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挿入話~act.2~私が弟(キミ)の願いに気付いた理由(わけ)

挿入話~act.2~私がキミの願いに気付いた理由わけ




 ジュリアスがした事を――――

この事態にリオンは息を止まるほど魂消たまげた。


 チュ。


 その時今まで兄二人の話の外にされていたサリア、そのサリアの可愛いピンクの唇に、何とジュリアスはキスを一つ施したのだ。


「!!!?」


 しかも唇を奪われた当のサリアはというと、このキスに驚く事もまた嫌がる素振りもなく静かにされるがまま、しかも直ぐに目を瞑ってニコニコと受け入れていたのだ。

 そのことにもリオンは驚く――――この二人、この行為は初めてではないのかと。 


 すっかり驚きで放心したリオン。


 そしてその彼を余所にジュリアスはキスをし終えると、キスしたサリアに笑いかけた。

「どんな感じがした?」

「うんとね、ちょっとくすぐったかった」

 その感想にジュリアスは目を細めて妹を見つめた。

「それでいいのさ」

「?」

 目をぱちくりさせて疑問を深めた童女に、彼女の兄は幼い妹が納得出来るように、そして分かり易く語りかけた。

「いいか、サフィー。“男の味”というのは食べ物じゃないんだ」

「そうなの?」

 サリアはきょとんを訊ね返し、ジュリアスは頷いて説明を続けた。

「そうだ、そしてサフィーは女の子だろう」

「うん」

「だから“男の味”というのは、女が色々と自分以外の男の仕草を感じることさ」

「しぐさってなあに?」

「さっき俺とキスしただろう? あれもその仕草の一つさ」

「じゃあ、あれが“男の味”になるの? でもジュリアスにいさまだから“にいさま”の“アジ”かな?」

「……まぁそうなるな」

 すっかり問題解決したサリアは明るく笑って訊ねると、ジュリアスは微笑と共に肩をすくめ、それから彼女の額をコツンと自分の額に重ね合わせてこう言い聞かせた。


「だが、他のヤツには絶対にするなよ。そなたが味わう“男の味”は俺だけ(・・・)にしておけ……な?」

「うん、ジュリアスにいさまだけね」

「ああ、約束だぞ」

「うん!」


 それは仲がよい兄と妹の情景。

妹の分からない事を優しく諭す兄の姿。

そのやりとりを、幼い二人の交わす頬笑ましいキスを目撃して驚いた後、傍観者となっていたリオンは、まだ黙したまま見ていた。

 

――――「ジュリアス…君は……」


 傍観者となっていた間、リオンはその言葉を云おうとして言い淀んでいた。

 そこにはサリアが今回彼に提示した『あのね、おしえて』が無事事なきを得て解決したという安堵はない。

 弟と愛娘のやりとりを眺め続けるリオンの表情は戸惑いを浮かべ、心は考えに沈んでいた。


 自分の目の前でサリアにキスをしたジュリアス。


 ずっと妹思いだと思っていた異母弟が、この瞬間だけは兄として振る舞う姿に到底リオンには見えなかったのだ。

 最もリオンが呆然と見守るこの幼い兄妹達のキスタイムは、そう長い時をかけるものではなく、瞬きを数回している内に終わった。

 だが理性心を保つ事に長けたフィンダリア皇太子に、これほど驚倒させた衝撃事件は昨今皆無に等しい。


 その時リオンの目に映ったのはまるで恋している少年。

 しかもそんな恋心を寄せている相手、それが今自分の腕に抱っこされている愛娘かのように。

 そうジュリアスにとっては紛うことなく実妹に。

 この時リオンはある一つの結論に至る。

 一族の血の系譜。

その歴史を紐解けば、フィンダリア帝室は近親者間の結び付きが非常に突出している。

この要因については今日いくつか仮説が専門家の間で立てられてはいるが、時折、異常なまでに身内を求める傾向が強く、その情愛を注ぐ者が多々(あらわ)れたからでもある。

しかもそうした人物ほど激情家で、恋慕の相手である肉親を形振り構わず求めた。

その為肉親への恋に狂った者は、多くは体裁を整えその身内と添い遂げた。

 一族の歴然たる事実として、その結果が近親婚である。

 だからリオンはかくもこう煩慮し始めた。


  ジュリアス…君もそうなるのか……?

  ジュリアスもまた、過去の一族の先人達の様にゆくゆくは同じ事を望んでいるとしたら……?


 こうして目に見えぬとんでもない悩みの種を一つ、この弟からぶつけられたフィンダリア皇太子。



、残念ながら現時点ではまだ気づいてしまった戸惑いの方が大きくて、しっかりと今のリオンは熟考しかねていた。


(いや…普通なら『近親愛』なんて反対すべきなのだろうが……)


 しかし前例がある以上、そうは出来ないお家事情。

 それに、何とリオン自身にも思わぬ利点があったのだ。

 

 後継者たる息子のいない皇太子じぶん

 その皇太子たる自分がもし次代あとを任せるとしたら、この異母弟ジュリアスの他に考えられないのも事実。

何れは正式に異母弟を後継者に指名するだろう。

だがその時、密かにもうけた己の愛娘(サリア・フィーネ)を娶せて、一緒に娘の行く末を託せるのなら――――

 そして異母弟ジュリアスだけでなく、成長した己の愛娘(サリア・フィーネ)もまたそれを望むのなら――――


(……そ、それはそれで大団円ハッピーエンドなのかな……?)


