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君以外いらない。

作者: 木谷未彩

私は生まれた時から二人だった。世に言う二重人格者だ。

一日目が私だったら、二日目がもう一つの人格の咲菜。三日目が私なら、四日目が咲菜。という風に、毎日毎日入れ替わる。 

記憶は共有されず寝ている間、二人でその日あったことなどを話して状況確認をする。

でも私が特殊な訳じゃない。母方の家系は、全員二重人格者だ。でも二重人格のまま大人になると、仕事にも支障をきたす可能性が高いから、二十歳になったら親に選ばれなかった人格を殺す。

代々そうやって生きてきた。


私たちは、現在二十一歳。だけどどちらの人格も生きている。二十歳の時、両親に貴方が死んでと言われた。

当然だと思う。常におどおどしている私と、常に笑顔で誰からも愛される咲菜。

私が親でも咲菜を選ぶ。

しかし翌日、咲菜が大学を卒業するまでは、二人で生きていたいと、両親を説得してくれたおかげで私は今生きている。

咲菜には感謝してもしきれない。生きている間は咲菜のために生きると決めている。 


因みに私たちは高校の時、二重人格を理由に色々と面倒なことになったから、別々の大学に通っている。二日に一度しか行けないため、大学に事情を説明し、他の生徒の二分の一の出席日数で、卒業できるようにしてもらっている。 


こんな私だけど、身の程知らずな恋をしている。相手は同じ大学の、一色陽日くん。学科もサークルも違うから、一色君は私の存在すら知らないだろうけど、それでいい。

私みたいな奴に好かれてると知ったら、気持ち悪いだろうし。話したいなんて、贅沢なことは願ってない。

遠くから見ているだけで幸せ。ずっとそう思っていた。咲菜にあんなことを頼まれるまでは。

 

「ねえねえ、お姉ちゃん。明日、私の代わりにデートして」

「は?」

咲菜は私のことをお姉ちゃんと呼ぶ。生まれた時から、二重人格なんだからどちらが姉とかないと思うけど。咲菜の好きに呼べばいい。

「間違えてお姉ちゃんの日に、デートの約束しちゃってさ」

悪びれる様子のない咲菜。


「断ればいいじゃない」

「やだー。一日でも多く会いたいの。彼氏がいたことないお姉ちゃんには、わかんないだろうけど」

少し傷ついた様子の香菜。

「咲菜がデートしないと、意味ないでしょ」

「意味なくないよ。私とお姉ちゃんは一心同体でしょ?」

「咲菜……」

嬉しそうな香菜。 


「でもだめ。そんなのすぐにばれるに決まってるでしょ」

「あのさー。あんまりこういうこと言いたくないけど、お姉ちゃんが今生きてるのって誰のおかげ?」

「そ、それは……咲菜のおかげ……」

怯えた顔をする香菜。

「だよねー。じゃあこの程度のお願い聞いてくれてもよくない?」

「う、うん。わかった。いいよ」

「わーい。ありがとう。お姉ちゃん大好きー」

笑顔で抱きつく、咲菜。


「私も大好きだよ」

嬉しそうな香菜。

「彼氏さんの名前は?」

「えーと。なんだったかな」

「は?」

「付き合ったばかりだからさ。うーん」

二十秒程、考える咲菜。 


「思い出した!一色陽日だ」

私の好きな人が別人格の彼氏なんて、そんなことあるはずない!同姓同名の別人のはず。

「お姉ちゃんと同じ大学らしいよ」

そんな……。

うちの大学に一色陽日は一人しかいない。


「お姉ちゃん。どうしたの?元気なくない?」

「そ、そんなことないよ」

苦笑いを浮かべる香菜。

「そう?まぁどうでもいいけど。とにかく明日いや。もう今日か!よろしくねー」

 


ベッドの上で、 溜息を吐く香菜。

「最悪だ……ていうか。待ち合わせ場所すら聞いてない!」

咲菜の携帯を誕生日を入力して開き、LINEを見る香菜。

誕生日がパスワードって不用心ね……。まぁ私もそうだし、他人のこと言えないけど。

『陽日』の表示を押す香菜。

『遊園地の入り口で待ち合わせしよう   か』と書かれているのを見る。


羨ましいな。遊園地デートなんて。いやするのは私だけど。でも咲菜としてしても意味ないよ……。

そういえば、私の服で行ったらすぐバレるよね……。咲菜の服借りないと。

咲菜のクローゼットを開ける香菜。


ど、どれも着る勇気がない……。咲菜が着たら似合いそうだけど。同じ顔なのになんでだろう。上手に笑えないからかな。

化粧も普段みたいな薄化粧じゃ、ダメだよね。上手くできるかな。


化粧が全然上手くいかず、時間ギリギリで家を出る香菜。



やばい!待たせちゃう!早めに出ようと思ったのに!

