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Chapter.14 御音学園探偵部

「それはさぁ端立さんは悪くないよ。全面的にむぐが悪い」


 御音学園部室棟五階。

 昼休みを利用して探偵部の部室を訪れたぼくに乱刃羽燐は容赦なく言い放った。

 同じ文化系といっても探偵部の部室はUMA研のそれとはかなり異なる。共通の備品といったらキャスター付きのホワイトボードくらいで、最奥には校長室にあるような立派な書斎机、その上には最新のデスクトップパソコン、シックなデザインの本棚に並ぶのはアガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、アントニイ・バークリーといった、羽燐がこよなく愛するミステリの古典たちだ。ぼくもミステリは嗜むが、もっぱら日本の現代作家が中心で、未だにワトソン博士とワトスン博士、どちらが正しいのかわからない。

 部屋の真ん中にはガラステーブルを挟む形で黒い革張りのソファーが一対置かれており、ぼくたちは向き合いながらそこに腰掛けていた。


「そんなこと言われても――。それで端立、今朝からずっと怒ってるんだよね。投げつけたバッグを無言でふんだくっていったかと思うと、今日のいままで一ミリも喋ってくれない」

「まったく。むぐは女の子の気持ちがわかってないんだから」


 “むぐ”というのは羽燐がぼくに付けた仇名で、『葎』という漢字が『むぐら』とも読むことに由来する。事件誘発体質なるフレーズも、彼女による命名だ。


「それはまあ男の子だし」

「開き直らないの」


 羽燐の鮮やかなれもん色のポニーテールが揺れる。


「――というか、そういうことあたしに言うかなぁ」


 はぁ、と深い溜め息を吐く羽燐。


「親友に相談ごとするのは普通だろ? それにほら、女子のことは女子に訊くのが一番だし」

「そりゃあ、むぐがきてくれるのは嬉しいけどさ。基本的に最悪だよね」

「基本的に、って。――それって最悪じゃん」

「うん、最悪」


 わが親友は声を低くして言った。

 乱刃羽燐は御音学園生でその顔、名前を知らぬ者はいない当校きっての有名人――って、ぼくの知り合いはこんな人ばかりなのだけど、それにしたって羽燐の知名度は桁外れだ。

 羽燐を有名人たらしめているのはなんといってもまずその容姿だろう。美少女のイデアともいうべき整った顔立ちは勿論のこと、それ以上に目を引くのが生まれついて授かった綺麗なれもん色の髪の毛と曇りのないスカイブルーの瞳である。その長い髪を瞳と同じ水色のりぼんでポニーテールに束ねるのがいつもの羽燐のスタイルだった。既に両親と死別している羽燐にとって、この瞳と髪色は親との繋がりを感じさせてくれる何よりも大切なものなのだが、過去にはそれが原因で随分と辛い目にも遭っていたようだ。

 羽燐の外見でもうひとつ目立つのがその服装だ。下がスカートなのは女子ならば当然のことだが、問題はその上。あろうことか上半身は少し大きめの男子用のワイシャツを裾出しという、非常に扇情的な恰好をしている。服装規定が緩く制服を自由に着こなしている生徒も少なくないわが校においても、こればかりは何度も生活指導主任(ちなみにうちのクラスの担任)の注意を食らっている。


八木沼(やぎぬま)先生は良い先生だよ。中学のときも小学校も、いつも髪の色を注意されてたもん。普通の(、、、)色に染めてこい、って。これがあたしにとって普通なのに、笑っちゃう話でしょ。でも八木沼先生は絶対にそういうことは言わないんだよね。あくまでも制服について注意するだけで。あ、あとむぐに厄介ごとに首を突っ込まないよう言っといてくれって漏らしてたっけ。あんまり困らせちゃだめだよ?」


 とは、羽燐の弁である。自分のことを棚に上げて余計なお世話だ。


「――それで、むぐ。今日はどうしたの?」

「どうって?」

「だって人間関係に淡泊なむぐが、端立さんの話をするためだけにわざわざあたしのところにやってくるとは思えないもん」


 羽燐がわざとらしくそっぽを向く。

 人間関係に淡泊、ねえ。


「たとえそうだとしても羽燐のとこには本当に端立の件で相談にきただけかもよ?」

「本当に、って前置きの時点で嘘でしょ。ていうか否定しようよ」


 打って変わってぴしりと指摘された。


「それに、単純に端立さんのことだけ誰かに相談したいんだったら、那木さんとか宮原さんとか雁葉さんとか、むぐの身近にはたくさん女の子がいるじゃない。お昼休みには一緒にご飯も食べてるわけだし」

「棘のある言い方だなあ」

「それを蹴って敢えてここまできたんだから、それなりの理由があるんでしょ?」


 羽燐は立ち上がるとぼくの前までやってきて身を屈める。鼻の先が触れ合いそうなほどの近さで覗き込んでくる青い瞳と、ふんわりと漂う甘い香りにぼくは身を強張らせる。


「……それは、まあ」

「ほら。やっぱり」


 どさりと身体を投げ出すようにしてソファーに腰を下ろす羽燐。その口調は初めから期待していなかったというふうだ。完全に見透かされている。

 実際のところそのとおりだった。羽燐のところへは別の目的があってきたのだ。


「それで――この美少女探偵に解決して貰いたい謎というのは?」

「確かに美少女であることは否定しないけど、自分で言うのはどうかと思うよ」


 スカートから覗く肉づきの薄い太ももと、すらりとした長い脚を組む姿は少し蠱惑的で、ぼくは目のやり場に困って視線を外した。


第三章突入&乱刃羽燐登場!

いよいよ次回はミステリらしい謎解きが(少しだけ)待っているのでお楽しみに。

彼女が活躍する日常の謎モノの短編も上げています。よろしければそちらもどうぞ。


ちなみに、章タイトルの「乙女心は(ry」の読み方は「おとめごころはいかしょうりゃく」です。

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