手紙
あなたなら、この手紙に何を書き足しますか?
ポストに一通の手紙が入っていた
差出人の欄には自分の名前が書いてある
見覚えのない、少しだけ大人びた字だ
中には短い文が並んでいた
「明日、駅の階段で左側を歩いて」
「取引先との商談を1度持ち帰って」
どれも具体的だけれど、何のことか分からない
悪戯かと思いながらも、書いてあるとおりにしてみることにした
左を歩いていた事で落ちてきたスーツケースに当たらずに済んだ
即決しても良さそうな良案件だったが、1度上司に相談することにした
その会社は翌週不渡りを出した
どれも、あとから思えば「そうでなかったかもしれない」出来事だった
数日おきに同じ差出人から手紙が届くようになった
内容は相変わらず短くて、少しだけ先の自分の行動を書き換えるものばかりだ
「今日は帰り道で空を見て」
「その本は、返却日に返すこと」
「泣かれて辛くても、許さなくていい」
そのうち自分の生活は少しずつ、でも確かに変わっていった
ある日、手紙の封筒がいつもより厚かった
中には、一枚だけ余計な紙が入っていた
「ここまで読んだ頃のあなたへ」
そこには一行だけ書かれていた
「ここから先はあなたが好きなように書き足してください」
ふと気づくとテーブルの上に置いたはずの最新の手紙がどこにも見当たらない
封筒の中には白い便箋と、ペンだけが入っていた
そして、宛名の欄にそっと自分の名前を書いた




