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『お試し下さい。』

『お試し下さい。』 =カジュウグミの巻=

作者: 桃色 ぴんく。

 ふとテレビを観たら、最近よく見るIカップアイドルが水着写真集を出した、という話題をやっていた。顔と同じぐらいの豊満な胸がはちきれんばかりに輝いている。



「でかすぎるでしょ」と、半分やっかむようなツッコムを入れる私、自称Bカップ。ペッタンコじゃないもん。寄せてあげたらきっとCに届くはず・・・はぁ。

 気が付いたらもう28歳になっていた。25歳を過ぎたあたりから、食べた物がすぐに身に付くようになって、今ではお腹がヤバイことになっていた。胸よりお腹の肉の方が自分を主張してるよ・・・はぁ。



 溜息なんかつきたくないけど、出るものは仕方ない。若くて可愛くて胸の大きなアイドルなんかに、私の気持ちはわかるまい。

「あ~ぁ、このお腹の脂肪、胸にくっつけちゃいたい」

 私は湯船の中でお腹の脂肪をむにっと寄せてみた。

「肉まんぐらいあるなぁ・・・ダイエットしなきゃ!」

 今まで何回もダイエットを試みて、お腹のお肉がどうにか落ちないか頑張ってみたが、先に落ちていくのは胸の脂肪で、なんだか自称Bカップも怪しくなってきて、最後はダイエットを断念、というのを繰り返してきた。お腹だけスリムになる方法ってないのかなぁ。




 そんなある日、仕事から帰ってポストを見ると、1通のダイレクトメールが届いていた。


中川 明日美 様

  ”今回、貴女様だけに特別なご案内があります”


 間違いなく、私宛てだ。

「ん?なんか入ってる」

 触っただけでもわかるほど袋がモリッと膨らんでいる。きっと、サプリかなんかの試供品だろうな。



 とりあえず、早速封筒を開けてみる。

「これってグミかな?」

 紫色のグニュッとした感触のものが5個入っている。

同封された手紙には、


 ”選ばれた貴女様だけにお届けしました。カジュウグミをぜひお試し下さい。

   きっと、ご希望どおりの素晴らしいボディを手に入れることが出来ます”



「やっぱりグミか。ダイエット食品かな」

 袋から取り出し、においを嗅いでみる。あ、甘くて美味しそうだけど・・・

「こんな甘そうなにおいしててダイエットになるのかしら」

 私は一粒グミを食べてみた。



 結構弾力のあるグミで噛みごたえがあった。なるほど、これで腹持ちが良くなるのかしら。でも、なんか体が熱いわ。トウガラシエキスとか入ってるのかな。

と、その時、1匹の蚊が私の太ももに止まった。反射的に私は蚊が止まった場所を叩く。



    グニュッ



え、グニュッ・・・

「わあああああああ」

グニュッとなったのは、蚊じゃなかった。私の太ももが歪な形に変形してる!!!!!叩いたところだけボコッとへこんで、かわりに周りがボコッと膨らんでいる。



 なにこれ・・・

私の太ももは歪な形のまま、元に戻りそうもなかった。

「明日病院に行こう・・・」

歪んだ太ももを見るのは気持ち悪いのでとりあえず今日は包帯巻いて見えないようにしよう。私は足に包帯をグルグルに巻いて、その日は就寝した。




 翌朝、幸いにも仕事が休みの日だったので、病院に行こうと包帯を一度取ってみたら、足は元に戻っていた。

「あれ、戻ってる・・・」

 夢でも見たのか、と思ったけど違う。昨日は確かに太ももが歪んだ。




「もしかして・・・」

 私はピン!ときて、昨日のグミを一粒食べてみた。また、体中が熱くなる。

「どうかな・・・」

 私はお腹の脂肪をむんずと掴んで、そのまま胸の方に移動させるような仕草をしてみた。グニュッとお腹の脂肪が動いて、胸に移動し、胸が大きくなった!



 やっぱり!食べると体がグミみたいになって肉を動かせるんだわ!