でも遅れた方が、咲菜らしくて疑われないかな。いや、だめだめ!一色君を待たせるなんて!


電車に乗っている時間以外は、全速力で走った。



待ち合わせ場所にすでにいる、一色陽日。

息を切らしながら、到着する香菜。

「走ってきたの!?まだ時間じゃないから大丈夫なのに」

「は、早く会いたかったから」

「……そっか。ありがとう。俺も早く会いたかった。大好きだよ」

顔が真っ赤になる香菜。

「咲菜」 

優しい笑顔で言う一色。

顔の熱が冷め、無表情になる香菜。


「咲菜。どうしたの?体調悪い?」

咲菜ならこういうとき。

「ううん。大丈夫!昨日楽しみすぎてあんまり寝れなかったの」

こんなことを笑顔で言うだろう。

「もー。小学生じゃないんだから。咲菜は本当に可愛いな」

そう言った一色君の顔はすごく優しかった。

本当に咲菜のことが好きなんだろう。咲菜が羨ましいな。

「咲菜。なに乗りたい?」

小首をかしげる一色。

咲菜ならきっと……。


「お化け屋敷行きたいな」

「え……。いきなり?」

「うん。私お化け屋敷、大好きなの」

咲菜は小さい頃から、お化け屋敷が大好きだった。私は怖がりだから嫌いだけど。咲菜じゃないと、バレないためには手段を選んでいられない。ばれたらきっとこのデートが終わってしまう。それだけは嫌だ。

「じゃあ、行こうか」

笑顔で手を差し出す、一色。

「うん!」

嬉しそうに手を握る香菜。



手を繋いで、お化け屋敷を歩く二人。

「怖かったら、もっとくっついていいからね」

「う、うん。ありがとう」

顔を赤くする香菜。

「うおーーーーー」

低い呻き声をあげて、死角から飛び出してくるお化け。

「ギャーーーーーー!!」

叫びながら一色に抱きつく香菜。

「大丈夫、大丈夫。怖くないよ」

優しく抱きしめ返す、一色。


咲菜ならきっと、可愛らしく驚いたんだろうな……。


「落ち着いた?」

「う、うん!ごめんね!変な声出して」

一色から離れる香菜。

「大丈夫だよ。じゃあ、行こうか」

手を繋ぎ、歩き出す二人。


その後も私たちは色んなアトラクションに乗った。私の好きな物じゃなく、咲菜が好きな物に乗った。

それでも一色君の隣にいれるだけですごく楽しかった。



足が痛い!普段スニーカーしか履かないのに、バレないために咲菜のヒールを履いてきたから靴擦れがひどい。

でも心配させたくないし我慢しないと。

「たくさん遊んだし、そろそろ休憩しようか?」

「う、うん!そうだね」

痛みのせいで、苦笑いの香菜。

「あそこのカフェに入ろうか?」

近くのカフェを指さす、一色。

「うん。そうしよ」



入店から約三分後、店員が注文を聞きにくる。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「俺はチョコアイスで。咲菜は決まった?」

「私はバニラアイスで」

「かしこまりました。少々お待ちください」

厨房の方へ歩いていく、店員。


「チョコ好きなんだね」

「うん。彼氏が甘い物好きなのやだ?」

小首をかしげる一色。

「ううん。全然そんなことないよ。むしろギャップ萌えって言うのかな?すごく良いと思う」

「そっか。咲菜にそう言ってもらえると嬉しいな」

微笑む一色。


「そうだ。来週の日曜日って空いてる?」

その日は咲菜じゃなくて、私の日だ!

「う、うん!空いてるよ!」

期待に満ちた表情の香菜。

「じゃあ、デートし」

「する!!」

食い気味に答える香菜。

驚く一色。


「あ……」

顔を赤くする香菜。

「ご、ごめん!つい!」

「いいよ。咲菜も、デート楽しみにしてくれてるんだって知れて嬉しい」

「うん。すっごく楽しみ!どこに行く?」

「映画はどうかな?」

「いいね!なにか観たい作品ある?」

「咲菜が選んでいいよ」

「そんなの悪いよ」

「じゃあ、次の次は俺の観たい映画、観に行こう?交代交代でさ」

「わかった。楽しみにしてるね!」

「うん。俺も楽しみ」

嬉しそうな二人。

でも私に次の次なんてないよね……。

少し暗い顔をする香菜。


「お待たせ致しました」

アイスクリームを渡し、他のテーブルに行く店員。

アイスクリームを食べる二人。

「ねぇ、咲菜。一口ちょうだい?」

「え!?」  

驚く香菜。

「やだ?」  

小首をかしげる一色。


「い、嫌じゃないよ!どうぞ」

バニラアイスを差し出す香菜。

「ありがとう」

バニラアイスを一口食べる、一色。

「ん、おいし。俺のもどうぞ」

チョコアイスを差し出す一色。

「あ、ありがとう」

一口食べる香菜。


こ、これって間接キスだよね。どうしよう。すごくドキドキする。

「美味しい?」

「うん。すごく美味しい」

「もっと食べていいよ」

「一色君の食べる分が無くなっちゃうよ」

「一色君?」

不思議そうな顔をする一色。


あ、しまった!

