Ep.1 『名乗るエースたち』
グレートフォース第2部『決戦篇』です。
グレートフォースの最初の戦いは、衝撃的なものだった。
彼等はまず、ゴッズの本拠地がある煉獄谷と呼ばれる岩山に向かった。初めは敵に気付かれることもなく順調に岩山を進み、アジトへと向かっていたのだが、谷の最深部へ来たときに敵の探知機に引っかかってしまい、彼等の侵入がバレてしまった。
そして彼等4人を迎え撃つべく、ゴッズ精鋭怪人の一人、ドルターが巨大亀さながらに甲羅に四肢と頭を引っ込めた状態でクルクルと空中を回転飛行して現れた。
ドルターは4人の姿を見るとさすがにたじろいだ。
「な、何故、貴様ら4人が一緒にいるのだ!」
4人について知っていたドルターは、それぞれ違う支部に属しているはずの最強の4人が一堂に会している事にあからさまにビビッていた。
4人は、これこれこういうわけでチームを組むことになったのだ、と律儀に説明した。
こうなるとドルターもさすがに引き下がるわけにはいかない。アジトを守るために単身、グレートフォースへの戦いを挑んだ。
グレートフォースの4人は横一列に並んで変身を始めた。あらかじめこうして横一線に並んでから変身した方が、変身後にわざわざ並び直す必要もないため効率がいいのだということを、4人は一週間の訓練で学んでいた。
「群青の剣よ、我に力を!」
前葉は小型ナイフ程の大きさの青い剣を取り出すとそれを空中に掲げて叫んだ。すると剣は光に包まれて大きくなり、前葉の身体もプロテクターに包まれ、青年は青剣士ザンへと変身した。
爽子はウエストポーチから薄ピンクの円盤状の物を取り出すと、それを腕に装着し、「えい!」という掛け声と共に手で弾いて回転させた。すると円盤の上を光が渦巻くように現れて、彼女の身体には次第にプロテクターが装着されていき、爽子は雪上戦士ハレルへと変身した。
石我利は懐から小さな箱を取り出すと、その中からガムを取り出して口に入れてクチャクチャと噛んだ。それからそれを空中に向けて、ぺっ、と吐き出すと、ガムは地面に落ちることなく空中に制止し、小さな人口太陽になった。人口太陽はすぐに粉々に割れてプロテクターに姿を変えると、石我利の身体に落ちて次々と覆っていった。そして石我利は、サンファイタービーチに変身した。
五胡は隣で石我利が変身用のガムを噛んでいるのを羨ましそうに凝視していた。しかし石我利が変身を終えると我に返り、ふぅーふぅー、と鼻息を荒くし、両こぶしを握り、「ふんふんふん!」と言いながら両腕を振り子のように体の前で素早く動かし始めた。すると五胡の体表は徐々に茶色く岩のようになり、頭髪は引いていく波のように消えていき、気付いた時には剛力人間ブッチャに変身していた。
この模様は、4人に同行している空飛ぶカメラロボット『キャメラ君』が衛星を通してカナラズ本部に転送していた。
静子や竹山は、グレートフォース初の実戦に浮き立つ心を抑えられなかった。
グレートフォースは決められた通り、決め台詞に入った。
『我等、絶対無敵の最強チーム!』
4人が声を揃えた。
本部にいる静子の興奮は最高潮だった。自らが発案したこのドリームチームが、自らが発案した決め台詞を発し、これからいよいよ戦い始めるのである。ハッキリ言って、最早ゴッズのどんな怪人がやってこようと誰もこの4人は止められないだろう。
初めからこうしていればよかったのだ。そうすれば人類の平和はもっと早く掴めていたに違いない。しかしこれまではこの4人の修行の時代だったと考えれば、これまでがあったからこそ、このドリームチームがあるのだと言える。
時は来た! そういうことだ。
しかし、決め台詞が次に進む時は中々訪れなかった。静子は一体どうしたことかと思い、モニターに映る煉獄谷の様子に目を凝らした。
個人の自己紹介はどうした?
静子は目を見開いた。
モニターの中のグレートフォースの4人は、誰が一番最初に個人名乗りをするのか互いに譲り合っているのだ。
「あ、あなたからどうぞ」「いや、僕は一番年少者ですから」「ここはやはりレディーファーストで」「わ、私、一番なんておこがましいです」「じゃ、じゃあ、あなたから。こういうの一番目はやっぱり俺みたいのじゃなく、もっとしっかりした強い人がやるべきですもの」「俺は最後でいいす。それよりさっきのガムって美味しいっすか?」「……どうしましょう。誰からいきましょう」
一体、この4人は、何をやっているのだ? モニターを見つめる静子は唖然とし、一瞬、これは作戦本番ではなく、忘年会の出し物だったのではないかしら、と錯覚した。
考えてみればたしかに、練習では個人名乗りはほとんど飛ばしていた。自分の名前を名乗るだけなのだからわざわざ毎度毎度練習する必要もないだろうと思ったからだ。
実際に練習で個人名乗りをやった際は静子が適当に指名した者から名乗りを行っていた。だから明確に誰からと順番は決めていない。
かといって、何も実戦の中でそんなどうでもいいことを譲り合うこともなかろう――静子は呆れるあまり口をあんぐりと開けていた。




