表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/36

第20話 子どものままで①



 ――この世界に、醜いものは許されない。



 そう言って巨大な鋏を突き付ける人形の少女を、リオ・ヨークは悔しげに見つめていた。


(あーあ、結局、オレは子どものままで終わっちまうのか……)


 どうして? という疑問はリオの中には無かった。むしろ当然だと彼女は思う。

 なぜなら……


「……やっぱ、学年末テストを白紙で出したからだよな?」

「うん、そう」


 頷くのは、恐ろしいほどに美しい人形の少女だった。血のような赤い髪に、手足を繋ぐ球体間接。その手には、身の丈ほどもある巨大な裁ち鋏を握りしめていた。


「あなたは、正式な『市民(おとな)』になるためのテストをパスできなかった。市民でもなく、子どもでもない貴女はこの世界には居られない。だからだよ」

「だから、オレを殺すのか?」

「そう。あなたはもうすぐ『醜いもの』だからね」


 困ったような笑みを浮かべる少女を前に、リオはバリバリと頭を掻きむしった。


「ちくしょう……」

「それで、どうするの?」


 人形の少女は、リオの首の両側に鋭い刃を押し当てながら、


「テストをパスしなかった貴女は、17歳になっても市民権は得られない。今日の12時、貴女の17歳の誕生日をもって、貴女は不法市民として殺処分指定になる。今すぐにこの都市を出て行けば、命だけは助かるってアリス姉様が言ってるけど?」

「都市の外……旧世界か。ALICEはオレに、そこで乞食か身体を売って生きてけって言うのかよ」


 そんなのはごめんだ、とリオは思う。


 確かに自分はいわゆる不良生徒だった。ギャング気取りで街を闊歩していたこともあるし、気弱そうなガキからお金を巻き上げたりもしていた。喧嘩や暴力も日常茶飯事だった。


 だが、それも管理されたガーデンだから出来ることだった。このガーデンでは、17歳未満の子ども――もちろん、正式な市民の子どもに限るが――は、非常に優遇されている。カツアゲをしても罪になることはないし、そもそも子どもを取り締まるような法律は一切存在しない。もちろん、子どもが悪いことをすれば、その親が罪に問われるのだが、孤児院出身であるリオに親はなく、実質的に罪に問われる者は存在しない。


 だからこそ、リオはそれを笠に着て相当な悪事を働いてきた。恐喝、盗み、暴行、放火――人を殺したことはないが、それでも大人であれば即殺処分になるようなことばかりしてきた。


 だが、それも平和な都市内での話だ。旧世界では訳が違う。話に聞く限り、旧世界は荒廃した世界だった。日々の食事を得ることさえままならないと言うし、それこそ本当のギャングも闊歩している。そんなところで、自分のような小娘がまともに生きていけるなんて思わない。


「あーあ、大人になんてなりたくねえな……」


 くすねた腕時計を見ると、時間は午後の11時57分だった。

 あと三分で子どもの期間が終わる。それが終われば、後は殺されるだけ。


 正式な市民(おとな)でない自分に、この箱庭での居場所などないのだから……


「ちくしょう……大人になんてなりたくねえよ……」


 悔しげに目の前の人形を睨み付ける。


 そして――時間は、無常にもその時を告げた。




「時間だね。ハッピーバースデー」




 ジャキン、という音が静かに響き渡る。


 離れてゆく自分の胴体を眺めながら、リオ・ヨークはここ数週間のことを思い出していた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