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状況確認

「アイリーン。どうした?返事をしろ」

ノックの音と共に、昨日まで兄さんと呼んでいた人の心配そうな声が響く。

それでも私はなんとか返事をした。

「なんでもないの!ウィリアムさん!ちょっと調子が悪いだけ!」

とてもじゃないが「兄さん」とは呼べなかった。そうすべきだとは分かっていたのだけれど。


案の定、私の部屋のノック音は強くなった。

いや、私の部屋でもないのかもしれない。駄目だ混乱している。

「ウィリアムさん?今俺のことをそう呼んだのか?アイリーン!おい、カギを開けろ!」

「いったい、どうしたの?ウィリアム兄ちゃん。もう朝ごはんだよ」

階下から幼い男の子の大きな声と階段を上る音がした。

アイリーンの弟だ。私の弟でもあるかも。


「様子が可笑しい。俺のことをウィリアムさんだと。可笑しな薬でもやったのかもしれない」

「ええ?姉ちゃん。クスリは売らない、ヤらない。それが僕らの約束でしょ?」と弟の呑気な声が聞こえた。


「やってないわよ。そんなの!いいからほっといて!」

そう叫ぶと聞き慣れない少女の大声が響いた。

それが自分の口から出たものだとは信じられなかった。


「あれ、元気そうだね姉ちゃん」

「あぁ。少し安心だ。おい、聞こえるか?午後になったら家族会議だ。それまでには出てこい」

彼らはそれだけ言うと階下に降りて行った。

私はため息を吐く。なんだこれ。どういうこと?


いや、考えるまでもなかった。転生である。考えたくないが私は、朝倉舞は、病院で死んだ。

そして多分、転生した。


愚鈍にも十五歳になるまでそれに気が付かずに成長したらしい。

そして今朝、それを思い出した。


「悪役令嬢ってやつかしら・・・」

入院している間に幾つも読んだ小説にそんなものがあった気がする。

死後に転生し、魔法の存在するファンタジーな世界で生活するお話が。

彼女らの生き生きとしたアグレッシブさに勇気付けられ、またそれを楽しむことが出来ていた。

それは入院中のちょっとした楽しみだった。

私も生まれ変わったら・・・なんて考えながら、病室で読み進めたものよ。


「けど、ちょっと変ね」


確かにこの世界にも魔法は存在する。

それを扱えるのは魔術学院に通う貴族たちだけではあるものの、かなりファンタジーな世界だ。

魔術師は炎を操り、雨を降らせ、雷を呼ぶ。私もそれを見たことがある。


私は部屋を横切り、窓を開ける。

遠くの方で蒸気機関車が汽笛を鳴らしながら走っているのが見えた。

連なる家々から頭を覗かせる煙突達はもうもうと黒い煙を吐き、遠くの方では汚れた河が流れている。

そこに広がるのは十九世紀産業革命後の英国的な風景だった。


こういうのって、大抵もっと自然豊かな中世風じゃなかったかしら?


首を傾げながら窓を閉め、ベッドの横にある引き出し付きのナイトスタンドを開ける。

当然、私はそこにあるものを知っている。


私はそれを手に取った。

それは黒く輝き、確かな重みがあった。


よく手入れされた回転式リボルバー拳銃。アイリーンの。つまり私の持ち物だ。


悪役令嬢ってこんなの持ち歩くかしら?


いや、そもそも悪役令嬢って――

「ギャングの娘って悪役令嬢かしら?」


否―― 悪役どころか、悪党だ。


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