第一話:Silver Bullet
こんばんわ
お久しぶりですSEIMAです
難産でしたがどうにか書き上げました。
いつもと違ったテイストですが、読んでいただけるとありがたいです。
早春の朝
心地よい日差しが部屋の窓から差し込む
そんな朝の光景の中、部屋の中では一人の青年がベッドで身を捩る
部屋の外から、足音が聞こえる短いリズムを刻むからその主が走っていることがわかる、その足音も部屋の前で止まり、すぐさまドアの鍵の開く金属音が響いた。
開く扉、油の切れた蝶番の軋む音と共に足音が近づき、ベッドのそばで立ち止まる
そこに立つのは一人の少女、深紅のブレザーと同色のスカートという組み合わせは、誰もが『学生の制服』と言うだろう、事実この少女はこの日、高校に入学する高校生である。
艶やかな黒髪のショートカット、パッチリとした瞳が印象的は容姿は道行く誰もが『可愛い』と形容するものである。そんな彼女が青年のベッドのそばでなにをするか、答えは一つである
「アキラさん、起きてください!朝ですよ!!」
開口一発、そう叫ぶ少女の声を聞いて青年は、ゆっくり起き上がる。
かかっていた毛布が滑り落ち、男の裸の上半身が姿を現す。
傷だらけの引き締まった肉体は、しなやかな獣を思い起こし、寝ぐせ混じりのアッシュブラウンの髪は朝の青年の心境を映している。容姿は整っており中でも瞳は冷たく鋭い。
名前は、氷室命職業は便利屋、近年多くなった巨悪犯罪対策での要人警護や近所の民家の草刈りまで請け負う、いわゆるなんでも屋である。
しかしそれも表向きの顔、実際はまた別の職種なのだがそれはまた別の機会としよう。
命はベッドから降りると無言のまま少女の真横を通りすぎ、部屋にユニットバスに備え付けられた洗面所に向かう。
「ちょっとアキラさん、いきなり無視はないんじゃないですか?」
「……おはよう」
そうつぶやくと、命はバスルームに入っていく
「もう………」
少女はつまんなさそうに唸ると、部屋を後にした。
しばらくたち、身支度を終えた命は部屋の近くにある階段を下り部屋の真下にある喫茶店に降りてくる。
『喫茶 アイリッシュ』それがこの店の名前である、二階建てアパートの一階に店舗を構え、二階はその店主の家族の住居その隣に命の自宅にしている。
命は店の扉を開けると、目の前には初老の男がグラスを磨いていた。
「おぉ、起きたか」
男はそういうと、命はカウンター席に座り男を見据えた。
「ホットドックとコーヒー……ブラックで」
「あいよ」
命がそう注文すると男は苦笑いを浮かべながら、準備を始めた。
「……海菜のやつ、今日から高校でしたっけ?」
「ああ、9時半までに学校着かないとならないらしい………頼めるか?」
「朝飯奢りなら………」
命がそういうと、男は笑いながらコーヒーを命の前に置き、続いてホットドッグを置いた。
命は手早く、それを口に運ぶと、一呼吸を置いてコーヒーを飲み始める。
「もう、10年も経つんだな。お前がここにきてから」
「………そうですね、純さんには色々お世話になりましたね」
純と呼ばれた、初老の男。
名前は『志波純』アイリッシュのマスターで命の恩人である、昔は名の通った殺し屋で、命に生きる術を教えた張本人である。
命を起こしに来たのは、彼の娘の『志波海菜』である。
二人が昔話を始めようとすると、命のコーヒーが無くなっており、振り返ると海菜がそれを飲んでいた。
「ふぅ、ごちそうさま、アキラさんそろそろ。お父さん行ってきます」
「おぅ、行ってらっしゃい。アキラ頼むぞ」
純の言葉に命は頷くと、一路自室の戻るため店を後にした。
部屋から、ヘルメットとグローブをとって戻ってくると既に駐輪所にはヘルメットを持った海菜がいた。
「アキラさん早く早く!」
海菜に促され、命は歩きながらヘルメットをかぶりグローブをつけると、愛車の鍵を外し、車体を道に向け、跨った。
海菜もすぐさま、バイクの後ろに乗ると鞄と命の体を挟むようにしがみつく
命は後方の海菜の安全を確認すると、バイクのセルを回しエンジンをかけると、一路海菜の通う高校へ急いだ。
『私立紅高校』
