アジアンタム
「嫌だっつってんでしょ!」
聖は、叫んだ。夜の新宿は、影が多く、人が沢山いる。そんな中で叫べば相手だってひるむものだ。聖は、そのことをわかっていた。相手の男は、口をならし、走り逃げていった。「はぁ・・・。」とひとつ、ため息をつく聖の姿は、ピンヒールにミニスカ、冬だというのに、そこだけ夏のような聖域だ。バックを方にかけ、周りの目を気にしつつも、いや、当人は気にしていないが、周りの人が気にし、見ている中を歩いた。行く宛もなく、ただ、歩き回っているだけだった。さっきの男は、中年も越した男で1万でどうだ、と来たが、一万は、いくらなんでも低すぎる。聖は、プライドも高く、一万じゃ売れる体じゃないと思っていたし、確かにスタイルもよかった。
「威勢がいいね」
ちょっと、滅入り始めていた聖に営業マンに見える人が話しかけてきた。その言葉から、さっきの様子を見られていたようだった。
「ちょっと、お茶しない?」
この時間にお茶。わかっている言葉だ。誘いの言葉の一種。でも、好感の持てる男にうなずき、聖はついていった。
確かに、お茶といったが、本当に、お茶をするなど初めてであった。こんな夜中を歩いていれば、お茶をするということは、SEXをするそんなことを意味していた。ちょっと、ずれている営業マン。ちょっとしたファミレスに入って、タバコをすい始めた営業マンは、凝視する私に、あわててタバコを消した。
「ごめん、タバコ苦手だったかな?」
「え、いや、違う。」
そっか、といったが、その後もタバコを吸うようなことはなかった。
「それで、君は、名前、なんていうの?」
本名を名乗るのは、ちょっと恥ずかしかった。だから、漢字は一緒、でも読めなくもない聖と名乗る。営業マンは、悟と名乗った。そして、少しずつ話を始めた。
「びっくりしたよー、綺麗なお姉さんがいると思ったら、からまれてるし、その上、一言でそのおじさん、逃げちゃうし。慣れてるのかな?ソウイウコト。それで、ついてきたんだけど、なんかフラフラしてるし、行く場所ないのかな?と思って。」
悟は、どんどん話していく。こんな人は、初めてだった聖にとって戸惑い、そして楽しかった。
「悟サンは、なんの仕事してるの?」
新宿にこんな夜に、何をしているのか、不思議であった。
「俺はね、さっきまで、上司に付き合ってたのさ。それで、さっきサヨナラして、タクシ−でも捕まえようと思ってたわけさ。それで、仕事ってのは、雑誌編集局に努めてるよ。」
どこまでもつかめなく、そして、穏やかな人。そんな悟にどこまでも気持ちを話してしまいたくなってしまった。
「あたしね、捨てられたんだあ。カンドウってヤツ?あんまりわかんないけど、好き勝手やってたら、親にぽいって捨てられちゃったの。これでも、18なの。行き場所なくってさあ。体うって今まで、生き延びてきたってやつかな。哀しいよね。でも、体を売れば、お金が入ることはうれしかったよ。でも、やっぱり、哀しいよね。」
悟は、ゆっくり聖の話を目を瞑り聞いていた。そのうち、コテンとテーブルにうつぶせになって寝てしまった聖は、ちょっと困ったような悟におんぶされて、ファミレスを出た。
目を覚ましたところは、ちょっと白が多すぎる、いや、すべてしろ?というような部屋で寝かされていた。洋服は、そのまま、靴は、履いていなかった。目をこすり、ゆっくり起き上がり、はだしでその部屋を歩けば、昨晩に出会った男、悟がソファーで寝ていた。そのまま寝てしまったようで、ネクタイを少し外しかけ、横になっていた。聖がベッドを占領したために、悟は、ソファーで寝たようだ。
「・・・変な人。」
聖は、自分の寝ていたベッドから、布団をソファーで寝ている悟へとかけた。机には、ひとつ、ビールの缶が置いてあった。寝る前に飲んだのだろう。そして、横にある薬。ハルシオン。新宿にいれば、誰でも知っているだろう、ハルシオンは、睡眠導入薬である。眠れない人なのだろうか?そんなことも思いながら、時計を見た。6時半。久しぶりの1時間以上の熟睡。そして、悟への感謝。この家をでよう。少し、暖かすぎて、苦手だ。悟へと、小さな声で「ありがとう」と言い立ち上がろうとしたときに、手首をつかまれた。
