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青色のひまわり

作者: はねひ

それはまるで、書きだしだけの中身のない物語だった。

私のように夢も希望もないワカモノは、こうしてこのまま朽ちてゆくのが筋ってもんだろう。

今は昔とは違う、ありとあらゆる情報が手に入りすぎる。

どこまでどう頑張っても頂点にはたどり着けないことに、皆容易に気がついてしまう。

そして 生きていくのに適性がないことも。

そういう人間を、皆がうとましく思っていることも…


どこをどうほっつき歩いたらこんなところに来れるのか。

薄汚れた公園、となりには人の乗っていないトラックが何台か止まっている空き地がある。

こんな日には配達業もお休みなのだろうか。それともこのトラックたちは乗り古されて主人を失ったものだろうか。

ほんの少し散歩するつもりだった、いや家には帰りたくなかった。

悪いことに、雨が降っていた。素足にサンダルを履いただけの足元はひんやりとして心許ない。


私は、どこへゆけばいいのだろう。

もうそろそろ、この世ではない場所へ行くべきなのかもしれない。

ぼんやりとそんなことを考えながら、でも少しだけ、コンビニのあったかいチキンを食べたいなぁ…なんて思っていた。


救いがない

袋小路

閉塞感

etc…

一つ一つ頭の中で言葉にしてみてから、傘をどけて空を仰いでみる。

水滴が目に入って不快だったのですぐにやめた。


ああこのまま、

どうしよう、戻れない。

胸糞悪い日常にも、その前の楽しかった幼い日々にも…


私に力があればなぁ

この世界を、この今の状況を変えるだけの力があれば。

だけどいつもそうだった、現実と言うものは往々にして冷酷で、欲しい力なんて与えてはくれない。

努力しろ、と言わんばかりに。

努力の方向を見失った人はどうすればいいの。見つける気力も失う毎日に生きていたら、堂々巡りなの。


歩きながら、昔のことを思い出した。

おばあちゃんが生きていたころ。

おばあちゃんは明るい人で、ひまわりが大好きだった。

だから庭にもひまわりを植えて愛でていたけれど、それだけじゃやっぱり足りないといって、毎年暑い季節になると少し離れたところにあるひまわり畑に連れて行ってくれた。

そこは一面にヒマワリが生えていて、まだ小さかった私はお父さんに抱っこしてもらって遠くまで見わたした。

「やっぱり一人で育てたのより、力強くていいねぇ」

ひまわりの花たちは日に当たってところどころしなびてもみえたけれど、おばあちゃんはそう言っていた。

そのときはなんとも思わなかったけれど、今、私はそのひまわりがむしょうに見たくなった。

あの黄色の花びらが、記憶の中でとてつもなく鮮明に、明るく見えた。

まぶしいくらい。


「きれいだったなぁ…」

思わずそう口にしていた。目頭が少し熱かったので、冷やそうと思ってもういちど傘を外して空を仰いだ。

どんよりとしたグレーの雲はすぐに水滴でみえなくなってしまった。

ずぶぬれの手で顔を拭って立ち止まり、ふと横を見た。

歩きながらいつの間にか住宅街に来ていたようで、品のいいレンガ調の壁の家の庭に、まぁるく大きな、青いアジサイが咲いていた。

それは立派に手入れされ、こんもりとした塊のいくつかは紫色で、ひとつひとつの花はまるで四葉のクローバーみたいに美しく均整を保ち、中心にかけてうっすら白い。

空の色とも、海の色とも違う、深い色。どこかで見た様なきもするし、始めて見た様な気もする。その色は、すぅっと心にしみこんで行くような、そんな気がした。

私は息をするのも忘れて、見入っていた。

その花の周りだけがひかって見えた。


「明るい…」

いつの間にか雨はやんで、光が差し込み、ほんとうに世界が明るくなっていった。

青空がのぞいて、葉っぱの上の水滴はキラキラと反射した。


―こんなに明るくなられちゃ、家に帰るしかないじゃない。

私は傘をたたんで、数回水滴を払うと、くるりと元来た道を歩き出した。

ポケットの小銭で、コンビニで何か甘いものを買おう。できればイチゴが乗ってとびっきりかわいいケーキがいい。


遠くの空が微笑んだように見えたのは、たぶん気のせい。

でもどことなく、おばあちゃんの笑顔に似ていた。



P.M5時のちいさな街かど。

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