顔が青ざめる香菜。

「下の名前で呼ぶの。まだドキドキして」

「……そっか。俺も咲菜って呼ぶの、ドキドキするしね。でも下の名前で呼んで欲しいな」

「うん。あ、陽日君」

「なーに。咲菜」

ど、どうしよう。話の流れで呼んだだけで、特に言いたいこともないのに。でもなにか言わないと

「だ、大好きだよ」

なにを言ってるんだ!?私は!?

顔全体を赤くする香菜。

頬を少し、赤らめる一色。

「俺も大好きだよ。……咲菜」

「あ、ありがとう」

「こちらこそ」


アイスクリームを食べ終えた二人。

「じゃあ、出ようか」

「あ、ちょっと待って。これ」

絆創膏を差し出す、一色。

「足痛めてるでしょ?」

「すごい。どうしてわかったの?」 

「咲菜が可愛いから、つい見ちゃうのかも」

「ありがとう。すごく助かる」

「足痛いだろうし、今日はもう帰ろうか」

「嫌だ。まだ一緒に居たい」

俯きながら言う香菜。

「遊園地はまたいつでも連れてくるから、 今日は帰ろう?」

次に遊園地に来るのは、私じゃなくて咲菜なんだろうな……。

「あ、あの。最後に観覧車乗りたい」

一色の目を見て言う、香菜。

「……わかった。無理そうだったらすぐ教えてね」

心配そうな一色。

「うん。ごめんね。ありがとう」

「いいよ。咲菜と観覧車乗れるの嬉しいし」

微笑む一色。

絆創膏を貼る香菜。  


「お会計してくるから、少し待っててね」

「あ、半分払うよ!」

「いつもはそんなこと言わないでしょ。どうしたの?」

「そ、それはその……。たまには払わないと悪いなぁって」

「そんなこと気にしないでいいよ。こういう時くらい彼氏面させて?」

これ以上言うと、疑われるよね……。

「わかった。ありがとう」

苦笑いを浮かべる香菜。

会計して戻ってくる、一色。

「じゃあ、行こうか」

手を差し出す、一色。

「うん」

手を握る香菜。

観覧車に向かう二人。



向かい合わせで笑顔で話す二人。

「今日はすごく楽しかった。ありがとう」

「俺も楽しかったよ」

二十秒程、無言になる二人。

ど、どうしよう……。会話が無くなっちゃった。足の心配してくれたのに、観覧車乗りたいなんて、わがまま言っちゃったから怒ってるかな……。


「咲菜。こっちからの景色綺麗だから、隣においで」

「う、うん。わかった」

歩き出す香菜。

「足元気をつけて」

「ありがとう」

一色の隣に座る香菜。

「わー!本当。きれいな夕日!」

夕日から一色に視線を移す香菜。

一色の顔が、目の前にあり驚く。

一色にキスされる。


「ごめんね。いきなり」

「ううん。嬉しい」

頬を赤らめる香菜。

「本当。かわいい……。咲菜」

また一色にキスされる香菜。

「大好きだよ。咲菜」

香菜を抱きしめる一色。

「私も、大好き」

一色を抱きしめ返す香菜。

すごく幸せだな。この時間がずっとずっと続けば良いのに。


「咲菜。体調悪い?」

「そんなことない。元気だよ」

「そっか。よかった。なんとなくいつもと違う感じがしたから」

「ね、寝不足だからかな」

焦る香菜。

「そっか。いつもの咲菜より、今日の咲菜の方が好きだな」

顔が真っ赤になる香菜。

次はもっとちゃんと咲菜にならないと。バレたら嫌われちゃう

   