 私は見事なボディを手に入れた。お腹はスッキリと細く、胸はドーンとボリュームアップ。すごい!すごいわ・・・ちょっと胸元の開いた服でも着て、外を歩いてみようかしら。

「でも、持続時間があるはずよね。太ももだって戻ってたし」

私は時刻を確認した。朝の8時過ぎ。さてさて、このボディがいつまで続くか。



 調べた結果、4時間ほどで胸とお腹は元通りに戻ってしまった。多分、グミが体内に入って消化するまでが大体4時間ぐらいなのだろう。

「と、いうことは・・・明日、使えるかも」



 明日は、ネットで知り合った男の人と会う約束をしていた。初対面だし、ちょっとお茶飲むぐらいだし、4時間以内に帰れるわ。驚くほど魅力的なボディを見せつけてやろう。




 翌日。ネットで知り合ったTさんと会うため、私は支度をしていた。

「よし、グミの出番だわ」

メイクもヘアメイクも終了。あとは、ボディをいじって着替えるだけ。

 グミを一粒食べ、お腹の脂肪を胸に移動させる。今日は、片方ずつ綺麗に仕上げよう。左胸からボリュームアップ。さて、右胸も・・・

「あれ?え?」

 左胸がアップしたところで、体が普通の弾力に戻ってしまったため、脂肪を動かせなくなってしまった。

「そんな・・・今から大事な時なのに!」

 時計を見ると、待ち合わせの時間が迫っていた。やばい、どうしよう。そうだ、もう一つ食べれば・・・私はもう1粒食べて、右胸も綺麗に仕上げた。多少の時間差があるけど、もしもの時のために、もう1粒のグミをカバンに入れ、待ち合わせ場所へと向かった。



 待ち合わせ場所に向かいながら、私は考えていた。

「あ、そっか」

作ったボディが戻るのはグミが消化したから。じゃあ脂肪を動かせる時間はどういう時間なのか、と考えた時、謎が解けた。グミを噛んで体が熱くなってから、噛んでいる間だけ、体を形成することが出来るんだ。さっきは左右で順番に胸を作ったために、口の中のグミが早く消えてしまったのだ。今度はやっぱり一気に持ち上げて左右同時に作り上げよう。試供品はあと1粒。実際に買うと高いのかなぁ。そんなことを考えながら、待ち合わせ場所に到着した。



 Tさんと無事会えて、まずは食事をした。階段を降りた、隠れ家的なムードのあるフランス料理の店だった。

「初めまして。僕はT・・・たけしと呼んでください」

「武さん・・・初めまして、私は明日美あすみといいます。よろしくお願いします」

運ばれてきた料理を食べながら、好きな音楽や最近観た映画などの話題で盛り上がった。武さんは、2つ年上でとても素敵な人だった。結構なイケメンで、完全に一目惚れしてしまった。早く帰るつもりだったけど、食事をしながら、私はその日限りの恋でもいいかな・・・という気持ちになっていた。そうよ、こんな時のために、ボディを仕上げたんだから!私はちょっと積極的に胸元をアピールしてみた。一瞬、武さんの視線が私の胸元を見たような気がした。



 大人同士、と言ってもさすがに初対面なので、いきなり「じゃあ行きますか」とはなかなかならなかった。なんとなくいい雰囲気のまま、時間だけが刻々と過ぎていく・・・

 私はだんだん不安になってきた。早いとこ、話をホテルにもっていかないと体が戻っちゃう。だって、もうこんな体でいられるの、今日しかないでしょ!試供品グミもあと1粒しかないし。次に武さんと会う約束をしたところで、結構遠距離な2人はいつ会えるかわかったもんじゃない。完璧なボディで、一夜限りのせつない恋をするのよー!!!!!



