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村人とカンパイ!

気がつくと、俺は広い草原に寝転がっていた。

デジャブだ。

恐る恐る頭に手を当てると、やはりあのネクタイが着いたままだった。だが、服装は変わっており、いかにも冒険者といった動きやすい服と、革製の靴を履いていた。

まあ唯一この世界に持ち込めた俺の遺品だと考えればこのネクタイも悪くないか。

いや、悪いな。起きてからほんのり頭痛がするしほんのりお腹が気持ち悪い。ずっとこの状態だと考えると嫌になる。

だがこの世界で生き残るためにはとりあえず人の多いところへ行かなければならない。魔王討伐云々いっても、とりあえずは食い物と住むところがないと始まらない。

普通自動車免許しか持っていないけど、どこかで雇ってくれるだろうか。

まあ、常に二日酔いのこの世界では自動車があっても運転できないのだが。


草原を抜けると、すぐに村が見えた。

そこそこ広い村のようで、結構な数の人がいた。なんだかほのぼのした雰囲気で落ち着く。

だが今の俺が突然話しかけても良いものだろうか。言葉は通じるのか。不審者扱いされないだろうか。

そんなことを考えたが、まあ何とかなるだろうと考え直した。なるほど、常に若干酔っているというのも悪くないのかもしれない。


「こんにちは、道を尋ねたいのですが……」

俺は村のはずれで薪割りをしていた体格の良い男に声をかけた。

「おお、旅の者か……。ははっ何だその頭のやつは!」

男は俺を見て笑っていた。だが、言葉は通じるようだし、この人は悪い人ではなさそうだ。


「で、どこに行きたいんだ?」


「ああ、えっと、旅を続けたいので次の街への行き方と、路銀を稼ぎたいので何かお仕事があれば紹介していただきたくて……。」

まあ本音を言えば、しばらくこの村で生活をしてこの世界について調べたいのだが、そう上手く行くだろうか。


「なるほどな、次の街へは10キロも歩けば着くが、何かと金はかかるからな……。そうだ、働き手が欲しいって知り合いが何人かいるから紹介してやるよ!」

男は笑顔でそう言ってくれた。

おお、これは幸運だ。こんな変な頭のやつに仕事を紹介してくれるとは……!


男は一時間後に広場に来てくれと言い残してどこかに去っていった。広場はこの村の中心にあり、そこの噴水近くで待ち合わせることになった。


噴水に到着し、近くのベンチに座る。この先どうなるか分からないが、とりあえず良い人に出会えて良かった。この村の雰囲気も落ち着いており、なんとかなる気がしてきた。


噴水は美しい水を吹き上げ、そこに光が反射して輝いている。この村は水が潤沢なのだろうか、この世界を照らす恒星はなんという名前なのだろうか。スマートフォンも無いのでぼんやりと景色を眺めていると、声を掛けられた。


「兄ちゃん変なの付けてるな!旅の人か?」


見ると、俺と年齢が近いであろう青年が立っていた。身長も俺と同じほどだが、体格はガッチリしており、笑顔が眩しい男だった。


「うん、今人を待っててな。」

俺も笑顔で答える。


「暇そうだな。俺今から飯食うんだけど良かったら一緒にどうだ?」


願ってもいない申し出だ。ここへ来てからなにも食べてないし、次いつ食えるかも分からない。生きるためには多少図々しくならなければいけない。

俺は二つ返事で了承した。

彼は「こっちだ。」と言って俺を案内してくれた。広場にある噴水から歩いて二、三分のところに食堂があった。どうやらここで昼食を取るようだ。

食堂の扉を開くと、「カランコロン」と鈴の音が鳴った。前世で喫茶店を訪れた際によく聞いた音だ。妙な懐かしさを覚えていると、大きな声が聞こえてきた。


「遅かったなぁアラン!」

白い髭を蓄えた老人がこちらに向かって叫んでいた。俺を案内してくれた青年はアランと言うらしい。アランはそちらに歩いていき、俺のことを軽く紹介してくれた。

「悪いなぁじっちゃん!面白そうな旅の人を見かけてよ、こいつも一緒に飯食っていいか?」


「あ、どうも、錦田 奏と言います。お邪魔してすみません。」

俺もすかさず自己紹介した。ご飯をご馳走して貰うのだから丁寧に接しなければならない。


「ニシキダカナデ?変わった名前だな。あと頭のそれはなんだ?まあいいや、俺はダンテ。アランの仕事仲間ってとこよ。」

老人は突然やってきた俺に嫌な顔一つせず、紳士的に自己紹介をしてくれた。不審者だと思われないように、俺は頭のネクタイについては受け流した。


「そういや俺もお前の名前聞いてなかったな。ニシキダカナデって言うんだな。俺はアラン。よろしくな。」

アランも俺に改めて自己紹介をしてくれた。だが、この世界では苗字の概念が無いのだろうか、フルネームで呼ばれてしまった。


「長いからカナデでいいよ。よろしく。」

そう答えながら席に着く。


席に着くと、アランとダンテから何を食べたいか聞かれた。しかし、この世界の料理どころか食材が何かも分からない俺に注文など出来ない。お任せで注文をしてもらうことにする。