それが海菜の通う高校の名前である、創立5年の準設校でスポーツが盛んな学校である。
命はその校門で海菜を降ろすと、彼女が被っていたヘルメットを受け取る
「ねぇ、入学式見ていかないの?」
海菜がそう言い命を見上げる、命は手に持っているヘルメットを弄びながら考える
今の自分の恰好は、黒の長袖のシャツに同色のライダースジャケット、下は黒のパンツという服装、明らかに式典に出るような格好ではない、今のとこ予定はないが果たして自分が出ていいのか。
命は考えを巡らせる
「深く考えない方がいいよ、入学式といっても特になにするわけじゃないしさ」
海菜がそういうと、命は肩を竦ませバイクを降りた。
それを見た海菜の顔が華やぐが、命はそれを見ずに近くにいた職員に駐輪所の位置を聞きそこに向かってバイクを押して行った。
「はぁ……」
「ミーナ!」
「ひゃ!」
ため息をつく海菜の後ろから、一人の少女が近づき後ろから海菜の胸を鷲掴みにした。
「ちょ、ちょっと秋穂、やめてよ」
「いーやーだ。入学早々辛気臭い顔している罰だぁ」
秋穂と呼ばれた少女は、海菜の胸から手を離すとすぐさま、その脇腹を揉み始める
「ちょ、ちょっと、や、やめてぇ」
泣きそうな声で懇願する海菜、しかし秋穂の手は止まらない
「さっきの男は誰よ、海菜の彼氏?」
「ち、ちがう、アキラさんはお父さんの知り合いでぇ」
「へぇ、『アキラ』さんっていうんだ、かっこいい人だねぇ」
「そ、そんなことより早くいこうよ、遅刻しちゃう」
「そうだね」
秋穂はそういうと、海菜の脇腹から手を離す。
擽られた影響で呼吸が荒くなる海菜に手を差し伸べる秋穂、二人は足早に昇降口に向かって駆けて行った。
海菜達がじゃれ合っている頃、命は一人紅高校の校内を歩いていた。
命は高校を出ていない、というよりは中学も碌に通っていない13から今の仕事を始めたために中学に通う時間がなかったのだ。
命には血の繋がった家族はいない、命が5歳のころに借金に苦しんだ両親に捨てられストリートチルドレンとして生きてきた。
その後紆余曲折の末10歳のころに、純に拾われ読み書きと生きるための技術を教わった。
もちろん、義務教育は純の好意で受けさせてもらっているが中学入学してからは純の仕事を手伝い卒業後に独り立ちした。
独立後は決して楽ではなかった。仕事の失敗が多く命を失いかけたことも多々あった。
だが、信じられるのは自分の身一つだけ、そう考えて生きてきた。
多くを殺し、多くの返り血を浴びてきた。
そんな自分が、新たな出発を祝うこの場にいてもいいのだろうか
命の脳内で葛藤が生まれた。
こういうときは愛銃を弄んで気を紛らわせるのだが、場所が場所だからそれは出来ない
命は、ため息交じりに手首を振り払いポケットに納めると、入学式が行われる体育館に向かい歩きだした。
「1年A組 河野太郎………」
入学式は、順調に進んでいた。
周りの府警は皆、スーツや着物といって礼服、平服は命一人であった。
「1年C組 志波海菜」
「はい!」
男性教師の声に海菜が答える、次々に名前を呼ばれる生徒たち、そのたびにカメラのフラッシュがたかれる。
そんな光景を、見ながら命はパイプ椅子に凭れかかった。
式自体は退屈なものである、しかしこの空気の緊張感は嫌いではない、新しい門出に緊張する生徒たちの顔は、父兄ではない命も顔を綻ばせるものである。
式典が終わり新入生たちが退場を始める、海菜のクラスが退場していく途中、海菜が命の存在に気が付き手を振る、命もそれに答えるように手を振り返すと海菜の周りの女子たちがそれを問いつめるように集まりだした。
命はそれを横目で見ながら、立ち上がり一人体育館から出て行った。
体育館から出る命は、愛車を置いた駐輪所に向かった。
手には途中自販機で買った缶コーヒーが握られており、バイクのそばに付くとプルタブを開けた。
缶コーヒーの薄い豆の香りが鼻腔をくすぐる、命はそれを口にすると息を吐いた。
海菜の入学式を見て命は、どこか心が温かく感じていた。
10年という長い付き合いであり、実の兄弟のように仲がいい、自分に妹がいれば多分同じ感情を感じるのだろう、命はそう思いにふけながら空になったコーヒーの空き缶を目の前のごみ箱に投げると、携帯が鳴った。
