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第一話 噂話

「そういえば、リュウは夏休みどこに行く?」


 一学期の終業式も近づいた暑い日の昼休み。

 同じクラスの仲良し二人、リュウこと杉野龍平(すぎのりゅうへい)とヨシこと持田佳樹(もちだよしき)は夏休みの予定について話していた。


「んー、うちは父さんも母さんも夏休みも仕事で忙しいし、いつ休みかわからないからどこか行けるかわかんない。ヨシは?」

「ボクはあゆみの成績がよかったらキャンプ連れてってくれるって父さんが言ってくれたんだ! だから成績いいといいんだけど……」

「ヨシは頭いいから大丈夫だろ!」

「うーん、勉強はできても、体育がなぁ……」

「何の話をしてるの?」


 ひょこ、とヨシの後ろから顔を出したのは幼馴染みのヒナこと花笠雛子(はながさひなこ)だった。

 もうすぐ昼休みも終わり、五時間目が始まるということで、自分の机に戻ってきたようだ。


「ヒナ! 夏休みの話だよ。ヒナは夏休みどっか行くのか?」

「私? 私は家族でおじいちゃんおばあちゃんちに行くよ!」

「いいなぁー」

「いいなぁー、ってリュウくんはおじいちゃんもおばあちゃんも家にいるからいいじゃん!」

「そりゃそうなんだけどさー。たまにはどっか出かけたいだろ」

「わかるー! ボクもじーちゃんち近いからすぐ会いには行けるけど、たまにはちょっと別の遠いとこ行きたいよね!」

「お土産買ったりして」

「行く途中でおやつ食べたりして」

「「あー、どっか行きてぇーーーー!!」」


 盛大に二人でハモるとお互い笑い合う。

 そんな二人を見ながら、「男子ってよくわかんない」って呆れたようにヒナが肩をすくませた。


「てか、そうそう。あんたたち知ってる? さっき隣のクラスの子に聞いたんだけど」


 ヒナが突然、何かを思い出したのか声を上げる。

 そして、急にヒソヒソと内緒話のように声をひそめた。


「……神社の話って、知ってる?」

「神社? 神社って、通学路にある……あの?」


 通学路の途中に昔からある古い神社がある。

 そこまで大きくない神社だからかあまり人が出入りしておらず、管理もあまり行き届いていないようで、ちょっぴりぼろぼろのひっそりと佇んでいる神社だった。


「そうそう! あそこになんかちょっとした噂があるらしくて」

「へぇ、どんな噂?」

「それがね……」


 ヒナが話そうとしたタイミングでチャイムが鳴る。

 すると、教室内は途端にザワザワし出し、周りの声や椅子を動かす音などにかき消されてヒナの声が聞こえなくなった。


「ヒナ、何て言ったんだ?」

「んー、もう授業始まるし、あとで話すよ!」

「何だよ~、気になるだろ~!!」

「ヒナちゃん、今教えてよー!」

「ほらほら、先生来ちゃうよ? リュウくんもヨシくんも自分の席に戻った戻った!」

「ヒナのケチー!」


 ぶーぶーと男2人でブーイングしていれば、すぐに先生がやってくる。慌てて自分の席へと戻ろうとするも間に合わず、二人は先生から「こらー、リュウくんヨシくん早く席に着けー」と注意された。

 こっそりとヒナのほうを見れば、意地悪そうに笑ったあとにあっかんべーをしてくるヒナ。リュウはぐぬぬとなるも、それをまた先生に見られて「リュウくん。早く準備して」と今度は強めに注意されるのだった。



 ◇



「だから言ったじゃん。早く自分の席に戻りなって」


 放課後、リュウは一人せっせと黒板消しを持ちながら黒板を綺麗にしていた。

 というのも、あのあと結局宿題も忘れていたリュウは、先生から何度も注意されることをした罰として放課後黒板掃除を命じられたのだ。


「うるせー。あー、先に宿題のことを思い出していれば……!」

「そういう問題じゃないでしょ。そもそも、ちゃんと家で宿題やってくれば良かったんだし」

「そうなんだけど、昨日はゲームのイベントしてて忘れてた」

「もう。リュウはいっつもそうじゃん! だから、先生にもお母さんにも怒られるんだよ。ちゃんとそういうとこはヨシくんに見習わなきゃ」


 ヒナがそういうと、急に話を振られたヨシは慌てる。

 ヨシは成績優秀でとても勉強ができ、中学受験のために塾まで行っているのだが、ヨシは自分は人よりもできるとひけらかす性格ではなかったので、突然ヒナからそう言われて戸惑っているようだった。


「ボクのとこは勉強しないと、そういうゲームとかできないし」

「へぇ、そうなんだ! いや、本当はオレの家もそうだけど、ついじーちゃんとおやつ食べたりすると忘れるんだよなー」

「リュウくん知らないよー? 今度のあゆみ!」

「う。それを言うなよ!」


 リュウが頭を抱えると、ヒナとヨシはクスクスと笑った。

 リュウの家は両親共働きのために祖父母がリュウの面倒を見ているが、唯一の孫であるリュウに甘々で、そのぶん両親は手厳しいのだ。


「あー、母さんにまた怒られそう~」

「それはリュウくんのせいだから仕方ないね」

「そういえばさ、さっきヒナちゃんが話していた神社の話。続き教えてよ」


 ヨシがヒナをせっつく。

 普段あまりこうして話を促すことがないヨシにしては珍しい行動で、それほど噂話が気になっているらしい。


「そうそう、そうだぞ! あとで話すって約束だっただろ?」

「いいけど。でも、だったら神社行って実際に見てみない?」

「見る? なんか見るものがあるのか?」

「そうそう。でも、まずは黒板の片付けやらなきゃね。ほら、さっさと片付け終わらせるよ!」

「へいへーい! じゃあ、2人も手伝ってよ」

「もう、しょうがないなぁ……」

「みんなでやったほうが早く終わるしね」


 ヒナは渋々といった様子ながらも、ヨシと手分けして黒板掃除を終わらせることにする。

 ヒナは明日の日直の名前を書き、リュウとヨシで黒板消しを綺麗にして、チョークも綺麗に並べた。


「これでもう終わり?」

「うん。あとは先生に報告するだけ」

「わかった! じゃあ先に昇降口で待ってるからね」

「おっけー、先生のとこにひとっ走りしてくるわ」

「こら、そんなことしたらまた先生に怒られるよ」

「リュウは懲りないなぁ」


 ヒナとヨシにすかさず指摘される。

 リュウは急いで報告したかったものの怒られるのは嫌だったので、しぶしぶ大人しく歩いて職員室へと向かうのだった。

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