Chapter.19 バスケ部コンビ
エレベーターで三階までやってきたぼくたちは、軽く自己紹介をしてそのまま鈴芽さん宅のダイニングに通された。
聞けば、今日はたまたま会社が休みだったのだという。
2DKの部屋は取り立てて飾り気があるというわけでもなく、白の壁紙が映える小ざっぱりとしたものだった。前に上がったことのある遥やるうつの部屋なんかは、もっとぬいぐるみなり写真立て代わりのコルクボードなり色々と女の子らしいグッズがあってこちゃこちゃした印象があったけれど、高校生とひとり暮らしの女性とではこうも違うものか。
唯一、リビングボードの上に置かれた小さなスノードームが洒落っ気を出していた。
「御音学園の新聞部さんだったわね」
鈴芽さんが座布団に座るぼくたちにお茶を出してくれる。
女の人同士の方が話しやすいだろうという配慮から、那木と端立を前列にしてぼくと飯島はその後ろに控えていた。
「新聞部と――」
「未確認生物研究会です」
女子ふたりの息も意外と合っている。これは“那木×端立仲良し化計画”的にも最高の配置だったかもしれない。
「あの部活――未確認生物研究会、まだあったのね」
鈴芽さんが驚きと懐かしさが入り交じったような反応を見せる。
「もしかして、鈴芽さんって御音学園のOGなんですか?」
勢い余って訊ねると、那木がすかさず振り返り、『渡した資料に書いてあったじゃん!』と目で言ってくる。
ふっ、甘いな。適当に読み飛ばした旨はきちんと伏線として記述しておいたハズだ。
「ええ。未確認生物研究会には知り合いが入ってたわ。随分と変わった部活なものだから、遅かれ早かれ廃部になるとばかり思っていたのだけど――そっか、ちゃんと続いてたのね」
友達の話にしてはやけに思い入れがありそうな様子だった。
那木の資料によると鈴芽さんは現在二五歳なので、高校時代というとざっと七年以上も昔のことになる。
――人に歴史あり。人には誰しも生きてきた道があって、その数だけ物語がある。その頃の御音学園やUMA研にもきっと、ぼくたちの関知しないまったく別の物語があったに違いない。
「ちなみに私は女子バスケ部。これでもそれなりに鳴らしたのよ」
「あ、俺バスケ部です」
「じゃあ、後輩ね」
ぼくの横で飯島が控え目に挙手すると、彼女は柔らかく微笑んだ。
バスケ部員がこの場にいる理由については特に触れられなかった。
「それで、後輩くんたちはヒツジ男の話を聞きたいんだっけ?」
「はい」
飯島が答え、その後を那木が継ぐ。
「未確認生物研究会にも手伝って貰って今度『御音新報』で取り上げる予定なんです」
「『御音新報』――その名前も久々。私もよく読んでたわ。まさか卒業してから何年も経ってインタビューを受けるとは思っていなかったけれど」
でも、と鈴芽さん。
「私でお役に立てるのなら、喜んで」




