魔法の天才ね
決意表明から一ヶ月。私の魔法の練習はまだまだ続いてます。
いきなりだけど、この森の木ってすごいのよ。決意表明の翌日に外に出て魔法の練習をしようとしたら、なんと――――
木が元通りになっていたのです!
もうね。ビックリしたわよホントに。前の日に幾つも折り倒してしまった木をどうしてくれようと思ってたんだけど。いざ外に出てみれば、昨日の惨状が嘘だったかのように綺麗に木が生えてたのよ。
不思議に思って調べてみたら、どうにも『マーズ大森林』の木は魔力を大地から吸い上げてるみたいで、折られようと切られようと燃え尽きようと一夜明けたら元通りになるみたい。木材には一生困らないわね。
というわけで、私は魔法の練習をするためのいい的として活用してます。そこら中にあるから的には困らないし。
しかも、火には強くて、火系統や雷系統をモロに受けても燃えなかったし、焦げたりもしなかった。おかげで、どんな魔法も系統関係なしに練習してたから、大分上手くなったわ。
で、全系統を試してみたんだけど。どうも私、普通系統は全部適正あるみたいなのよね。だって、全部威力のマイナス補正なく発動したし、詠唱破棄できたからね。無詠唱はもうちょっとかな。
そして今日も魔法の練習をしていた。
この一ヶ月で結構上達したのよね。魔法の威力を抑えることもできるようになったし、色々と魔法についても分かったことがあるのよね。
魔法の発動には六つの工程があるのよ。
魔力を集約させて放出する。
↓
放出した魔力の大きさを決める。
↓
魔力が分散しないように一か所に留める。
↓
イメージを魔力に定着させる。
↓
射出速度を決める。
↓
発動。
こういう感じで魔法は発動されるのよ。
一つ目から四つ目は比較的楽にできた。五つ目は気付くのに結構な時間を使った。それこそ、週単位で。込める魔力は自由にできる。込めれば込めるだけ威力の高い魔法になるし、魔力を圧縮させて速度をより早くすることもできる。圧縮すると速くなる理由は分からないけどね。
それと、射出速度は設定しなくても発動はできることも分かったわね。その場合、込めた魔力に比例した速度が発揮される。つまり、それのせいで水弾事件が起こってしまったわけ。使用魔力が多かったのね。
ちなみに、この一ヶ月の間で全ての魔術教本に一応目は通したんだけど。初級から順番に練習していってる。いきなり王級とかぶっ放して災害に匹敵するほどの被害が出るのは避けたかったからね。
まあ、こんな感じで魔法のことも結構理解したし、初級の魔法は威力も何もかも自由にコントロールできるようになったから、そろそろ一つ上に行こうかなって思ってる。
つまり、中級に。
中級普通系統の魔術教本を開いて、水系統の中級魔法を発動しようと詠唱し、それが終わっていざ発動といったところで――――
「こんなところで何をしているの?」
「へあっ!?」
後ろから声を掛けられる。驚き過ぎたせいで魔力の制御がしきれず中級魔法発動。
魔力制御が碌にできてない魔力で作り出された水柱が私の頭上から森に向かって放たれ、轟音と共に木々をなぎ倒し深い穴を穿つ。水流、大地を穿つ。
これ、修復するの? 大地自体がなくなってもその機能は生きるのかしら?
それはともかく、こんな事態を招くことになった原因に私は顔を向ける。
美幼女がいた。
ピンクのゆるふわウェーブがかかっている腰まで届くほどの髪。そして、狐耳。顔はビックリするくらいに左右対称で、美しい以外の言葉が出てこない。この子、将来とんでもない美人になるわね。断言するわ。
水色の浴衣のようなものを着崩していて、左肩だけが露出している。そして、左脚が太もも辺りからむき出し。頭にロがつく紳士に絶対見せてはならない過激な着こなし方だった。
その表情は驚き一色だった。
「今のは何なの? あなたの魔法なの?」
「えぇ、そうよ」
「上級の水系統なの? でも、上級にあんな魔法はなかったはずなの。なら、中級なの? 確かに今のと似た魔法はあるの。でも、中級じゃあんな威力にはならないはずなの。一体何者なの?」
魔法のことを結構知ってんのね。私以外にも勉強してるなんて驚いたわ。いや、これが普通なのかしら?
「大いにこっちのセリフね。急に声を掛けてくるからビックリしたじゃない。ま、言われた通り中級の水系統魔法よ。一応ね」
「やっぱりなの。でも、中級程度で地面を抉り飛ばすなんておかしいの」
「アンタが私を驚かせたせいで込める魔力が過剰になっちゃったのよ」
「過剰に込めただけであんな威力になるなんてやっぱりおかしいの」
「そう? 私にとっては日常茶飯事なんだけど」
「絶対おかしいの」
ここまで言われると、マジで私が化も――――――そんなことはないわ! 断固認めない!
