈夫大丈夫オッケーメンタル無事、とにかく確認しよう。
イレブンナイン直通の扉をちょっとだけ開けて店内を観察すると、そこには謎の素材で出来た店内に呆然とする二足歩行の犬っぽい人間っぽい何かが3体居た。
1体は前世で惨殺したゴリラにでも呪われてんのかな?ってくらい胸板バインバイン腹筋バッキンバッキンの筋骨隆々犬人間
1体はアメリカ人俳優みたいなスラッとした筋肉に包まれた体したイケワン的なツラした犬人間
そして最後に豊かな胸を持ってるグラビアモデルみたいなセクシー犬人間、たぶんメス
そしてガラス扉越しに迫り来る正気度抉りとるようなデザインのモンスター、モンスター?
気付いたら咄嗟に叫んでた。
「危ない逃げろ!」
『『『!?』』』
「早くこっちに!」
犬人間、いや、獣人達に向けて声を掛けながら扉を開けて全力で手招きする。どうやら彼らは立て続けに起きた現象で茫然自失になってるっぽく、言われるがままバタバタと俺の部屋に入ってきた。
全員が入ったタイミングで扉を閉めて申し訳程度の鍵を閉める、その向こうからはドズンドズンと店の扉を破ろうと体当たりするモンスターの騒音が暫く響いていた。ただのガラス扉なのに破れる気配がない…もしかして外敵をシャットダウンしてくれる的なやつ?まぁ後で確認しよう。
それはさておき。部屋の隅で警戒するようにメスを抱きしめて威嚇する細マッチョと、堂々とこちらをみてるゴリラ犬、とりあえずゴリラ犬に話を聞いてみよう。
「あのー…俺の言葉わかります?大丈夫ですか?」
『…はい、わかります…それから…助かりました、名も知らぬ賢者殿』
「よかったーありがとう言語チート。んで、貴方たちはいったい…?」
『……申し遅れた、私はエドゥリゴの集落…狼人属狩猟隊のガブラ…賢者殿…此度は助けていただき感謝する』
「あっ御丁寧にどうも、俺は日高大和と申します、それから…賢者殿ってのは?」
『……このような魔境で…無事に暮らせている…そのような者は…賢者とお呼びするのが我らの敬意…』
あーやっぱり普通の神経の人間は住み着かない環境なんだね把握した~つらみ~つらぽよ~、もっと人里近くに転移させてかみちゃま~。
自分の快適な住環境が案外ヤバい環境なんだというのを再確認してたら、細マッチョから声をかけられた。
『助けてもらったのは感謝するが!しかし!今我々は対価として差し出せるものが何も無い!もし差し出さねばならぬなら!このレヴォンの命を差し出す!だからロアンナは見逃してくれ!』
『レヴォン…』
『ロアンナ!』
「いや、その…見るからに何も持ってなさそうだし、別にとって食おうってわけでもないから、とりあえず落ち着いて?」
ちなみに男は腰布、女は貫頭衣みたいな質素な服装だった。それで手ぶらなんだから外からの物資には期待してないし、それよりも細マッチョうるせぇ、これ文章に起こしたら絶対感嘆符つきまくるやつじゃん。
「んー…この辺りに来たのがつい最近で、この辺りの情報が何もわからないんです。だから、助けた対価としてこの辺りの事、それから集落について話せる範囲で教えてください。それが対価という事で」
『…寛大な御心使い…感謝する』
「それから、あの化け物が居なくなるまでは滞在なされるといいでしょう」
『ありがとう!賢者殿!やったぞロアンナ!俺達は助かったんだ!』
『賢者殿…わたしからも…感謝をささげてもいいかしら…』
唯一の紅一点、ロアンナさんがそう言い終わったタイミングで響き渡る重低音。出どころは、ガブラさんの腹からだ。耳をペタリと伏せて、とても申し訳なさそうな顔をしてる。
「まずは食事にしましょう」
降ってわいた出会いに若干困惑しつつも、話の通じる相手に出会えた安堵を噛みしめながら、コンビニから持ち込んでいた惣菜パンや弁当類を取り出した。