7ピース目
戸田英司。読者は存在を忘れていると思うが、本作の中心人物だ。
此処のところ、岡村が目立ちすぎた。しかも、3話連続俺様は! と、ドスケベの主張を述べまくっていた。
英司は岡村の自宅を出る時に『おじゃましました』と、洒落にならない書き置きを最後に作者でもあんた居たんだ? なんて思ってしまうほど、影でさえ消えていた。
名誉挽回するのだ、戸田英司。
めげるな英司。
おまえは岡村の刺客として、生誕したのだ!
闘え! 土壇場エッチ。
違った、戸田英司。
『空中パズル』を盛り上げる為に、間抜けな青年は本日も振り回される……。
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朝から良いものを見てしまった。こんな濃厚な愛の現場を目撃したからには……。
英司の頭の中はロッククライミングをやり遂げる亀に涙を流し、鴎の集団行動に癒されると学校の廊下で正面衝突をきっかけに男子学生をストーカーした女学生の恋愛成就物語に被せる程、混乱させまくった。
作者、このまま更新してくれい。
せからしかっ! 文字数が少なすぎだ。おまけに執筆だって遅行していた。おまえは志帆と岡村の関係を知らなかった! 詳しくは『風、薫る』を読めっ!
いい加減な作者の返答に英司は苦虫を噛む形相をすると、まだ抱擁をする志帆と岡村の姿に息を呑む。
二人は愛し合っていた。だが、先日の岡村は亡くなった妻にについては語ったものの、志帆との関係は明かしてなかった。
ーー戸田、本当に浅田に手を出すつもりではなかったのだな?
今なら、辻褄が合う。そして、英司はニヤリと不気味に笑みを湛える。
いざとなれば、岡村の今成し遂げた行為を弱味にして奴を揺すぶり掛ける事が出来る。わっはっは、へっへっへっ、かーっかっかっかっ!
英司は勝ち誇った。嫌らしい野郎に成り下がってまで岡村に反撃を企てたつもりだろうが、甘いぜあんちゃんっ! 人を落とすは諸刃の剣と胸に刻ませてやろう。
ぐふぐふと、時代劇の悪代官状態で英司はボイラー室のもうひとつの出入口からこそこそと出る。
場内の通路に靴底を着けたと同時にふにゃりとした感触を覚える。そして、恐る恐る膝を曲げて上げる脚の真下にある物体に顔面蒼白させた。
ーー業務終了後は製品に被せ布をしてください。
班長を集めたミーティングで岡村の連絡事項が思い出されていく。最初は場内の塵や埃を防ぐ為と思った。
正体は、寒さを凌ぐ為に場内に侵入する猫がお礼として残すのは傍迷惑な粗相の塊を、英司は踏みつけたのであった。