「ところで、人に話しかけておいて挨拶も自己紹介もなし?」
「驚いて忘れていたの。じゃあ、自己紹介するの。私は、ココ・アルジェなの。一ヶ月前にステータスカードを貰ったばかりの一歳なの」
あ、ステータスカード持ってるのね。
「一ヶ月前ってことは、年としては同い年なのね。私はリリ・クレハよ。まだステータスカードは持ってないわ」
「持っていないの? なのに魔法の練習をしているの?」
「え? ステータスカード持ってないと練習しちゃダメ? お父さんもお母さんも何も言わないから普通にやっちゃってたんだけど」
「そういうわけじゃないの。ただ、自分の適正系統が分からないうちに練習するっていうことが意味分からなかっただけなの」
なるほど、確かにステータスを見ないと自分の適正系統は分からないものね。
「別に適性が無かったら使えないってワケじゃないでしょ?」
「でも、普通は自分の得意な系統を理解してから練習するはずなの」
「ま、いいじゃない。人それぞれってことで」
私がそう言ったらアルジェは何かを考えるように人差し指を頬に当てた。ちょっと可愛い。
少し考えたあと、何かに納得したかのように頷いて、私を見る。
「ねぇ。少し練習に付き合ってほしいの」
「練習? 具体的には?」
「ちょっと勝負してくれるだけでいいの」
「ほう。実践訓練みたいな感じ?」
「解釈としては間違っていないの」
実践は初めてね。面白そうじゃない。
「いいわよ」
「じゃ、行くの!」
宣言と同時に複数の風弾が私に迫ってくる。
不可視の弾丸。けど――――
「っ!?」
私に当たると同時に霧散する風弾。
「何で!?」
「さあね!」
水弾を発動。
ピンポン玉程度の大きさにした十二発の水の弾丸がアルジェを襲う。
「”風壁”!」
水弾とアルジェの間に突風の壁ができる。
水弾は見事に全て吹き払われる。
「やるぅ。”炎弾”」
ちなみに、水弾以外の魔法は魔法名でイメージを定着させないと放てない。要は、無詠唱は水弾のみ可能ってことね。同時発動は難なくできるんだけど。
バスケットボール程の大きさにした炎弾五発がアルジェに向かって飛んでいく。
「”水壁”!」
やはりこれも阻まれる。
しかも、炎弾五発をギリギリ防げるほどの強度で。
魔力消費を抑えるためかしらね。
意図的でも非意図的でも、できるのは凄いことね。
「轟く雷鳴 翔る稲妻――――”雷光”!」
中級魔法を詠唱短縮で放ってくるアルジェ。
「マジか!?」
この年で、しかも詠唱短縮で中級とか驚いた。魔法の天才ね。
自分のことは棚に上げてアルジェを評価する。
さすがにさっき風弾を防いだみたいにはできない。
咄嗟に横っ飛びで回避。
回避した先を狙われて風弾が放たれていた。
やるじゃない。
先読みで放たれた魔法。
回避不能の一撃。
―――――――――って思うでしょ?
「”爆裂”!」
進行方向に手を突き出し魔法を行使。
手の先から発生する爆発。その反動を利用して急停止から、反対方向へ回避。
十キロ前後しかない体は簡単に元いた場所に向かって飛ぶ。
「なっ!?」
さすがに、火系統の上級魔法を攻撃じゃなく回避に使うなんてことは予想できなかったみたいね。私も逆の立場なら驚く。
ぶっつけ本番で使ってみたけど、成功して良かった。
少し飛んでから着地。
「”水槍”!」
「”雷槍”!」
私が水槍を放つとほぼ同時にアルジェから雷槍が放たれる。
水と雷の槍がぶつかり相殺される。
「”炎槍”! ”風槍”! ”水槍”!」
間髪入れずに三種の槍を生成、射出。
「三系統同時発動なの!?」
三つの槍がアルジェに襲い掛かり、着弾。
辺りに濛々と煙が立ち込める。
しまったと思う。今のを防がれていた場合、煙の中で何をされても私は分からない。想定外の出来事が起こる可能性もある。
悪い予感は常に当たる。
轟音と共に煙の中から放たれた青の閃光が私を襲う。
雷系統最上級魔法、”青雷砲”。
まともに受ければ神経は焼き切れ使い物にならなくなる。使い手次第では即死の一撃になり得る魔法。
って、そんなもの実践訓練で使うんじゃないわよ!
「あ・・・・・・」
轟音が響く中、それを縫うようにアルジェの声が耳朶に触れた。
私の眼前まで迫る青い雷。
そして――――――――――
頑張って戦闘シーンを書いてみました。難しいですね。
戦闘開始までが無理やりすぎる気もしますが・・・・・・。
感想など待ってます。ぜひ、よろしくお願いします<(_ _)>
読み返してみたら矛盾を見つけたので修正しました。後、戦闘描写もいくつか加えました。