エルフとカンパイ!
翌日は店が休みだったため、俺は昼間外出をした。
今日の夜は美人なエルフに会うのだ。服を新調しなければいけない。ダンテに服を買いたいと言うと嫌な顔ひとつせずに銀貨を3枚くれた。この世界での相場は分からないが、これだけあれば充分との事だった。アランは俺のことをやけに怪しんでいた。外出する事に関しても、服を買うことに関してもだ。もしかして俺がエルフのお姉さんに誘われたことを知っていて嫉妬しているのだろうか?
安心しろ。俺が彼女たちと仲良くなったらアランとダンテもエルフの村に招待してやる。
俺は村の服屋に寄って服を購入した。この世界のセンスは分からないので店主の女の子に適当に選んでもらったが、我ながら中々似合うと思う。頭に着いている忌まわしいネクタイさえなければ、だが。服屋の女の子も常に俺の頭を見ていた気がする。二日酔い以上に外せないことが恨めしい。
そうして日が暮れ始めたため、貰った地図を頼りに村を出発した。
歩いて20分ほどだろうか、目的地であるエルフの村が見えてきた。村の雰囲気は俺が現在住んでいる村とあまり変わらないが、森や川と近い位置に村があったのが印象的であった。やはりエルフというのは自然を愛する種族なのだろうか。
村に入ると、昨日会ったネルマとは別人のエルフが話しかけてきた。
「あっ!変なリボンのお兄さん!エルフの村にいらっしゃい!さあこっち来て!」
そう言われ手を引っ張られる。強引だが悪い気はしない。だが、ネルマはこの子に俺のことを「変なリボンの人」と伝えたのだろうか。
連れられた先には大きな建物があった。外見は教会のようだったが、美味しそうな匂いがしてきたため食堂なのかもしれない。
中に入ると、そこは天国のようだった。白い衣服を纏った天使のようなエルフがたくさんいた。その中にネルマもおり、俺に向かって手招きをしてきた。
「約束通り来ましたよ!」
俺はネルマに話しかける。
「いらっしゃい!よく来てくれたね!」
ネルマが笑顔で答える。
その後ネルマは紙のようなものと筆ペンを取り出して言った。
「じゃあ早速だけど、君には冒険者ギルドに入ってもらいます。ここにサインしてね!」
冒険者ギルド?ゲームや異世界ファンタジーでよく聞くあれか、本当にあるんだな。
なるほど、どうやら俺は勧誘されているようだ。エルフ族が冒険者ギルドの経営者で、昨日俺の店に来たのも営業をかけに来たのだろう。
美人からのプライベートなお誘いではなかったことは残念だが、冒険者ギルドと言われるとやぶさかでは無い。昔から憧れはあった、クエストをこなして人からお礼を言われるなんて素晴らしい仕事だ。しかも今の俺には金銭を稼ぐ手段はない。冒険者ギルドで路銀を稼ぐのは魔王討伐への近道だろう。
そう思ったが、ここでダンテたちに黙ってサインしてもいいのだろうかと疑問に思った。もしかすると冒険者ギルドも泊まり込みかもしれないし、夜にクエストをこなすならば店の手伝いが出来ない。自分から働きたいと言っておいてそれではあまりに不誠実だろう。
「あの、少し持ち帰って考えてもいいですか?是非入りたいとは思うんですが色々あって……。」
と、拒否する気はないが事情があるのだと懸命に訴えた。
すると、ネルマや周りにいたエルフが俺を取り囲んできた。そして、俺の手や腕を掴み、優しい声で囁いた。
「今入ってくれたら、エルフのみんなで歓迎するのになぁ。料理も出すし、お酒も出す。こんな美人にお酒をついでもらうなんて中々無い機会だと思わない?」
俺はそれを聞いて即座にサインした。やはりダンテたちに失礼ではないかとも思ったが、俺は常時二日酔い状態なのだ。正常な判断が出来なくても仕方が無い。
サインをした途端、彼女たちは喜び、料理の準備をしてくれた。
しばらくするとエルフらしい精進料理が運ばれてくる。キノコや野草が中心の料理だったが、味付けはしっかりしていた。岩塩をたっぷり使いながら、オリーブオイルのような良い香りの油と、ガーリックのような香ばしい香りの粉末を使用しており、食べ応えも充分にあった。
