第5話《妹LOVE無双、逮捕される》
【1】回想:事件当日
(街頭の大型ビジョン。音声だけが響く)
> 「このあと放送!“レイラ急逝10周年特別番組”──妹・歌原彩が生出演。
亡き姉との絆、最後に交わした言葉とは──?」
(それを見上げる良太の目が変わる。中身は“REIRA”)
良太(レイラ・小声)
「……あの局か。行けるわね」
(雑踏をすり抜けるように歩きながら)
良太
「……何年ぶりかしら、この感覚。──でも、まだ行ける」
(夜の街を抜け、テレビ局の外観が姿を現す)
(テレビ局前──警備員の視線をかわし、スタジオ裏へ)
(裏廊下を歩く。スタッフの声と機材音が飛び交うなか──)
良太
「……あの後ろ姿、間違えようがない……彩……!」
(涙ぐみながら、衝動のまま駆け寄る)
(背後から太ももに手を添え、骨盤ラインをなぞる)
良太(レイラ・恍惚)
「……レイラ体操、ちゃんと続けてる……
ハムストリングも完璧……さすが、私の妹……♡」
(静かに顔を寄せ、鼻から深く吸い込む)
良太(レイラ・曇った表情)
「……やだ、なにこの安物の香り……“無難”ってやつ?
“誰にも嫌われない香り”は、“誰の記憶にも残らない香り”なのに」
(顔をそむけ、息混じりに呟く)
良太
「覚えてる? あんたが中学生になったとき──私、言ったよね。
“一流になりたいなら、まず身の回りを一流で固めなさい”。
物も。人も。香りひとつ選ぶにも、自分の価値を引き上げるものを選べって──」
【2】スタジオ内・彩の視点
彩(心の声)
……え、ちょっと待って。
……今、触られてる?
ここ局の中よ? 大勢のスタッフもいる。なのに、誰も止めない──なんで?
……呼吸を忘れる。動けない。
頭は回っているはずなのに、体も心も……凍りついていた。
彩(心の声・続き)
それに、この話し方……何?
言葉の選び方が妙に刺さる。
“安物の香りは記憶に残らない”──
上から目線で、自信満々で……でも、なぜか……耳が覚えてる。
……やめて、やめて。
そんなわけないでしょ。ありえない。
こんな場所で、こんな状況で……
……まさか、
こんなところで、また“あの人”を思い出すなんて……
——姉さん……?
(戸惑いが、恐怖に変わっていく)
(信じたくない“予感”が、体の芯を冷やしていく)
(彩、震える指先でスカートの裾を押さえる)
彩(心の声)
「……いや、ありえない。この空気感、この“支配”されるような重さ……
声質は違う。でも言葉の選び方と、あの空気……あの人にしか出せない」
(恐怖と確信のはざまで、彩は振り向いた)
【3】現行犯逮捕
(空気が凍る)
(ゆっくりと振り向いたその視線の先にいたのは──)
笑っていた。
それも、全力で。
満面の笑顔。歯の隙間にコンビニ惣菜の繊維が詰まり、
乾いた唇の端から、唾液の糸がゆっくりと垂れる。
目は笑っておらず、どこか焦点が合っていない。
アニメ柄のTシャツが汗に貼りつき、
股間のシワが妙にリアルすぎて目に入る。
その“おっさん”は──
幸福と恍惚を同時にキメたような顔で、
彩の太ももを愛おしげに撫でていた。
良太
「うーん、メイク20点。でも素材は100点。さすが、私の妹」
彩(心の声)
「……やばい。これは……本物のやつだ……!!」
彩
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!」
(スタジオ騒然。マネージャーが飛び込む)
マネージャー
「彩さん、大丈夫ですか!? ……今、“妹”って言わなかったか、こいつ……!」
スタッフ(ドン引き)
「Tシャツ……“妹LOVE無双”って……あーもう、完全にアウト。通報します」
(警察到着。現行犯逮捕)
(場面暗転)
──第6話へつづく