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小鹿にされた一般人  作者: 良心の欠片
2/5

2 消された小鹿



「さて、君の名前は?」


 騎士が優しく声をかけてくる。

 騒然としたパーティー会場から回収されたディアは、王宮の一室に連れてこられた。

 そして、この部屋には質問してきた彼ともう一人の騎士がいた。


『ミー』


(ディアです)


 しゃがんでいる騎士の顔を見ながら、精いっぱいの答えを返す。

 すると、目の前の騎士が口元を手でおさえた。


「くっ!かわいい……!」


『…………』


 大の大人が身悶えだした。

 くねくねした動きがキモさを倍増している。

 彼はもうダメだ。


 パーティー会場から回収されたディアは、現在この部屋で事情聴取を受けていた。

 というよりも、保護をされていたといった方が正確かもしれない。


「おい、正気にもどれ」


 赤髪の騎士が茶髪の騎士の脳天に手刀を入れた。

 素晴らしい手捌きだ。


「いてっ、やめろ!」


「こいつはお前の魔法で戻せないのか」


 話を進めてくれる赤髪の騎士に、尊敬の念を送る。

 

『ミー』


(ありがとう、赤髪の騎士)


 しっかりと目を見てお礼を言う。

 すると、彼が手で口をおさえた。


 一体どうしたのかと心配していると、ボソッと言った言葉が耳に入った。


「……クソかわいい」


『ミー……』


(お前もか、ブルータス)


 正気に戻った二人は、互いにコソコソと話をしている。

 仲間はずれにされたディアは足元と彼らを交互に見た。

 そして、彼らの顔色から状況が芳しくないことを察した。


『メー……』


(終わったのか……)


 人生の終焉を悟り、嘆く。

 しばしその余韻に浸っていると、周囲が異様に静かなことに気が付いた。


『ミ?』


(え?)


 顔を上げると、騎士二人が天を仰いでいた。

 茶髪の騎士は両手で顔を覆い、赤髪の騎士は片手で顔を覆っている。


「連れて帰りたい……」


「クソかわいい……」


 二人はもう末期のようだ。

 あと、赤髪の騎士は語彙力がない。


「おい、俺が連れて帰るんだぞ」


「いや、俺が保護する」


 二人の騎士はこちらをそっちのけで、どちらがディアを連れ帰るかを争い始めた。


『ミ』


(どうにでもなれ)












 彼らがわちゃわちゃしているのを見ていると、誰かがこの部屋に来た。


「失礼するわ」


「「王女様!」」


 じゃれ合っていた騎士二人が姿勢を正す。

 机の下から彼らの方を窺っていると、入って来た女性がこちらを見た。


 パーティー会場にいた人々とは頭一つ抜けた豪奢なドレス。

 頭には白銀のティアラ。


(これはお姫様だ)


「王女様の魔法なら治せるな」


「よかったなぁ~」


 机の下で縮こまっているディアを二人の騎士が撫でる。

 一方、王女はこちらをじっと見ている。



『ミ……』


(いや、あの、王女様の顔が……)



 憎悪を鍋に煮詰めて焦がしたみたいな顔をしている。

 王女様にここまで憎まれるようなことをした覚えはないのだが。



「卿たちは下がってもらえる?」


 憎悪の表情を瞬時に消し去り、にこやかに騎士たちに笑いかける。

 なんという二重人格だ……。




 騎士たちが退出し、ディアと王女だけが部屋に残った。



「はあぁー」



 ビクッ


 王女から出た特大のため息に、ディアは身構える。



「あなた、調子に乗っているのではなくて?」



『ミ、ミ?』


(いや、それより解呪……)



「黙らっしゃい!」



『メー……』


(なんたる理不尽……)



 その後も、王女様はディアに理不尽な説教を垂れた。

 まあ、彼女の主張をまとめると自分以外が可愛がられることが気に喰わないらしい。



『ミー』


(いや、私を人間に戻してくれたら万事解決なんですが)



「だから、あなたには消えてもらうわ」



『ミッ?!』


(なんたる急展開?!)


 王女の話を適当に聞いていたせいだろう。

 ディアは訳もわからず消される危機に陥った。


 文脈が全くわからない。



『ミィー!』


(なんで消されないといけないんだ!)



「さようなら、愛らしい小鹿さん」



 花のような笑みを浮かべた王女がまったく可愛くないことをしてくる。

 足元に浮かんだ魔方陣は、ディアの足を捕らえて離さない。



『ミィィイイーー!!』


(うっそでしょマジかーーー!!)



 シュン



 ただ一人、部屋に残った王女の口は弧を描く。

 

 この王国で愛でられる存在は必要ない。

 なぜなら、愛されるのはこの王女一人で十分だから。


 コンコン


 魔法の気配を察知したのだろう。

 誰かがこの部屋のドアをノックした。


「入りなさい」


 入室の許可を出した王女の顔には、すでにあの醜い笑みはなかった。


「王女様、あの子は……?」


「人に戻してさしあげたわ」


「そうなのですね!」


 あの小鹿が人間に戻れたことを純粋に喜んでいる騎士の隣では、じっと王女を見ている者がいた。


「どうされたの?」


「……いえ」


 赤髪の騎士は、能天気な同僚を横目で見る。

 こいつは何の違和感も感じていないようだ。


 さっきの気配は確かに転移魔法だった。

 それなのに、あの小鹿を解呪した……?


「警備にもどります」


「え、おい!」


 優しく微笑む王女を部屋に残し、パーティー会場へ向かう。

 遅れてついてくる同僚を無視し、頭に浮かぶ疑念をどうするか考える。



「……あの小鹿は無事なのだろうか」










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