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告げられる運命

その日、町の空気が、確かに変わった。


北の関所に、馬車行列が入ったのだ。

純白の旗を掲げた魔道会の使節団。その背後には、赤い紋章を染めた――他国、アランス王国の封印馬車があった。


町の役人が慌てて駆け回る中、カリナは直感した。


(……来た。とうとう“世界”が、この人を奪いに来た)


ラゼルの名は、すでに水面下で広がっていた。

発展途上の才能を示す者として、魔道会からもアランス王国からも“接触候補”に選ばれてしまっていたのだ。


**


「お連れください、彼を。才能ある者を、平民の町に置いておくなど――」


そう言い放ったのは、アランス王国の使節を名乗る中年男、ゾルト・バレンス。

金縁の衣服に身を包み、鼻につく高慢さを隠しもしない。


カリナは、その言葉を正面から否定した。


「彼は“もの”じゃありません。自分の意思で生きる人間です」


「ならば問おう。才能ある者が、何の訓練もなしに能力を使えば――どうなる?

 制御不能の災厄となる。それは、あなたの大切な“普通の暮らし”を壊すだろう」


その言葉は、カリナの胸を突いた。

図星だった。

ラゼルの才能は、あまりにも規格外だ。目覚めきれば、災厄とも呼ばれかねない力となる。

だが、それでも――


「だからこそ、私がそばにいるんです。力を、才能を、ただの“武器”として使わせないために」


「理想論だ。民間人に何ができる」


そのときだった。

ラゼルが、ゆっくりと前に出た。


「やめてください。カリナさんに言わないでください。

 俺は……この力が怖い。でも、それ以上に、カリナさんに“選ばれた”から、生きようと思えたんです」


沈黙が落ちた。


「だから、他の国に才能を“預ける”つもりはありません。俺は――」


ラゼルは、言葉を選んだ。


「“普通の人たち”と生きるために、この力を使いたい。戦争にも、支配にも、魔導の塔にも行きたくない。

 選ばれるのは、もうたくさんなんです」


その言葉に、魔道会の者も、使節も、一瞬だけ口をつぐんだ。


**


だが、世界はそう甘くなかった。


夜、カリナのもとに密使が現れた。

魔道会本部からの封書。中には簡潔な命令が記されていた。


【命令】

ラゼル・フェーンを王都へ連行せよ。

才能の覚醒によって災害級判定が下された。

協力拒否の場合、保護者(=婚約者)に対しても処置を辞さず。


震える手で、カリナは手紙を握り潰した。


(結婚さえすれば、守れると思ったのに……!)


彼はもう、「隠せる才」ではない。

選ばれるどころか――“奪われる才”に変わってしまった。


**


翌朝。

カリナは、ラゼルにすべてを打ち明けた。


魔道会の命令、他国の動き、そして――このままではふたりとも追われること。


ラゼルは黙って聞いていた。

やがて、ぽつりと呟く。


「俺が、才能なんか持ってなければ……」


「違う。持っててよかったのよ。そうじゃなきゃ、あなたは今でも“選ばれない”って思い込んで、俯いたままだった」


カリナは、彼の手を取る。


「でももう、“選ばれる”んじゃなくて、“選び返して”。

 どこに行くか、何のために力を使うか、誰と生きるか――あなた自身の意志で、未来を決めて」


ラゼルはゆっくりと目を閉じた。


そして――小さく頷いた。


「……だったら、俺、逃げようと思います」


「……え?」


「このまま王都に行ったら、何をどう言っても、使われる。

 だったら、“力なんかどうでもいい”って思える場所へ行きたい。

 ……カリナさんと一緒に」


それは、普通の暮らしの継続ではなく、

“普通であり続けるための戦い”への決意だった。


**


かくして、ふたりは旅立つ。

選ばれることから逃げるのではなく――

選ばれないことを、自ら選ぶために。

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