悪魔の子守唄
たまに旅行客が出入りする小さな街クリムゾン・キングは、アメリカの
テキサス州を南下した場所にある。ここでは、不思議な事や
惨劇が繰り返し起こっているが、街の人口はちょうど666
これ以上でもこれ以下でもなく、666なのだという。
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「今日はこれ読んでパパ」
「ん?また、これかい?」
ランプの光で照らされたのは、ベットに寝転がる
利発そうな男性と6歳ぐらいの男の子の姿だった。
「ママが僕にプレゼントしてくれた本だよ。」
「それは知ってるけど、最近はこの本ばかりじゃないか?
新しいのも買ってきてあげてるんだぞ」
「あくまの子守唄」と書かれたタイトルの絵本には
月夜の窓際で、赤ん坊を抱いた母親が、窓にまたがる
あくまに赤ん坊を差し出している絵が描かれている。
「僕、これが一番好きなんだ!!いいでしょパパ!!」
大きなクリッとした目で見つめられると、どうしても
断ることができない父親は、ため息をつくと、何度も読んでいる
せいで、少しボロボロになってきている絵本を膝に載せ、
横で枕に頭を静めながらニコニコしている息子に
読み聞かせ始めた。
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小さな町に住む女性は、生まれたばかりの男の子と二人で
住んでいました。男の子の父親は、不死の病で男の子が
生まれると同時になくなってしまい、夫に先立たれた
女性が、働きながらどうにか男の子を育てていたのです。
しかし、それでも生活は苦しく、女性は、男の子だけに
食事を与えたり、お金が無いときは、伸ばしていた金髪の
髪の毛を遠くの街まで売りに行ったのでした。
しかし、とうとうある冬の晩、傍らで寝ている男の子の
隣で女性は自分の死期が近い事を知りました。
それは、古くから伝わるこの街の言い伝えで
赤い満月をみたものは死ぬというもので、女性の
夫も赤い満月をみた次の日から体調を崩し、枝から落ちる
木の葉の様に死んでしまったのでした。
「あぁ、、どうかお月様。私はどうなってもかまいません。
この子をお助けください、、。」
窓から女性を見下ろすように浮かぶ赤い満月は何も答えませんでしたが、
突然、黒い影が窓枠にサッと現れ、それは、長く伸びたつめを
見せびらかすように右手を差し出し、驚く女性にこういったのです。
「私は悪魔だ。1000個の魂を集めているのだが、お前の魂で
その1000個になる。どうだ?お前が魂を差し出すのなら
お前の願いを一つだけ叶えてやろう。」
満月の光を遮るように真っ黒いシルエットの悪魔はスラスラと
そういうと、女性の返答を待つように口をつぐんだ。
「どんな願いでも叶えていただけますか?」
「もちろんだ」
女性は、傍らでぐっすりと寝ている男の子に優しいまなざしを
向けると、差し出されていた悪魔の手をとり、悪魔に
ある願い事をしました。
赤い満月の光の中で、、、その願いとは、、
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「ん?もう寝たのかい?、、まったく、いつも
途中でなるのだから困ったやつだ、、。」
男性は金髪の女性が悪魔の手をとる挿絵をチラリとみて
絵本を閉じると、窓から見える赤い満月を見上げた。
自然に男の子をなでる男性の左手の爪は長く鋭く、しかし、
優しげで、すぐ近くの棚の上に置かれている写真たての中では、
金髪の女性が二人を見守るように優しく微笑んでいた、、。