「そろそろ終わっちゃうね」

「うん。そうだね」

「あ、あの。そろそろ離してくれると」

「見られるのやだ?」

「い、嫌って言うか、恥ずかしい」

「そっか。ずっと咲菜のこと、抱きしめていたいんだけどな」

「わ、私も本当はずっと、抱きしめて欲しい」

両手を上げ、香菜から少し離れる一色。

「密室でそんな可愛いこと言ったら、だめだよ」

顔が赤くなる香菜。

手を下ろす一色。


スタッフが観覧車の扉を開ける。

「ご乗車いただき誠にありがとうございました。足元にお気をつけてお降りください」

観覧車から降りて、香菜に手を差し出す一色。

「ありがとう」

一色の手を取り、降りる香菜。

「……じゃあ、帰ろうか」

「……うん」

切ない笑顔を浮かべる二人。 



「家まで送らせて」

申し訳ないな。でもまだ、一緒に居たいな。

「うん。ごめんね。ありがとう」

「俺が少しでも長く、咲菜と一緒に居たいだけだから気にしないで」

「私も……。一緒に居たい」

照れる二人。

「じゃあ、帰ろうか」

手を差し出す一色。

「うん」

手を握る香菜。

歩き出す二人。



ベッドの上で年季の入ったぬいぐるみを抱き、寝転ぶ香菜。

「夢みたい」

一日中、一色君の彼女になれるなんて。どうせあと数年で死ぬなら、今日死んでしまいたいくらい幸せだ。

でも次のデートに行くまで死ねない。

こんなこと続けてもいつかバレるに決まってる。

咲菜だって一度だけのつもりで頼んだんだろうから、何度も会ってたら嫌だろうし。

だから次で終わりにする。絶対終わりにするからもう一日だけ、一色君の彼女でいたい。


少しずつ、うとうとしてそのまま寝てしまう、香菜。



「お姉ちゃん、デート楽しかったでしょ?陽日優しいもんね」

満面の笑みを浮かべる咲菜。

「……うん。楽しかった」

幸せを噛み締める香菜。

「そんなに楽しかったなら、またデートさせてあげようか?」

「え!?」

驚く香菜。

「冗談に決まってるじゃん。そんなに驚かないでよ」

肩を落とす香菜。


「お姉ちゃん。まさかとは思うけどさ、陽日のこと好きになったりしてないよね?」

「そ、そんな訳ないでしょ」

冷や汗をかく香菜。

「そうだよね。まさか妹の彼氏、好きになったりしないよねー」

咲菜の彼氏を好きになったんじゃない。私の好きな人と咲菜が付き合ったのよ。

私の方がずっとずっと前から好きだったのに。一色君を好きな気持ちも、咲菜よりずっと強いのに。

…………こんなこと言える訳ないけど。


「好きになったりしないから、安心して」

苦笑いを浮かべる香菜。

「そうだよね。ごめんね。変なこと言っちゃって。陽日が好きなのは、お姉ちゃんじゃなくて私だもんね」

「……そうだよ。一色君、言ってたよ。咲菜のこと大好きだって」

私なに言ってるんだろ。こんなこと言っても悲しくなるだけなのに

「えー。陽日ったらお姉ちゃんの前でそんなこと言ったの?もうー。照れちゃうなー」

体をくねくねさせる咲菜。


「お似合いだと思うよ」

本心だ。咲菜は少しわがままだけど、素直で可愛らしい。本当の私は、一色君の隣に立つことさえおこがましい地味な女だ。……私が咲菜だったら良かったのにな。

「嬉しい。ありがとう。お姉ちゃんにもいつか良い人現れるよ」

「……ありがとう」

悲しそうな香菜。


一色君より良い人なんて、この世にいる気がしないけど……。

「じゃあ私、そろそろ起きるね。おやすみ。お姉ちゃん。良い夢見れるといいね」

香菜の視界が黒くなっていく。

咲菜が起きている間は、普通の人と同じような夢を見る。夢の中でも一色君に会いたいな。



一人立ちすくむ香菜。

あれ、私なにしてたんだっけ?

「香菜!」

え、嘘!?まさかそんなはず!

