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小鹿にされた一般人  作者: 良心の欠片
5/5

5 呪い or 恋文


『ミ、ミェッ……ミェ……』


 軍の敷地内にある修練場では、一匹の小鹿がよろよろと走っていた。


「が、頑張って……!」


(ありがとう、緑頭の人……)


 応援してくれる人のとなりには、私をこんな風にしている元凶が立っている。

 そう、ロルフという人だ。


 この人は私をここに連れてきた途端、走るように指示してきたのだ。


(よかったな、私が物分かりのいい小鹿で……!)


 普通の小鹿だったら、彼が何を言っているのかわからなかっただろう。 

 ただ私はただの小鹿ではない。

 なんていったって、元が人間な小鹿だからね。


(でも、小鹿に身体計測をしだす人間もなかなかイカレてるよ!)


 心の中で悪態をつく小鹿は、その後も様々な運動をさせられた。


 









「身体能力は野生のものより劣っている」


『ミェェー……』


(散々いろんなことをさせた結論がそれかー……)


 修練場で腹ばいになっているディアは、淡々としているロルフにげんなりする。


「特殊な能力はないのか」


『ミー』


(一般人にそんなものはない)


 元は人間なのだ。

 そんなディアに特殊能力があるはずない。


「ならばなぜ、死の森で無事だったんだ」


『ミ!?』


(あの森ってそんな物騒な名前だったの!?)


 今の会話から鑑みるに、あの森はそうとうヤバかったらしい。

 だからこそ、そんな森で無事だった私を調べているわけか。


「副隊長ー!」


 仕事部屋にいた三人組がこちらにやってきた。


 そうして、ディアは地獄の身体計測を終えることができた。











 あの身体計測から何もわからなかったため、ディアはロルフの部隊が預かることになった。

 



「アタシはロージーよ」


 紫髪のオネエさんはロージーと言うらしい。

 上品でとてもいい名前だと思う。


 角ばった手で、頭を優しく撫でられた。


「ぼ、僕はレトです」


 こちらの緑髪の青年はレトというのか。

 覚えやすくていい名前だ。


 おそるおそる背中に手を伸ばしてくる。


『ミィ』


(ディアです)


「かわいいわ~」


「か、かわいいですね!」


 頭と背中を撫でられ、心地よさにクッションへ沈む。

 うんうん、気持ちいいな~。


「ハッ、腑抜け共が」


「あれは無視しましょうね~」


「ああ゛?」


 バチバチと火花を散らしている彼らを尻目に、ディアは目を細める。

 レトのマッサージ技術はお店を開いてもいいくらいだ。


「彼はガイアスです」


 レトがそっと耳打ちしてくる。

 ガイアスという人物は血気盛んのようだ。

 怒りすぎて、眉間の血管が浮いている。


「あと、あそこにいるのがロルフ副隊長です」


『ミェ……』


(あの人が副隊長か……)


 隊長は遠方へ出張していて、ここにはいないそうだ。

 つまり、この部隊の最高権力者があの人だということだ。


(媚びを売るべきか……)


 突然ジビエ料理にされてしまってはかなわない。

 心証をよくしておく努力をするべきかもしれない。


(でも、この身体でできることはないんだよなぁ)


 周囲を観察すると、彼らの関係が少しだけわかってきた。


 レトは気が弱いけど、とても優しい。

 甘えるなら、彼にするべきだろう。


 ロージーは自分をしっかりもっている。

 だからこそ、ガイアスと喧嘩ばかりするようだ。


 ガイアスは怒りんぼだ。

 彼の笑っている姿は今のところ見たことがない。


 そして、ロルフはまだよくわからない。

 一つ気になるのは、目にハイライトがないことだろうか。


「副隊長、また城で()()が」


 ガイアスがロルフに何かの書類を差しだした。


「放っておけ」


 ロルフは、差し出された紙を叩き落とした。

 

()()?)


「ヤダヤダ、また怪奇現象?」


「これまでそんなことなかったのに……」


 ロージーはげんなりとした顔をしていて、レトは少し怯えている。

 一体、怪奇現象とはなんなのだろうか。



 ひらり



(おや?)


 四人で話し出した彼らを横目に、地面に落ちた紙を見る。

 目に入った文字は、ゾナ王国と同じ文字だった。


 他の文字は異国の文字で読めないが、ひと文だけ読める所があった。



『月のない夜、愛しいあなたを迎えにいきます』



 気障な言葉は、明らかに物語っていた。



(いや、ただの恋文じゃん)



 彼らは何に頭を抱えているのだろうか。

 こんなの一目瞭然じゃないか。


「呪いかしら」


 ロージーが悩まし気に頬に手を添える。

 いや、呪いじゃなくて恋文……。


「この時代にか?」


 呆れた様子のガイアス。

 呪いがないと思っているらしい。


 いや、呪いは実際あるんだけど……。


(私の今の状態も、魔法というより呪いと言える)


 人間を小鹿に変えているのだから、呪いといっていいだろう。


「呪いなんて、あるわけないですよ!」


 気丈に言い放ったレトだが、足がプルプルしている。

 彼はどうやら怖がりなようだ。


『ミィ……』


(だから、これ恋文なんだってば……)


 彼らには、このゾナ王国の文字が呪いの文字に見えているらしい。

 この国とゾナ王国には国交がないのかもしれない。


「これを連れて行く」


『ミ?』


 この一言で、ディアは怪奇現象が起こった現場へ連れていかれることになった。











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