しばらくすると3つの飲み物が運ばれてきた。見た目はビールそのものだったが、木製の樽のようなグラスに注がれていた。こういう場合は「エール」と呼ぶのが正しいのだろうか。だが、ここは異世界だ。もしかすると俺のよく知るあの飲み物とは全く違う飲み物かもしれない。


「あれ、あんたもしかして酒飲めねえのか?」

飲み物の様子を注意深く見る俺に対して、ダンテが聞いてきた。


「いや、大好きですよ!ただ昼間から飲んでいいのかなぁって……。」

俺は誤魔化すように答えた。


「当たり前だ!こんな晴れた穏やかな日はビール!石器時代からそう決まってんだ!」

ダンテは笑いながら答えた。


やはりこれはビールなのか。いやそれよりもこの世界にも石器時代なんてあったのだと思ったが、まああまり気にしないことにした。二日酔いだしな。


「カンパーイ!」


3人で声を合わせる。

二日酔い状態なので飲みベーションは低かったが、一口飲んだ瞬間素晴らしい快感が俺を襲った。

思えばここに来てから飯どころか水も飲んでいない。草原からここまで歩いてきたのだし、先程まで陽射しの強い中屋根のないベンチでぼんやりしていたのだ。喉が乾いていない訳がない。

口に含む前、グラスに顔を近づけた瞬間からビールの持つ麦芽の香りが鼻腔を刺激し、喉が鳴り涎が出た。口に含むとその冷たさで口全体が生き返るのを感じる。疲れた身体にビールの苦味と強めの炭酸が染み渡っていく。そして何より喉を通す時の喜び。今俺の身体が求めているものが俺の求めたタイミングで体内に入っている。そんな心地がして、つい口から感嘆の声が漏れる。


「ぷはぁっ!」


目をつぶり口角を上げながらそう漏らした俺を見て、二人は嬉しそうな顔をした。


「いい飲みっぷりじゃねえか!さすがアランの友達だ!」

「だろ?俺の目に狂いはないってことよ!」


友達になっちゃった……。


ビールを飲み進めるごとに、俺の身体にある異変が起きた。先程まで感じていた頭痛や吐き気がスーッと引いていくのを感じた。

この感覚は覚えがある。そう、「迎え酒」だ。

二日酔いの際、対策法として水を飲んだり梨を食べたり、しじみ汁を飲むことが有名だが、1番効くのはこれなのだ。聞いた話によると、迎え酒は二日酔いを治すのではなく、再び酔うことで一時的にだるさや頭痛を麻痺させているだけらしく、アルコール依存性に繋がる危険性があるらしい。

だが、今の俺は常に二日酔い、逆に言えば二日酔い以上に悪化することはない。

なんだこれは、迎え酒最強じゃないか。(過度なお酒の飲みすぎは貴方の身体を壊します。絶対にしてはいけません。お酒とは程よいお付き合いを意識しましょう。)


この状態異常に対する特効薬を見つけたことで俺は有頂天になった。飲みたいだけ頼めとダンテさんに言われた俺は、二人とペースを合わせながら二杯、三杯と注文していった。

酒を飲み続ける中で、二人の会話からこの世界について大体のことが分かった。

まず、この世界は至極平和であること。二人の口から「魔王」なんて言葉は一度も出ず、日々の暮らしがどれだけ楽しいかを伝えられた。

そして、この村では日々自給自足をしていると知った。作物や生産品の余りを他の村に販売し多少の金銭を稼ぐが、生きていくだけなら自給自足で充分なようであった。

そして、この世界の公用語は日本語のようだ。もしかしたらこの世界に転生する際に翻訳機能的な能力を授かったのかもしれないが、そうとは思えなかった。なぜなら、ダンテは「酒は百薬の長」や「酒は天の美禄」といった諺を言っていたし、俺が注文の時にかました「アルコール、アンコール」という小ボケに「なんやねんそれは。」と関西弁で突っ込んでいた。


そんなこんなで楽しい時間を過ごしていたが、なにか忘れているような気がする。そう思っていると食堂の扉が開き、俺に仕事を紹介してくれると言ったあの男が立っていた。

まずい、完全に約束を忘れていた。

男は俺を見つけると、こちらにドシドシと音を立てて歩いたきた。


やばい、殺されるか?





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