「一色君?」

「陽日でしょ?」

微笑む一色。

「うん。あ、陽日君」

「なーに。香菜」

小首をかしげる一色。

「よ、呼んだだけだよ!」

叫ぶ香菜。

「そっか……。昨日みたいに大好きって言ってくれないの?」

悲しそうな一色。

「だ、大好きだよ」

顔全体を赤くする香菜。

微笑む一色。


「俺も大好きだよ……。香菜」

香菜にキスする一色。

驚いたあと、目を閉じる香菜。

顔を離す一色。

「香菜。可愛い」

幸せそうな一色。


「咲菜より?」

「え?」

驚く一色。

「咲菜より、私の方が好き?」

涙を浮かべる香菜。

「当たり前でしょ。香菜のことが世界で一番、大好きだよ」

大泣きする香菜。

「香菜。大丈夫!?」

「だ、大丈夫。これは嬉し涙だから」

「そっか。よかった。絶対幸せにするから。大好きだよ。香菜」

愛おしそうに見つめる一色。

「私もう充分、幸せだよ」

「だめだよ。香菜はもっともっと幸せにならないと。どんな手を使ってでも、絶対幸せにするからね」

「私、陽日君の隣に居られたら、もうなにもいらないよ?」

「香菜はもっとわがままにならないと。あいつみたいに」

「あいつ?」

不思議そうな香菜。


「なんでもないよ。それより、早く行こう。香菜はなにに乗りたい?」

「わ、笑わないでね?」

「笑わないよ」

「私好きな人と、メリーゴーランドに乗るのが小さい頃からの夢だったの」

「素敵な夢だね」  

微笑む一色。


「小学校の卒業遠足で好きだった人に『咲菜となら乗りたいけどお前とは嫌だよ』って言われたのがトラウマで、昨日は言えなかったんだけど」

「…………そうだったんだね。今から乗ろう?そんなトラウマ忘れさせてあげる」

不敵に笑う一色。

「男の人がメリーゴーランド乗るの恥ずかしくない?」

不安そうな香菜。

「恥ずかしくないよ。メリーゴーランドに乗ってる香菜を、隣で見れたら幸せだな」

「ありがとう。陽日君」

再び大泣きする香菜。

「それも嬉し涙?」

微笑む一色。

「うん!すっごくすっごく、嬉しい!」

「香菜の夢、俺が全部叶えてあげるから、なんでも言ってね」

「ありがとう!陽日君。私、陽日君の彼女になれて幸せ!」

「俺も香菜の彼氏になれて幸せだよ」

優しく香菜を抱きしめる、一色。


「香菜。香菜。香菜」

「なーに?陽日君」

「呼んだだけだよ。たくさん呼ばせて」

香菜を連呼する一色。

「香菜。可愛い。世界で一番、可愛い」

照れる香菜。

「陽日君は世界で一番かっこいいよ」

「香菜……」

嬉しそうな一色。

「俺のことずっとずっと好きでいて、そのためならなんだってするから」

「うん!ずっと、ずっと陽日君が大好きだよ!」

「じゃあ、行こうか」

手を差し出す、一色。

「うん!」

嬉しそうに手を繋ぐ香菜。


私たちは遊園地を遊びつくした。メリーゴーランド、コーヒーカップ、ゴーカート。咲菜じゃなくて、私が乗りたい物に乗った。昨日もすごく楽しかったけどその何倍も、今の方が楽しい。

陽日君が私の名前を呼んでくれる。咲菜じゃなくて私を好きだと言ってくれる。そのことが涙が出る程嬉しかった。

この時間がずっとずっと続けばいいのに。心からそう思った次の瞬間、耳障りが私を起こした。

目覚まし時計を止める香菜。

「…………夢か」

起きてしまえば夢に決まっているとわかるのに、どうして見ているときには気づけないんだろ。

こんな現実なら、ずっと夢を見ていたい。


私は静かに涙を流した。

泣いたって、私に現状を変える勇気はないのに。


「…………大学行かないと」

ベッドから起き上がり、大学に行く準備をする香菜。

顔に生気がない。

準備を終えて家を出た。


大学で一人、廊下を歩く香菜。

「なんでこんな日に、朝から授業取っちゃったんだろ」

前から男友達と一色が歩いてくる。


ど、どうしよう!?一色君だ!一昨日会ったばかりだから、流石に気づかれるよね。下を向いて歩いた方がいいかな。でも、気づかれたい。気づかれちゃダメなのに、気づかれたい。


チラチラと一色を見ながら歩く香菜。

すれ違う時に、はっきりと目があう二人。

香菜に気付かず、一色が通り過ぎる。

3歩歩いて、立ち止まる香菜。


はっきり目があったのに気づいてくれなかった。一昨日はあんなに好きって言ってくれたのに。最初から分かってたけど、改めて実感する。陽日君が好きなのは、私じゃなくて咲菜なんだ。私だったら、気づいてすらもらえないんだ。

涙を流す香菜。

授業サボろうかな……。どうせ勉強したって、大学卒業したら死ぬんだし。

大学を出て、一人映画館に行く香菜。


バトルアニメが原作の映画ポスターの前で、立ち止まる香菜。


これ観たかったんだよな。もう公開されてたんだ。観ようかな。陽日君にはアニメ映画が観たいなんて言えないしね

チケットを買い、劇場内に入る香菜。



(6日後)

待ち合わせ場所にすでにいる一色。

スマホのインカメラを使い、髪型を整えてから一色の元へ向かう香菜。

「お待たせー」

「大丈夫。全然待ってないよ」

微笑む一色。

「なに観ようか?」

「昨日、公開されたラブコメが観たいな」

「……そっか。いいよ」



(15分後)

