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 初めての弟子の反抗、それが彼が示した唯一の答えだった。


 その間我々は、デートも、メールのやり取りさえなかった。彼は私の返事をずっと待っていたのだと思う。

 彼の意図は全く分からなかった。

 郵便受けに手紙が入っていた。

 終わりにしましょうと、そこにはそう書かれていた。


 でも私はいつまでもあなたのことを待っています。

 私のことを少しでいいからあなたの心の片隅に留め置いておいてくれるなら、この贈り物をもらってください。いつか、また出会える日を願って。



 どういうことかはいまだにわからない。



 私は手紙も水晶も即座に捨てようとした。だって一方的に別れを切り出しておいて、また出会える日を願うだなんて、なんだかよく分からない。

 でもそう思ったとき、私には彼と一緒になりたいという気持ちはすでに失われていたことに気がついた。


 返事は返さなかった。ただ、プラントプラネットは捨てなかった。以前言ったように面倒な手続きに阻まれたからだ。

 本意ではないが彼の思いを今にいたるまで履行するにいたったわけだ。




 元カレへの連絡はあきらめ、次に私はプラントプラネットの説明書に書かれてあるコールセンターに電話をかけてみることにした。

 もちろんやっていない。留守電にわけを話し、とりあえず自分の電話番号を伝えておく。


 電話が鳴る。

 元カレからだった。


「どうしたんです?」


「あなたが好き」


 ノータイムで私はそう言った。

 電話口の彼はしばらく黙っていた。

 彼が息を飲んだ瞬間を私は見逃さない。武道などではここをついて攻撃をするらしい。


「会いたい。今すぐきて」


「……どこへ行けばいい」


 私は娘さんを手招きして、この場所の近くにあるコンビニを伝える。


「引っ越したのですか?」


 それには答えず、早くきてと言って、電話を切る。

 すぐに娘さんを見る。


「犯人がここにくるわ。すぐ警察に電話をして」




 私の読み通り、彼、もとい、すべてはこの男の企てだった。


 彼はあらかじめ水晶の中に宇宙を作成し、その一つの惑星に生命現象を発生させた。


 そこで生まれた生き物たちを知的生命体へまで導き、そうして生まれた彼らの数人の人(?)に、私たちが住む星の科学技術を伝授した。


 その星の住人たちは惑星全体の文化を発展させた。物凄い科学文明を形成したようである。

 そんな進化を遂げた知的生物たちは、やがて自分たちの宇宙の果てである水晶を破壊し、外宇宙である美代じいさんの家に侵略戦争を仕掛けてきたのだ。



 ただ元カレの計算では、彼らが戦争を仕掛けることになるのは本来なら私の家のはずだった。

 そうして私のピンチに颯爽と助けに向かうというような筋書きだったのだろう。


 御覧の通り彼は頭がいいが、まったくの大ばか者だ。

 私が誰かにあの水晶を渡すということが、まったく持って想定できていないのだ。

 まあ私だって似たようなものだ。さっさと捨てればいいものを、失意のじいさんにあげてしまうだなんて。


 コンビニにのこのこやってきた彼は、そのまま警察に連れて行かれてしまった。


 娘さんは結構有名な声優で、この事件がもとで、大きなニュースにもなったが命には代えられない。


 事件はこうして終わりを告げた。


 しかしあの水晶から飛び出した宇宙は、いまだじいさんの部屋に居座ったままだ。

 警察も自衛隊も宇宙防衛隊も迂闊に手は出せなかった。

 またこれを作り出した元カレにも手に負えないシロモノの様だ。

 水晶の開発会社の折り返しの電話だけが頼みの綱だった。



 私はいったん自宅に帰り、それから会社に連絡を入れた。

 どうせばれることになる。

 私がじいさんに渡した水晶が原因だったことも打ち明けた。

 今日は仕事には出ず、午後から会社にくるよういわれ、私は謝って電話を切った。


 とりあえずシャワーを浴び、それからベッドに入って目だけつぶった。すると10時頃電話が鳴った。

 ひどい鳴り方だ。

 誰かが私を責めているようだ。

 でもそんなはずはない。すべては済んだのだから。


 思いを打ち消し出てみると、娘さんからだった。

 早朝のときと同じくらい声が切迫している。

 でもちゃんと状況説明できるくらいには落ち着いていた。


 ちょっと前に家にデイサービスの送迎バスがやってきたのだという。

 もちろんデイサービスは美代じいさんとはもう関係はない。娘さんもバスがなんでここに来たのか、理由が分からない。それもよりにもよって今日。


 スタッフの説明によると、朝一で当の美代じいさんから迎えに来てくれと連絡がきたのだという。


 連絡もなにも、あの部屋は宇宙が広がっている。じいさんの生死は不明だ。家の周りは警察と自衛隊と野次馬でいっぱい。

 そんな玄関前の道路で娘さんがスタッフとのやりとりに窮していると、なんだか家の方が騒がしい。

 どんどん騒然としてくる。

 目の前にいるスタッフも娘さんではなく、上の方向を見ている。

 娘さんは後ろを振り返る。

 みんな、空を見上げている。

 指さしている者もいる。



 自分の家の真上に、真っ黒い巨大な何かがあった。



 私に説明するとき、娘さんはそれを何かにたとえることができなかった。

 UFOが突然目の前に現れたらこんな感じになるのではないか。


 とにかく見たことのない、大きい、丸型の雲のようなものだった。

 それが屋根の上に微動だにせず浮かんでいる。

 巨大な目に見られているような感覚もあった。


 全員が静まり返り、固唾をのんでそれを見ていた。


 それはゆっくり移動しているようだった。

 でも、見ている者には進んでいるようには見えない。

 気づくと、なんだか違うところにいるというような印象だったらしい。


 それはみんなの意識の隙間を縫うような感じで屋根を滑り降り、静かにそして大胆にバスに近づいた。


 あっと思ったときには、車を丸ごと飲みこんでしまったのである。

 誰も一歩もその場を動くことができなかった。



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