「・・・どこへ行くの?聖ちゃん。行く場所、ないんでしょ?」
「・・・ッ」
言葉にならなかった。彼は、彼女をここに置くつもりだった。「いつまでもお世話になれない。そう、思ってる?」
聖は、コクンと頷き、下を向いた。
「俺は、君が気に入ったよ、だから、ココを居場所にするといいよ。出たいときはでればいい、帰ってきたくなったら戻っておいで。カギは、渡しておくよ。」
そういい、悟は、立ち上がると背伸びをしながら、机の上においてあるカギを聖の手の中にいれた。にっこりと笑い、まだ7時にもなってない・・・といいつつ、顔をあらいに、洗面所へと姿を消した。
聖は、混沌としていた。何故、昨日、初めてであった人物にここまでしているのか、わからなかった。聖は、逃げ出したかった。勢いよく外へでて、また、人ごみの中へと入っていった。
そして、人ごみの中にもまれながらも、いつもの場所へと行った。考えるのは、彼のことばかり。聖は、ゆっくりとその場へと座り込んだ。親に反抗したくて、仕方がなくて、髪も金髪へと。そして、ピアスもあけて、口も悪くなり。相手のこともあんたと呼び、産んでくれた母のこともババアと呼ぶようになった。そんな聖を、少し暖かくて、恥ずかしい場所を悟は与えた。あの夜に、ただ声をかけられたのは、あたしではなく、他の人だったら、どうしよう、そんな気持ちも芽生えた。
今の手持ち金で、美容室へと行った。髪を黒では、恥ずかしくてできなかった、けど、金髪はやめて、茶色にした。美容師さんは、可愛いですよ、といってくれたけど、慣れない茶色に彼は、喜んでくれるだろうか。そう、思ってしまう自分に恥ずかしく、そろえてもらった髪は、ストレートに流れていた。昼間の生活は、いつも寝ていた。バッグに入れてあった洋服は、すべて悟の家へと忘れてしまった。寝ている時間に、起きている聖。不思議な感覚でアルタ前へとついた。夜は、もうちょっと人が多い。今は、人が少ないな・・・そう思いながら、真ん中へと座り込んだ。今日は、まだ、何も食べていない。そう考えて時計を見れば、もう3時を指していた。おなかがすいたなあ、と思うと、少し残る手持ち金の少しを使い、ハンバーガーを食べた。1個で、おなかを満たせる聖は、食べれない日もあったことがあったから、慣れていて、それもまた哀しいなと思っていた。暖かな春の香りが薄くなっていくのを感じながら、アルタ前でぼーっとしていたら、あっという間に時間がすぎ9時へとなっていた。そして、何故か足を運ばせる先があることにうれしさを覚えた。彼は、もう帰っているだろうか。
家へとインターフォンを押した。なんとなく、カギを使うのは、恥ずかしかった。カチャリと昨日の悟が少しびっくりした顔をして、家へと招きいれた。
「びっくりした、髪の毛、茶色になってるから」
「うん、そう思った。金髪は、反抗したいだけだったからなの。」
「反抗か、それもいいね。綺麗だったのに、金髪も。でも、そっちの茶色のほうが似合うよ。」
聖は、照れながらも、ソファーに座らされ、お茶をだしてくれた悟に言った。
「お願い、しばらく、ココにおいてほしい。行く場所ナイの。迷惑にならないようにするから・・・。家事もする。」
悟は、聖の頭をなでた。
「いいよ、カギは、聖ちゃんに預けただろう?いつまでもいていいよ。家事も俺は苦痛にならないんだけど、暇がなくてね。助かる。」
にっこりとしてくれた悟に、聖は、安堵となでてくれる手があることにホッとした。居場所がある、それだけで聖は安心した。