映画館のシートに横並びで座る二人。

「咲菜って兄妹いるの?」

「……妹が一人いるよ」

妹と呼ぶべきかはわからないけど

「そうなんだね。仲良いの?」

「良い方だと思うよ。毎日話すし」

「……へぇ。そうなんだ。妹のことどう思ってるの?」

「大好きだよ。たった一人の妹だしね」


陽日君と付き合ってるのは、死ぬ程羨ましいし、わがまますぎて困ることもあるけど、可愛い妹だ。あの笑顔を見ると、なんでも許してしまう

「……ふーん。そうなんだ。俺より好き?」

「え……」

驚く香菜。


考えたことなかった。陽日君のことは、本当に大好きだ。でも咲菜のことも同じくらい大好きだ。生まれてから21年間、ずっと一緒にいた。咲菜が両親を説得してくれていなかったら、私は今この世にいないし、陽日君にも出会えなかった。どうしよう。二人とも同じくらい大好きだから、決められない

「……ごめん。困らせちゃったね。彼氏への好きと、妹への好きは種類が違うから、比べられないよね」

「……うん。ごめんね」

俯く香菜。


「もちろん男の人の中では、陽日君が一番好きだよ!」

「……うん。ありがとう。そろそろ映画始まるみたいだね」

香菜からスクリーンに視線を移す一色。

「あ、ほんとだね」

一色からスクリーンに視線を移す香菜。

香菜の手を握る一色。

驚いて、一色を見る香菜。

「繋いでていい?」

「……うん」  

頬を赤くする香菜。


映画は正直、ありきたりで面白くなかった。でも二時間、陽日君の隣にいれる。そのことがなにより嬉しい。

映画で主役二人のキスシーンが流れる。

「咲菜」

一色を見る香菜。

一色の顔が目の前にあり、驚いているとキスされる。

十秒程、触れるだけのキスをする二人。

一色の顔が離れ、なにか言おうとする香菜。


香菜の唇に人差し指を当てて小声で「しー。ここ映画館だから」

「ごめんね」

「ううん。驚かせちゃってごめんね。映画観ようか」

「うん」

 

映画のエンドロールが終わり、席を立つ観客達。

「帰ろうか」

手を差し出す一色。

「嫌だ!まだ一緒に居たい!」

叫ぶ香菜。

「ごめんね。俺もまだ一緒にいたいけど、この後予定があるんだ」

「せ、せめて食事だけでも!」

「ごめんね。時間がないんだ。次のデートは何時まででも一緒にいるから、今日は帰ろう?」

今日が最後だから、今日じゃないとダメなの!でもこんなこと言えないし


「来週の土曜日なんてどうかな?君の行きたいところに行こう」 

微笑む一色。

「ダメ!今日で終わりにしないと!」

「予定あるかな?会えると嬉しいんだけど」

ダメ!!ダメ!!ダメ!!

「大好きだよ」

「………………あ、空いてるよ」

「よかった。すごく嬉しいよ。行きたいところ考えておいて。どこへでも連れて行くから」

満面の笑みを浮かべる一色。


「あ、ありがとう」

俯く香菜。

香菜の頭を優しく撫でる一色。

「急いでるから、帰るね。また来週」

走り去る一色。

ダメなのに、また約束してしまった。私、最低だ……。


その後も咲菜と偽り、五回程陽日君とデートした。最初は咲菜への罪悪感でいっぱいだったけど、それも少しずつ薄れてきた。だって私の方が絶対に陽日君を幸せにできる。あの子は飽き性で彼氏ができてもすぐに別れてしまう。私はそんなことしない。陽日君のことを一生好きでいる。

あの子は家事だってなにもできない。私は料理も洗濯も掃除も、中学生の頃から手伝ってきた。両親に二十歳の時に選んで欲しくて。両親は私じゃなく、咲菜を選んで、私を殺そうとしたけど。でも今はそんなこと、どうだっていい。陽日君の隣にいられたら、それだけで幸せだ。ねぇ陽日君。咲菜じゃなくて、私を選んで。私の方が陽日君のことを好きだし、陽日君のためならなんだってするよ。そんなこと言える訳ないけど。咲菜のフリをしながらでも、デートができるなら、それでいい。そう思っていた。咲菜にあんなことを言われるまでは。

 


「お姉ちゃんさー。何回も私のフリして、陽日とデートしてるよね?」

不気味なくらいの笑顔で咲菜が言った。

「え!?」

驚く香菜。

「もう。そんな訳ないでしょ。なに言ってるのよ」

急いで笑顔を取り繕う香菜。

「……お姉ちゃん。嘘が上手になったね。でもさ私の服勝手に着たら分かるって」


どんな服を買ったらいいのかわからなくて、咲菜のを借りてたから。鈍感な咲菜なら気づかないと思ったのに。

「誤解しないでね。お姉ちゃん。私は怒ってないよ。でもこのまま陽日を騙し続けるのは、よくないと思うな。だからね、陽日に正直に言おう?陽日優しいから、お姉ちゃんのことも、私と同じくらい大事にしてくれるよ」 