「もしもし」
『もしもし、アキラさん?海菜だけど今どこにいる?』
「駐輪所だが?」
『わかりました、今から行きますね………。ちょっと今電話中……』
海菜のその声と共に電話が切れる、命はそれを不審に思い一路、皆のクラスに向かって歩き出した。
海菜は意外と早く見つかった。
否、見つかるような状況であった。
上級生らしき男たちと揉み合う海菜とその友人たち、それだけを見ればよくある新入生にお近づきになりたい思春期男子の日常だが、命はある一点に注目していた。
揉み合う男子生徒の後ろにいるリーダーらしき男、その身のこなしが『異常』なのである。
いや、この場合は上半身の重心がおかしい、普通に比べ高いのだそして男の制服からかすかに匂う嗅ぎ慣れた火薬臭、男は銃を持っている。
犯罪が多発する今日、日本でも自衛のための拳銃の携帯が解禁され、20歳以上で前科もちでなかったら誰でも持つことができるのだが、その裏では未成年対象にモデルガンを改造した銃が売られている、この男もその例に漏れない。
命は小さくため息を吐く、普通ならここで愛銃を抜いて相手が抜く前に無力化するのが常套手段なのだが、今は『表の時間』発砲沙汰は起こしたくない……だが。
「行くしかない………」
命はそう呟くと、人込みをかき分け海菜のそばに歩み寄った。
「そこまでだ、あんまりしつこいと嫌われるぜ」
「うるせぇ、ジジィは黙ってろ!」
命の制止を聞かずに、男子生徒の一人が海菜に近づいていくそして、海菜の後ろにいた女子生徒の一人がその男の頬を叩いた。
「いい加減にしなさいよあんた達!」
「あん?味方が増えたくらいでイキがってんじゃねぇぞ!!」
叫びながら、再度向かってくる男の肩をリーダーが掴んだ。
そして制服に手を突っ込み、銃を抜いた。
(ワルイのワルサーPPKの改造銃か………)
命は内心でその状況を苦く思いながら何気なく海菜を自分の背中に隠した。
「ねぇ、お兄さん。そこをどいてくれないかな?僕たちはただその子達と親睦を深めたいだけなんだ」
「物騒なモン抜いといて、その言いぐさはないと思うが?」
「わかないかな、これはお兄さんを消すために出したんだよ!」
リーダーがトリガーに力を加えると同時に命は、ワルサーの銃底を蹴りあげた。
空に向かって放たれる銃弾、リーダーが銃を振り下ろすその僅かなラグの間に振り上げていた足をそのままリーダーの肩に落とし、バランスを崩させるとその緩んだ手から銃を奪い相手の眉間に突き付けた。
その瞬間取り巻き達は逃げ出し、リーダー自身も尻持ちをついた。
「相手をよく見て、動くんだったな」
命はそう言いながら、ワルサーからマガジンを抜くとそこから弾を弾き飛ばし、空になったそれを投げ捨てる、そして残ったスライドの中の弾丸を男のまたの間のスレスレに撃ちこむとリーダーは失禁し、気絶した。
騒ぎが収まるのを待たず、海菜を連れ命はアイリッシュに戻ると、事のあらましを純に話すと純は豪快に笑いだした。
「そいつは、災難だったな、知らないとはいえプロ相手に喧嘩(無茶)する奴がいるなんてな」
「最悪ですよ、せっかくのよき日に」
「まぁ、そういう害虫を駆除するのも兼ねた依頼だったんだがな」
純のその言葉に、命は眉を顰めるとカップに入ったコーヒーを一気飲みし、代金を払うためにジーンズのポケットから財布を取り出そうとした瞬間、店の扉が開き一人の女性が入ってきた。そして、カウンター席に座ると徐に注文を口にした。
「ブレンドとチーズケーキ、それとシルバー・ブレッドをお願いできるかしら?」
読んでいただきありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
オリジナル小説ですが今作の主人公はいつもと違ってあまり喋らないのでキャラの間が掴めなくて苦労してます。
まぁ、慣れたら違うと思いますが
さて、次話はどんな展開なのでしょうか
今後をお楽しみに
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