それから、悟と聖の妙な生活が始まった。朝、一番最初に起きるのは、聖だった。悟は、まだ、聖の名前がセイだと思っている。セイちゃん、そう聖のことを呼ぶのであった。悟のことを聖は、悟サンと呼んでいた。聖は、一番に朝ごはんを作った。誰かのために作るなど、初めての体験だった。家では、ほぼ一人でいることも多く、親も御飯など作ってくれなかったから、本などで勉強して、なんとか目玉焼き・・・いや、中華料理、フランス料理・・・色々な分野を勉強していた。そんな朝ごはんは、いつも御飯と目玉焼きが目立った。冷蔵庫の中のものがなくなってくると、悟が勝手に買ってきて入れておいてくれた。それでも、欲しい食材があれば、買ってきていいよと、冷蔵庫には、5000円が磁石でとまっていた。それがなくなるとまた、新しく5000円を貼っておいてくれていた。そんな気配りまでしてくれる悟に、毎日おいしいものをと聖は、頑張っていた。
8時になると、悟は、家をでて、仕事へと向かった。その間、聖は、部屋で一人きりになるのだった。その時間、悟の部屋から、本を取り出し読んでいることが多かった。色々な本が天井までずらりと沢山並んでいた。そのものは、恋愛小説から、政治の本まで。その本を少しずつ選び、読み始めた。やはり、悟は、変人なのでは、と思うような本まであり、びっくりすることもある。
そして、9時には、夜の付き合いがなければ帰ってきていた。その時間までの間に、悟は、聖の携帯へと電話をかけていた。携帯は、悟が聖へと与えたものだった。どれだけでも使っていいよとのことだったけど、聖は、悟との連絡用にしか使っていなく、いつも、定額料金しか払っていなかった。電話は、8時頃には、かかってきていた。「今どこにいるの?」という内容が多かった最初の頃の電話。それも、最近では減っている。というか、なくなっている。そして、最近は、「夕飯何?」というようになっていた。どこかの家庭のようだった。夜、遅くなる場合は、必ず6時には連絡を入れてくれていた。それ以外は、こちらからかける以外何もなかった。その電話をきっかけに御飯を作るのが聖の役目となっていた。
家に帰ってきた悟をカギの音で察知し、玄関まで迎えにいくことも日課になっている。おかえりなさいという言葉に、疲れが吹っ飛ぶよ、聖ちゃんがうちにいるようになってから、俺、嬉しいし、家に早く帰りたくなる、そう言ってくれた。暖かな気持ちが伝わってくる悟の言葉に泣きそうになる聖をみて、頭を撫でて背中をポンポンとたたいてくれた。そして、言うのだ。「こんなに可愛くて、優しくて、いい子なのに捨てる親がわからないよ。」と。その言葉に、聖はやっぱり泣いてしまうのであった。
そのあと、二人で夕飯を食べながら、話をするのであった。そして、寝るときは、新しく買った一番大きいサイズのベッドで二人で転がって寝る。部屋は、広いが、それでもベッドの大きさもすごいものだ。時々、寝る前に遊ぼうといって、カードゲームを二人で楽しむこともあった。勝つのはいつも悟だったが。負けたほうは、肩をもむということが決まっていて、いつも肩もみを悟へと聖はするのであった。
「最近は薬飲まないよね、悟サン。」
「そうだね、聖ちゃんがいるからかな?」
ニヤリと笑った悟に聖は、照れて笑うのであった。同居生活を始めて、3ヶ月があっという間に過ぎていった。
悟は、久しぶりの休暇に、ソファーに座りながらテレビを見ていた。そんな悟へと、聖は聞いた。
「悟さんって、いくつなの?」
「ん?24。」
「え?ホント?あたしと6しか違わないの?それなのにこんなにリッチなの?」
「リッチかあ・・・。面白い言葉を使うね。親の七光り・・・ってやつかなあ・・・。」
悟は、少しうつむき加減で、言った。聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。わからないけど、ごめんなさいと小さな声で謝った。そんな言葉さえも優しく受け取る悟は、いいよ、とにっこりした。そして、その日の夜の悟は、ハルシオンを飲んで寝た。