「そんなこと……」

俯く香菜。

「このまま陽日を騙したいの?」

「それは……違うけど」

声が震える香菜。


「きっと大丈夫だから、自信持とう?お姉ちゃんだって、可愛いじゃん。私と同じ顔なんだから」

咲菜の言うように、私も陽日君に好きになってもらえるのかな。そんな夢みたいなことあるのかな。このまま騙し続ける訳にもいかないし……。


「明日、陽日に説明しとくね」

「…………わ、わかった」

期待と不安で心がぐちゃくちゃで、どこかに逃げたくなった。

「じゃあ、私起きるね。おやすみ」

香菜の視界が黒くなっていく。



動物園で一人立ちすくむ香菜。

「香菜!」

「陽日君!」

分かってる。これは夢だ。それでもいい。今が幸せならそれで。たとえ起きた時に、虚しくなっても。

「なにが見たい?香菜」

優しい顔をする一色。

陽日君が私を香菜って呼んでくれてる。

涙を流す香菜。


「いつも悲しませてごめんね。もう少しだから。もう少しだけ待っててね。大好きだよ。香菜」

香菜を優しく抱きしめる一色。


この夢が覚めなきゃいいのに。そう思いながら泣き続けていたら、いつの間にか目を覚ましてしまっていた。



自室で朝7時半を指す、時計を見る香菜。

「起きないと……大学行きたくないな」

深い溜息を吐く香菜。


咲菜は陽日君に私が代わりにデートしてたこと言ったのかな。言ったならもう陽日君の笑顔は見れないのかな。

涙を流す香菜。

「……準備しないと。逃げたってなんにもならない」

準備をして、大学に行く香菜。


大学の廊下を一人で歩く香菜。

反対側から、一人で歩いてくる一色。


陽日君が一人で歩いてるの、珍しいな。私と話すためかな。

頬を赤くする香菜。

馬鹿だな。私、なに喜んでるんだろ。嫌な話に決まってるのに。

一色との距離が残り三歩ほどになったとき。


「あの、香菜……さんですよね?」

「……はい」

俯く香菜。

「お昼予定が無ければ、一緒にご飯に行きませんか?お話したいので」

「は、はい!」

「お店の場所は後でLINEしますね」

「私のLINE教えますね」

スマホをスカートのポケットから取り出す香菜。

「咲菜に教えてもらっているので、大丈夫ですよ。……冷静に考えたら、本人の許可を得ず、連絡先を聞くなんて失礼でしたね。すみません」

「い、いえ!全然大丈夫なので!」

「ありがとうございます。じゃあ、また後で」

去っていく一色。

立ちすくむ香菜。

陽日君、他人行儀だったな。仕方ないけど。でもやっぱり寂しいな……。

涙目になる香菜。



大学近くのレストラン・店内

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「あ、待ち合わせで」

「かしこまりました」

去っていく店員。

窓際の席だよね……あ、いた。


窓の外を見ている一色。

「あ、あの。お待たせしました」

「大丈夫ですよ。そんなに待っていないので」

微笑む一色。

「し、失礼します」

一色の向かいの席に座る香菜。

「これメニューです」

メニューを手渡す一色。

「ゆっくり決めてください」

「あ、ありがとうございます」



「決めました」

「じゃあ、頼みましょうか」

「はい」

呼び出しベルを押す一色。

歩いてくる店員。

「ご注文をお伺いします」

「ナポリタンを一つ。香菜さんは?」

「カルボナーラでお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちくださ い」

去っていく店員。


会話がないまま、パスタを完食する二人。

き、気まずい。咲菜のフリしてるときはこんなことなかったのに……。

「あの。咲菜から聞きました。咲菜じゃなくて、香菜さんとデートしてた日があったと。俺の彼女がすみません」

頭を下げる一色。

膝の上で両手を爪が食い込む程、握る香菜。


俺の彼女か……辛いな。

「いえ。こちらこそ騙すような真似をしてすみませんでした」

頭を下げる香菜。

「いえいえ。咲菜がわがままを言ったん でしょう。咲菜ってそういうところありますよね」

嬉しそうに笑う一色。

辛そうな香菜。

「咲菜とも話し合ったんですけど、香菜さんさえ良ければ、俺たち三人で付き合いませんか?」

「え……」

驚く香菜。


「俺は浮気みたいで良くないと思うんですけど、咲菜がどうしてもって……もちろん香菜さんが嫌なら」

「い、嫌じゃないです!!」

「……そうですか」

残念そうな一色。


陽日君、嫌そうだな。私は二人にとって邪魔者でしかないもんね……。嫌な思いをさせないためにも、陽日君に好きになってもらえるように頑張ろう!