お酒に合うだろうと考えていると、まるで予知されたかのようにお酒も提供された。透明色のお酒だが、香りを嗅ぐと紛れもなく焼酎の香りがした。エルフなのに焼酎なのかと思ったが、細かいことは考えない。濃い味の料理を食べたあと、後味が残っているうちに焼酎を流し込む。これは麦焼酎だ。口触りが柔らかく、ロックで飲んでも全くキツくない。口に残る野菜の香りとキノコの旨み、調味料を全て包み込み喉の奥に流れていく。スッキリした口で料理を食べるとこれまた美味い。二杯目は炭酸水のようなもので割ってくれていた。麦焼酎の香りが炭酸で弾けることで口全体に広がる。ふと卓上を見ると、赤い果実のようなものがあった。少し齧ってみると酸っぱく、前世でいうところの梅干しのような味だ。俺はこれを取り麦焼酎に入れる。10秒ほど待ってこの果実の塩分を酒全体に広げる。その後果実を潰すことで、この果実の香りが全体に広がり、しょっぱすぎず酸っぱすぎない味になる。一口飲むと、先程までの麦焼酎とは違った表情を見せる。これ単体でも美味しく飲めるが、生憎焼酎に合うツマミも豊富にある。俺は次から次に料理と酒を楽しんだ。
俺が飲み進めるのを見て、エルフたちは喜んだ。どうやらこの世界でも飲みっぷりが良いと喜ばれるようだ。エルフたちも酒を飲みだし、俺のグラスが空になるとついでくれる。料理を俺の口に運んでくれ、俗に言う「あーん」もしてくれた。
まるで高級なキャバクラで接待を受けている気分だ。こんな良い気持ちで酒を飲んだのは久しぶりかもしれない。
酔いつぶれるエルフが出てきた頃、ネルマが俺に話しかけてきた。
「無理な誘いだったのに受け入れてくれてありがとう。あのBARで仕事がある時は無理してクエストを受けなくてもいいから、可能な時に私たちを手伝って欲しいの。」
先程までとは売って代わり、彼女は暗い表情だった。
訳を聞くと、少し前までこの村の付近は平和だったのだが、突如魔物と呼ばれる存在が増えてきたらしい。魔物は無差別に人やエルフを襲うことはしないが、出会うと敵意を見せるらしく、そんな魔物たちを追い払うために急遽冒険者ギルドを作ったとの事だ。
この村の付近に魔物がいるなら、エルフだけではなく俺の住む村にも悪影響を及ぼす可能性もある。俺にできることがあるなら協力したい。酒に酔った弾みなどではなく、心からそう思った。
朝になり、俺は村へと帰ることにした。あれだけ飲んだのに、少し頭痛がするくらいだった。やはりこの能力は凄い。エルフたちに別れを告げ、エルフの村を後にした。
帰宅すると、いの一番にアランが話しかけてきた。
「エルフの村に行っただろ?」
バレていたのか。俺はダンテが起きてくるのを待って、2人に事情を話した。勝手に冒険者ギルドに加入したことを謝りつつ、BARでの仕事に支障が出ない範囲でクエストを受けたいと言った。
「やっぱり昨日ネルマのやつに勧誘されてたか……。」
アランが言った。それもバレていたようだ。
「まあ俺の店では給料は出せんからな、この先旅をするなら冒険者ギルドに入るのも一つの手ではあるが……。」
ダンテが言い淀んでいたからか、アランが割って入る。
「魔物討伐も必要なことだが、危険だぞ。村の若い男で魔物退治に出て、未だに帰ってきてないやつもいる。だから俺は断ったんだ。そんな危険なことは出来ないってな。」
俺はもしかしたら危険なものに手を出してしまったのか。少し酔いが覚めた気がした。
「せっかく友達になったんだからあんまり危ないことはするなよ。」
アランが少し悲しそうに言った。俺は自らの身勝手でわがままな行動を反省したが、同時にネルマの悲しそうな顔を思い出した。
「確かに俺は魔法も使えないし弱い。けど、もし少しでもこの村やエルフのためになにか出来るならやるだけやってみたいんだ。わがままでごめん。」
そう告げると、アランは少し笑い、ダンテはやれやれという顔をした。
「すごいな、お前は。俺は怖くて受けれなかったのに、俺より弱そうなお前がそんなこと言うなんて。ちょっと見直したぜ。」
アランが言った。
うん、少し失礼な気もするが嬉しい。
「全く、お前は酒を飲むしか能が無いと思っていたが、どうやらやる時はやるってやつみたいだな。」
ダンテが言う。
かなり失礼な気がするがまあ嬉しい。というか出会って二日目の自分とこの従業員にそんなこと言うな。
そんなこんなで俺は冒険者ギルドに加入し、ダンテのBARを手伝いながら魔物討伐に出かける忙しい日々が始まったのだった。