朝、5時頃に目覚めた聖は、ゆっくり、悟を起こさない様にベッドから抜け出した。ちょっと、出かけてきますという書置きを残し、家をでた。合鍵で、部屋のカギを閉めてから。悟は、家を出ていくまでの過程をすべて、見ていた。寝ているフリをしていたのだ。はあ・・・と一言息をこぼすと会社へと電話をしてから、寝巻きを着替え、会社へと出かけるわけでもなく、スーツを着て出かけていった。
その頃、聖は、自分の家へと帰っていた。母の姿しかないその家には、崩壊すれすれであった。母は、聖の姿をみるやり、目の色が変わった。
「何!?なんでアンタがココにいんのよ!!アンタのせいよ!全部・・アンタが・・・。」
ほほをたたかれて、下を俯く聖は、ほほをさすった。
「お母さん・・・」
「アンタにお母さんなんて呼ばれたくない!そうよ、アンタは勘当したの!すぐにでてって!!!」
「いただいてもよろしいですか?」
男の人の声。聖は、後ろを見た。いつもの声、いつもの影。そこには、さっきまで、一緒の布団に入っていた悟のものだった。
「初めまして。お嬢さんを頂にまいりました。いらないのでしたら、モライマス。では。」
そういうと、悟は、聖の手を引き歩き出した。後ろからは、母の嘆き声が聞こえた。何も話さない悟に聖は、泣きながら話始めた。
「あ・・・あたしね、今なら、仲直りできるんじゃないかなって・・・思ったの。少し、変わったと思うの・・・。でも、出来なかった。これからは、ちゃんとするっていえると思ったの。あの調子だと、父も怒ると思うの。・・・悟サンは、知ってたの?うちのこと、知ってた?ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。」
悟は、何も言わずに、悟の家へと聖を入れた。温かいコーヒーと寒いだろうと思う姿に毛布をかけ。そして、悟は言った。
「知らなかったよ、君の家は。ただ、君のあとを追ったら、あそこについたんだ。ごめんね、でていくところを見たんだ。でも、きちんと、は、出来なかったけど挨拶は出来た。聖は、ココに住んでいいんだよ。ずっと、一緒にいよう。」
その言葉に、溜め込んでいた涙が流れた。
「大丈夫だよ、俺は聖を捨てないよ。名前、ヒジリっていうんだね。でも、俺は、セイちゃんって呼ぶからね。」
にっこりとした顔に、聖は、涙を溜めてまた流した。どんどん頭が痛くなっていく。涙が流れるたびに強くなる痛み。タオルで涙を拭きながら、悟へと言った。
「あたし、ココにずっといてイイ?」
「いいよ、何回でも出てってもいい。でも、帰ってくるのは、ココだからね。」
「うん・・・。」
聖は、にっこりとした。そして、涙をすべて飲み込み、温かなコーヒーを飲んだ。
「春だからね、花見をしよう。今日は休暇をとったんだ。」
そういって、台所へと向かった。新しく買ったであろうバスケットを取り出し、パンを取り出した。きっと、サンドイッチをつくるんだ、そう思い、聖は、台所へとむかい、手伝った。それから、ひさしぶりにのる、そう言った彼の車に二人で乗り込んだ。きちんと、バスケット、シート、それから、二人の体、すべてを乗せ、ちょっと遠めの公園を目指した。
その車の中で、二人で少しずつ話し始めた。
「悟サンは、いつも女の子とこんなことしてたの?」
「心外だな、俺のナビに乗せたのは、聖ちゃんが初めてだよ。」
「ホント?いいのかなあ、あたしなんかで。」
「いいよいいよ、ずっと、ナビに乗せてあげる。」
「ありがと」
この人なら、信用できる、そんな気がした聖は、少し俯いた。すかさず彼は聞いてきた。「どうしたの?」と。
「あたし、信用できる人いなかったの。誰もあたしの事なんか見てなかったし。誰も、あたしのことを知ろうとしてくれなかった。だからかな、ぐれちゃって、勘当されちゃって、さっきみたいに追い返しにあっちゃって。自分の家のはずなのにね?おかしいよね。でも、お父さんとお母さんのこともなんとなくわかるんだ。きっと、子供だったんだよね、あたしが。両親のことわかってなかった。それで、ぽいってされちゃったんだよね。」
