二日酔いに完敗!
やはり酒は良いな。日頃のストレスや将来への不安を消してくれる。それに酒を飲むとどんなつまらないことも面白く感じる。酒を飲んで映画を見た時の没入感はすごい、まるでその世界に転生したようだ。
ん?なんだお前は。手に何を持っているんだ。
止めろ、危ないだろ。おい!
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最悪な気持ちで目が覚めた。まさか夢でまで酒を飲んでいるとは。しかも、よく覚えていないが夢の最期に殺された気がする。着物を着た変な髪型の男に刀で切りつけられた。
二日酔いの日はいつもこうだ。良い夢を見れない。
それに昨日どうやって帰宅したかも覚えていない。何かやらかしていないか心配だ。
とりあえず水を飲もう、喉がカラカラだ。
そう思い眠ったまま左手を伸ばす、俺はいつも枕元に二リットルのペットボトルを置いているのだ。
あれ?何もない。
おかしいなと思い身体を起こす。
どこだここは。
目の前には草原が広がっていた。どこかの公園で寝てしまったのかと思ったが、こんな広い公園は知らない。少なくとも我が家の近くにはない。
まだ夢を見ているのだろうか。
「ようやくお目覚めか。」
突然声を掛けられた。
見ると、バニーガール姿で黒い長髪の美人が立っていた。おかしいな、昨日はそんなBARには行っていないし、女の子をお持ち帰りした記憶もない。
不思議に思っていると、彼女は淡々とこう言った。
「残念だが、君は死んでしまった。」と。
死んだ?俺が?
だが、死んだとすれば今の状況は理解できる。恐らくここは天国で彼女は天使なのだろう。俺好みの格好をしているし。
だが、死んだとすればあの夢は現実だったのか、そう思うと怒りが込み上げる。
「くっそぉあのちょんまげ男め!」
俺は俺を殺したあの男に恨み節を吐いた。
「ん?あの男?」
彼女が言った。
「そうだよ、俺を殺したあいつ!絶対許さん。」
拳に力を込めて言うと、彼女はきょとんとした言った。
「いや、君は別に殺されていないぞ。」
なんだって?なら俺は一体なぜ死んだのだ?
「見せてあげるよ、君の死に様を。」
彼女がニヤケながら言った。
その態度には少し腹が立ったが、自分がどのように死んだのかは見ておきたい。俺がそう思うと同時に彼女は俺のおでこに触れた。
瞬間、俺の脳内にイメージ映像が流れた。
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「いやぁ酔っ払ったなぁ。」
俺が間抜け面でそう言っている。頭には緑色のネクタイを巻き、右手には寿司折りを摘んでいる。昔アニメで見た昭和の酔っ払い親父そのものだ。情けない。
そのまま3歩ほど歩いたと思ったら突如倒れ込んだ。
死んだらしい。
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「え?いや、今ので死んだの?」
「そうだ、詳しく言うと、スネを毒蛇に噛まれて死んだ。」
彼女は哀れな目で言った。
嘘だろ、なんて死に様だ。あんな昭和臭い格好で死んだのか。しかもスネークにスネいかれて死亡って……。
「あんな情けない格好で死んだら家族も警察も大笑いだろ……俺なら笑うぞ……。」
「情けない……情けない格好、そ、そうだよな……。」
彼女が気まずそうに呟く。
ん?そういえば頭に違和感がある気がする。右手で頭に触れると、布の感触がした。
俺の頭には、昨日着用していた緑色のネクタイが巻かれていた。どうやら死んだままの格好らしい。
「なんだよこれ、最悪だ!」
俺はネクタイを引きちぎる勢いで取ろうとした。しかし取れる気配はない。
「色々と説明することがあるんだ。聞いてくれるかい?」
彼女は真面目な顔で俺に言った。
俺も頷き、彼女の方へ向き直る。
「さっきも言ったが、君は死んだ。そして今からとある世界へ生まれ変わるんだ。」
なるほど、転生って本当にあるんだな。だが転生して何するんだ?魔法でも倒すのだろうか。
「そこで魔王を討伐して欲しいのだ。」
ストレートに来たな。本当にファンタジー漫画みたいな展開になるとは。だが俺も男だ。昔からそういったファンタジーは大好物だった。死んでしまったものは仕方ない。新たな人生に向けて前向きに行こうじゃないか。
「ほう、てことは生まれ変われば俺にも魔法とか気功波とか摩訶不思議な術が使えるようになるのか?」
俺はワクワクしながら質問を投げかける。
「いや……そういうわけではない。だが、お前は他人とは違う特別な力を持って転生することになる。」
彼女は答える。
「特別な力……なるほど、それを駆使して無双しろってことか。一体どんな能力なんだ?」
俺が聞くと、彼女は俺の頭を指さしてこう言った。
「そのネクタイは、呪いの装備でな。転生しても外すことは出来ないんだ。そしてそのネクタイをつけている間、お前には「二日酔い」という状態異常が付与される……。」
は?意味がわからない。それは「特別な力」じゃないだろ。デバフじゃないか。しかも一般人でも一年に一回は付与されるような有り触れたデバフ。むしろ現実世界でも付与できる数少ないデバフと言ってもいい。
俺の混乱と絶望を察知したのか、彼女が口を開く。
「だが、逆に言えば「二日酔い」にしかならない。毒や麻痺や火傷にはならないし、どれだけ酒を飲んでも今のしんどさを超えることもない。」
慰めになっていないと思う。
「それにだ、まだ酒が残っている状態だから常に少し陽気になれるぞ!実際君と話していて私も楽しいしなぁ……ははは。」
彼女は続けた。
俺は無言だった。
しばらく静寂が続き、気まずくなったのか彼女が口を開く。
「とにかく、君には重大な使命があるのだ!きっと君ならやれる!「錦田 奏」君!」
そう言い終わると共に、俺の身体は光に包まれた。
恐らく別の世界に行くのだろう。
気まずくなったからって無理矢理話を終わらせないで欲しい。悲しくなる。
そんなこんなで、俺は頭痛と吐き気に苛まれながら、新たなる世界に旅立つことになった。