 そうリオンはう~んと当惑しつつ考えた。


☆。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜☆。.:


 

 こうしてサリアの「おしえて、あのね“男の味”」の一件から数日経った。

 その後、あれからのリオンはというと、あの時気づいてしまった異母弟の想いを一人胸の内にしまい、困惑の日々を過ごしていた。


 可愛い異母弟と愛娘が晴れて結ばれて大団円ハッピーエンド


 そうは思えども、やはり近親相姦には抵抗がある。

ましてや二人の生母にして、彼自身が一身に愛を注ぐ皇后クラヴィア。

 その彼女が一体この事をどうおもうだろうかと。

いや、そもそも彼女は考えた事もないだろう――――兄と妹による婚姻など。

 そう、彼女にはリオンと違い近親相姦を許容する免疫がない。

 彼女に何て打ち明ければよいのか。

 悩みはまずそれに尽きる。

 かくてリオンは、側近達に心配させて日々悶々とため息ばかりこぼして過ごしていたのだ。


 だがそんな時だった。


「これは兄上…皇太子殿下お久しぶりです」


 リオンは父マチス・ガルボ三世に呼びつけられ、皇帝の執務室に足を運ぶ途中、偶然にも異母弟の一人、父帝の第二皇子に当たるジョアンと出会った。

 滅多に会わない、いや会う必要のない異母弟ジョアン・ガルボ。

 彼の実弟セネリオ曰く「馬鹿ジョン」。

今はシレジアに行ってしまった実弟と違い、リオンはあからさまにこの異母弟と対立してはいない。

 最も嫌いではあるが。

 だが態度に出さずこの異母弟に対し柔和に接する事が出来るリオンは、この時他者に向ける温厚スマイルを異母皇子に向けた。

「やあ、本当に久しぶりだねジョン。 しばらく奉領地に行っていたんだったね、あちらは変わりないのかい」

「ええ、お陰様で」

「そうかそれは何よりだ、差し詰め父上のところに帰城の挨拶に行ってきたところかな?」

「はい、そうです、この子と一緒に――――」

 リオンはその時になってようやくジョアンの腰の辺りに、まだ幼い少年がいる事に気づいた。

年の頃ならサリアよりもやや年長、だがさほど歳が離れていない様にみえる。

気になったリオンはその少年の素性について異母弟に訊ねた。

「ん、その子は……? もしかして君の子かい?」

「ええ、今年八つになります長男です。 ほら、こちらはお前の伯父上であられる、挨拶をしなさい」

「はじめまして、伯父上。 “マチス・ガルボ”です」

 

 それは現皇帝と同じ二つ名。

 そしてリオン自身と同じ名を持つ甥。


 リオンはその少年について思い出した。

 彼が生誕した直後の事を。


――――この少年の名に込めた異母弟の意図を。

 

 リオンの内面に秘めた冷徹な部分が嗤う。

だがそれを目の前の親子に見せるほどリオンは愚かではなかった。

リオンは目を細めて同じ名の甥に挨拶をした。


「やあ、そうか、君があの“マーティー”か……大きくなったね」


 フィンダリア皇太子の甥は濃い茶の髪と琥珀の目をしたなかなかの愛くるしい子供だった。

彼が話しかけると照れたのか、父親の背に隠れてしまう。

しかしそれでももじもじと少年は「はじめまして、伯父様」とリオンに挨拶をした。

優しい伯父の仮面をつけたフィンダリア皇太子は、そんな少年に笑みを強めた。


「良い子だね」

 そう口にしながら「父親に似ず」……とリオンは内心毒づいた。

 すると、そんな兄皇太子の裏の心情に気付いていないジョアンは、自分の愛息を見て微笑する彼を見て、大いに親バカぶりを発揮した。

「どうです、兄上、俺に似ず良い子でしょう」

 一方、このさも息子自慢の異母弟にリオンはとりあえず笑顔で相づちを打った。

「俺に似ず」という彼の言葉に苦笑で同感して。

「ハハハ、確かに君に似てとても元気で健やかな子だ」


――――それは、父親きみと同じ身体だけは丈夫だね、というリオンのやや暗喩が含まれていない事もない。


 しかもその話法。

 直球でバシバシ容赦なく攻めるシレジア王太子となった実弟と違い、あくまでもふんわり遅いと見せかけて、実は鋭いスライダー責めというのがこのリオンの異母弟達に行う口たたきだった。

 

 こうして表向きこそにこやかに笑って毒づくリオンだったが、次の瞬間、彼はずっと愚鈍と見くびっていた異母弟をまじまじと見返す事になる。

 それはこの異母弟ジョアンが、兄リオンが息子にニコニコ微笑む様を見て、この愛息にかなりの好感を持ったと受け取っていると安易に思いこみこう切り出したからである。


「どうです、兄上。 よければこの子を養子に迎えませんか?」


  その時、リオンは未だかつて思いもよらぬ事態を提示された。


(初稿 2010年 09月 16日)

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