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小鹿にされた一般人  作者: 良心の欠片
4/5

4 軍の基地



『ミェェェエエーー!!』


(お命だけご勘弁をーー!!)


 ガバッ


『……ミ?』


(……あれ?)


 勢いよく上げた頭で、周囲をゆっくり見渡す。


 どうやらここは厩舎のようだ。

 その隅っこの一角に、私が入れられている。


 ブルルル


 隣から鼻息が聞こえてきた。

 板で見えないが、横に馬がいるらしい。


 ブルル


 正面からも鼻息が聞こえてきた。

 こちらもまた、板で見えない。


(四方が板に囲まれてるなぁ)


 これはつまり、周囲の様子がまったくわからないということだ。

 

(あと、なんで厩舎に入れられてるんだろう?)


 黒い森で軍人さんらしき人を助けたものの、その人に刃物を向けられて気絶したのが最後の記憶だ。


 もしかすると、あの人は私を新種の仔馬か何かだと勘違いしたのだろうか。


「ここだ」


「あらヤダ、髪が乱れちゃったわ」


「うるせぇぞ、オカマ」


「け、喧嘩しないでください……!」


 四人の人間の声が外から聞こえてきた。

 複数の足音がこちらに向かってきている。


 まさか、私を見に来た……?


 隠れる場所はないかと足元を見るが、柔らかい干し草しかない。

 でも、この量なら問題ないかも。


(よし!)


 














「あら」


 紫色の長い髪を高い位置で結んでいる人間が、思わず声をだす。


「わあ」


 短めの新緑の髪をもつ人間は、喜色満面になる。


「ああ゛?何をそんな……」


 紺色の髪をオールバックにしている人間は、途中で言葉を止めた。


 三者三様の反応に対して、灰色の髪の人間は無言のままだった。


 しかし、四人の視線はある一点に集中していた。



 山になった干し草から飛び出ている、小さな白い尻尾に。















(動いたらやられる……!)


 板一枚を隔てた位置に、複数の気配を感じる。

 さっきまで話していた人たちも黙り込んでいる。

 

 控えめに言って、怖すぎる。


(何?一体何が起こっているの?!)


 ギィイ


 背後の扉が開けられた。

 至近距離に人の気配を感じる。


( Oh my god )


 神を信じてもいないのに、祈りの言葉が脳裏に浮かぶ。

 これには神も、激おこでぷんぷんしているに違いない。


「ちょ、副隊長―――」


(?)


 制止する声が聞こえてきた。

 その直後。


 ギュム


『ミ゛ィッ!?』


 バサッ 


 勢いよく干し草の中から飛び出る。

 でも、いまだに尻尾を何者かに掴まれている。 


 そう、デリケートな尻尾を掴まれているのだ。



 全身の毛が逆立つ。



「ちょっと、やめてあげなさい」


「そ、そうですよ……!」


 優しい人たちもいるのだと少し安心する。

 でも、尻尾は掴まれたままだ。


『ミエェェー……』


「ほら、副隊長が掴んでるせいで弱ってますよ……」


 おそるおそる振り返ってみると、新緑の髪の青年が心配そうにこちらを見ていた。

 

(この人はいい人そう……!)


 尻尾の感覚も元に戻っている。

 一度、全身を震わせ干し草を落とす。


 そして、目の前に立っている人たちを観察する。

 

 新緑の髪の青年は優しそうな顔立ちをしている。

 つけ込むならこの人にしようと悪いことが頭に浮かぶ。


 隣には紫髪の……オネエさんが立っている。

 高い踵のブーツが、彼女(?)をさらに大きく見せている。


 その二人の後ろには紺の髪の青年が立っている。


「いいから、さっさと連れてけよ」


 うん、彼は少し気性が荒そうだ。

 イライラとした彼の様子に身がすくむ。


 だが、何よりも恐ろしいの目の前でかがんでいる人物だ。


「副隊長、見過ぎよ」


 そう、目の前は至近距離にいる。

 この人が私の尻尾を掴んでいた犯人。


「そうか」


『ミェ!?』


 灰色の髪の青年がこちらに手を伸ばしてきた。

 これは……今日が私の命日になるかもしれない。


 私は小脇に抱えられ、厩舎から連れ去られた。





















「で?黒の森での戦利品がソレなのか」


「ああ」


(いや、勝手に戦利品にしないで)


 建物の中に連れてこられたディアは、クッションの上に座っている。

 それを近くで見ている緑髪の人間と紫髪の人間。

 紺色の髪の人間は自分の椅子に座り、こちらを睥睨している。

 灰色の髪の人間も同様に自分の椅子に座っていた。


 書類が積まれた机が並んでいるところを見るに、ここが彼らの仕事部屋らしい。


「可愛いわね~」


「ですね~」


『ミ~』


 呑気な二人に釣られて、思わず返事をする。

 嬉しそうな彼らにこちらが和む。


「おい、腑抜け共。仕事にもどれ」


 紺色の髪の青年が私を睨みつけてきた。

 え、私が悪いのか……?


「まあいいじゃない、ガイアス」


「よくねぇよッ!」


 ああ、また喧嘩を始めてしまった。

 彼らは相性が悪いらしい。

 ……いや、ある意味いいのか?


「ロルフ副隊長、この子はどうするんですか?」


 そうだ、私はどうされるのだろうか。

 ……まさか、ジビエ料理にはしないよね。

 このロルフという人物がそこまで非人道的ではないことを祈る。


「それの体を調べる」


『ミェ?!』


 まさかの解剖だったか。

 いやだ!まだ死にたくない!


「え……、この子を解体するんですか……?」


『ミィィィイーー!』


 クッションの上で全力のヘッドバンキングをかます。

 彼には、この全力の拒否が見えないと言うのか。


「解体はしない」


『ミ』


 頭を振るのを急に止めると、なんだかフラフラする。

 まあ、体がバラバラにされる危機を脱したならよかった……。


「ついてこい」


『ミィ……?』


 席から立ち上がったロルフはドアを開ける。

 そして、ドアを開けたまま出ていった。

 

 ディアは慌てて、その背を追いかけた。

 











 

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