何も言わず、悟は、聞いていて、少し突っ込んだ。
「なんでもかんでも自分のせいにしちゃ駄目だよ。両方とも悪いところがあったんだ。それが、分かり合えなかっただけだよ。こんなに空は広いんだよ。分かり合えないことがあったってそれは、ごく普通なんだよ。空が、あるのが当たり前のようにね。」
俯いている聖の頭を撫で、ハンドルをとられないように気をつけながら車を走らせて、ようやくついた公園は、桜がとてつもなく綺麗だった。しかし、その公園を通りぬけ、また違う道へと進んでいった。
「?どこに行くの。悟サン」
「ん?ちょっとね。」
そして、公園から車を走らせ数分。綺麗な商店街についた。
「うわああ、こんなとこ初めてつれてきてもらった!」
聖は、目を輝かせた。そして、悟にひかれて、ついたのは洋服を扱っている店だった。
「いつまでも、そのカッコだと恥ずかしくない?もう少し、髪色にあった服を着よう?」
そういって、店の中を二人で色々考え、ワンピースと薄いジャケットを買った。そして、聖は、バツが悪そうに、上目遣いで聞いた。
「こんなに買ってもらって・・・いいの?」
にっこりと笑って、悟は、会計をすますと、着替えておいでとその服を聖へと着させた。可愛いね、とお世辞を言ったのか、本音なのかわからなかったけど、ありがと・・・とぼそっと呟いた。次にいったのは、靴屋だった。彼は、知っていた、ピンヒールをいつもはいている彼女の足がボロボロだということを。
「もうちょっと、いい靴はかなきゃね。綺麗な足がボロボロだ。ワンピースには・・・コレが似合う。コレでいい?」
女の子の買い物に着たかのように悟は、楽しんでいた。お花見するんだから、少しはおしゃれしなきゃね、と。そして、最後についたのが、ジュエリーのお店だった。
「何?なんか買ってくれるの?」
少しからかって、いってみたつもりの言葉だったけど、悟は言った。
「買ってあげるよ。結婚指輪は、まだだけど、婚約指輪、買ってあげる。」
聖は、びっくりして、目を真ん丸くあけた。そして、聖は、ほとほとと涙をこぼした。
「買ってもらう価値、ないよ。あたし、最低だもん。それに、婚約なんて聞いてない・・・。」
「聖ちゃんちいったとき、もらうって言ったじゃないか。」
キョトンとする聖にたいして、どれがいい?と聞く悟。聖が何も言わないので、悟は、定員に今どれが売れてますかとか色々聞いていた。それを見て、聖は、ゆっくりと初めて彼の背中に抱きついた。捨てられてばっかの人生だったけど、温かい背中も悪くない。抱きついたことにも気にせず、どうしたの?いいのみつかった?などと聞いてくる悟に聖は、コレ!と、ダイヤが小さく散りばめられた指輪を選んだ。地味なのがスキだね、そういって、悟は、早速カードで買って聖の指にはめた。もちろん薬指に。「結婚指輪は、もうちょっとあとにしてね、お金がなくなっちゃう」と笑いながら言った。
さっき、通り過ぎた公園へと向かうと二人でシートをひいて、青い空を眺めながら、二人でつくったサンドイッチを食べた。
「なんでだろうねえ、なんで、出会ったんだろうねえ。」
「・・・後悔してるの?やっぱり、指輪返す?」
「そういう意味じゃないよ。」
シートの上にねっころがり言った。
「なんていうのかな?運命ってことなのかな?街中で出会っただけなのにね。その女の子の可愛さに惚れちゃっただけなのにね。婚約指輪まであげるところまでいくとは思わなかった。あ、いい意味でだよ。」
そう、付け足す悟に目じりに涙を溜める聖は、悟と手を繋いだ。悟は、びっくりしたようだが、聖は、空をずっと眺めていた。
街中で、何かするわけでもなく過ごしてた日々が懐かしい。でも、あのときよりもずっといい。悟と手を繋いで一緒にいれる時間が楽しい。指輪は、永遠と輝いていた。
愛を与えなければ、しんじゃいますw
主人公は、純粋な上、こうなっちゃったんじゃないかなーと思います。