「ちょっと・・・飲みすぎちゃったみたいです。フラフラする・・・」

「大丈夫?送っていこうか?」

 そうだわ。このまま家まで送ってもらってなんとかしちゃうのもいいかも。

「いいんですか・・・?すいません・・・」

「送り狼になっちゃったらごめんね。明日美ちゃん、魅力的だから」

「またまた~そんなぁ~」

 大げさにフラッとかしてみる。武さんの大きな手が私の体を支える。また、武さんの視線が私の胸元を見たような気がした。これは・・・イケそうだわ。



「ここです・・・」

 私は武さんに支えてもらいながら、玄関の鍵を開ける。

「どうしたらいい?ここで大丈夫?」

え、ここまで来て玄関先で帰らないで。

「えっと・・・大丈夫・・・あっ・・・」

 私はグラッと倒れかける素振りをした。慌てて武さんが体を支えてくれる。その時、武さんの手が私の胸に触れた。グニュッと豊満な私の胸に。

「あっ・・・」

「あ!ごめん!わざとじゃないよ!・・・ベッドまで連れていこうか。危ないし」

「・・・はい・・・」

 よし!これで流れはOK。後はお楽しみの時間だわ・・・



 ベッドに運んでくれた武さんは、狙い通り私に迫ってきた。

「ごめん、会ったばっかりなのに、あんまり魅力的過ぎるから・・・」

「武さんも・・・素敵です・・・」

 こうして、今から刺激的な時間が訪れる・・・はずだった!

「あっ!」

 私は気付いた。ヤバイ、ヤバイ。もう4時間近く経ってる。今からコトを始めたら途中でボディ崩れてしまう!

「え、どうしたの?」

「すいません、薬を飲むの忘れちゃって。すぐ戻ってきます」

 私は武さんの腕をすり抜けて、こっそりと最後のグミを一粒食べ、ボディを整えた。よし・・・これであと4時間は持つわ。



「明日美ちゃん・・・素敵だよ・・・」

 こうして、私たちはとても刺激的な時間を過ごした。体を離した後もしばらくは添い寝でベッドに寝転んでいたが、武さんが切り出した。

「もうすぐ終電になっちゃうな」

「明日、お仕事ですよね。遅くまですいません・・・」

「また、会えるかな」

「はい。また・・・」

 身支度をして、武さんが帰って行った。悪いけど、泊めるわけにはいかなかった。あと1時間ほどでボディが戻るからだ。



「やっぱ、大きい方がいいわ」

 私は豊満になった胸を自分でゆっさゆっさと持ち上げながら、鏡を見る。う~ん!なんて完璧なの!でも、これは本日限り。

「あ、そうだわ」

 私は先日のダイレクトメールの封筒を探す。ちょっとぐらい高かったっていい。また、武さんと会うことがあれば、その時のために常備してればいいのよ!



 ダイレクトメールに、PCサイトのURLが書いてあった。

「これね」

 私は裸のまんま、パソコンを立ち上げ、入力してみる。

「あった!」



 なりたいボディになれる!カジュウグミ!売れてます!


「いくらなのかしら・・・ええっそんな・・・」



 値段を見る前に、目に飛び込んできた文字。


”只今 生産を中止しております”


「ダメだわ・・・販売再開されるまで武さんとは会えないわ」



 一応、値段チェックしとこ。私はカジュウグミのHPをスクロールして見た。


「ん?」


 なんか、テーマソングのような歌詞が書いてある。



   『カジュウグミの歌』


 甘くて不思議な「果汁」グミ

 一粒食べたら「可自由」グミ

 一度に食べたら「過重」グミ

 ※副作用が起こる場合がございます。1日に1粒を目安に食べて下さい。



「え、1日1粒って・・・今日3粒食べてしまったけど・・・」

 副作用ってどういうのかしら。もしかして、このまま体が戻らないとか!そしたら逆にラッキーなんだけどなぁ!なーんてことを考えていた、その時、4時間が経過し、私の体が元に戻った。

「ああ~戻ってしまった~。あれ・・・?」

 胸の大きさは元に戻ってしまったが、あきらかにお腹周りが倍増している。

「ええ・・・」

 私のお腹は、寄せたら肉まんどころか、寄せなくても妊娠7か月ぐらいの妊婦ぐらいの脂肪がついていた。

「なんでーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 つけっぱなしだったパソコンからテーマソングが流れたきた。


 一度に食べたら「過重」グミ


 そのフレースだけが繰り返し流れてきた。


 一度に食べたら「過重」グミ

 一度に食べたら「過重」グミ 

 一度に食べたら「過重」グミ


「いやああああああああああああああああああ!!!!!」




  ~『お試しください。=カジュウグミの巻=(完)~


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[良い点] 文句のつけようがございません。 R18突入寸止めもニクイ! 我妻なら、きっと爆乳になるでしょうね。 何もしなくてもFだから。 失礼しまーす
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