「今週の土曜日空いてますか?」

「あ、空いてます!」

「なら、出かけましょうか。行きたいところ考えておいてください。長居してもお店に迷惑ですし、そろそろ出ましょう」

立ち上がる一色。


付き合えることになったんだから、前みたいに接してもいいよね」

「陽日君とのデート楽しみにしてるね!」

「……あー。しばらくは苗字で呼んでもらってもいいですか。できればタメ口もなしで。照れてしまうので」

一色は無表情で言った。

咲菜のふりをしていたときには、一度も見せたことのない顔だ。

「あ、ご、ごめんなさい。いきなり馴れ馴れしかったですね」

俯く香菜。

無視して歩き出す一色。

ついていく香菜。


「2568円になります。」

「すみません。一万円からで」

「一万円、お預かりします。7432円のお釣りです。ありがとうございました」

「ごちそうさまでした。美味しかったです」 

歩き出す一色。

「私も美味しかったです」

一色についていく香菜。


「いつも払ってもらってごめんなさい。ごちそうさまでした」

「……今後は割り勘でもいいですか?」

「もちろん大丈夫ですよ。いくらですか?」

「香菜さんの方が高かったので、1310円ですね」

財布を見る香菜

「今、10円ないので、1300円でも大丈夫ですか?」

1300円を一色に渡す香菜。

「大丈夫ですよ。10円は次会うときで」

「え……」

驚く香菜。

「どうかしましたか?」

不思議そうな一色。

「あ、いえ。なんでもないです」

10円とはいえ、ちゃんと払わないと失礼だもんね。

「そうですか。俺は午後の講義がないので帰りますが、香菜さんは?」

「私はあるので大学に」

「そうですか。じゃあ、さよなら」

大学の反対方向に歩き出す、一色。

「あ、はい。土曜日楽しみにしてます」

一色の背中に笑いかける香菜。

無視して、去っていく一色。


まだ一緒にいたいなんて、わがまま 言えないもんね……。土曜日どこに行ったら 一色君は楽しんでくれるかな。私は一色君とならどこでも楽しいから、難しいな。少しでも楽しませられるように、頑張ろう!

小さく両手で、ガッツポーズをする香菜。



その後、私たちは五回程、デートしたけど距離は少しも近づかなかった。咲菜のふりをしていたときより頻度もずっと少ないし、毎回一円単位の割り勘。それはまだいい。一番嫌なのは、キスどころか手も繋いでくれないこと。いつかはしてくれるだろうと思って言わなかったけど、今日勇気を出して言ってみよう



カラオケデートをしている二人。

「あ、あの!一色君。キ、キスして欲しいです」

顔を真っ赤にして、一色を見つめる香菜。

驚く一色。

「…………すみません。まだ緊張するので。そろそろ帰りましょうか」

バッグを持ち、立ち上がる一色。

「まだ20分ありますよ」

驚く香菜。

「……急用ができたので」

歩き出す一色。

「キ、キスが嫌なら、手を繋ぎたいです。陽日君って呼びたいし、敬語も嫌です」

俯いて、涙目になる香菜。

「……すみません。緊張するので」

「……全部、ダメですか?」

「そうですね。緊張するので。急いでいるので、もう行きましょう」

ドアを開けて、出て行く一色。

バッグを持ち、ゆっくりついていく香菜。

レジでは一色が香菜の分も払い、しば   らく歩いてから、1031円を要求し、受け取る一色。

「じゃあ、帰りますね。またそのうち会いましょう」

香菜の返事を待たずに、歩き出す一色。

一瞬、追いかけようとして、出来ずに俯く香菜。


咲菜のフリしてる時は、二回目のデート以外、家まで送ってくれたのに。私ってバレてからは、毎回、現地解散。もっと一緒にいたいよ。

俯きながら、涙を流す香菜。


遠目で香菜を見て、不敵に笑う一色。

「そろそろかな……」



冷たくされても、一色君を好きな気持ちが、全然減らなくて辛い。隣にいるだけで、胸が痛いくらいドキドキする。でも前みたいに優しくして欲しい。どうしたらしてくれる?どうしたらどうしたらどうしたら。そうだ。私が咲菜になればいいんだ。でも前みたいにしても、すぐにばれる。なら、咲菜を消してしまおう。私の方が陽日君の彼女に相応しい。よく考えたら、大学卒業時、あいつのために死ななきゃいけないのも、おかしいじゃないか。あんなわがままで頭の悪い女、生きてたってなんの価値もない。よし、咲菜を殺そう。咲菜を殺して、私が咲菜になる。陽日君以外いらない。



咲菜の机の引き出しをあさる香菜。

「…………あった。本当。不用心」

嘲笑って、机の引き出しから小瓶に入った水のような液体を取り出す香菜。

殺すのは簡単。この液体を私が飲めばいい。逆に咲菜が飲めば、私が死ぬけど。

小瓶を開き、口に流し込む香菜。

ベッドに倒れ込む。

急に眠気が……。陽日君待っててね。

笑顔で、眠る香菜。



咲菜のベッドで目を覚ます香菜。

急いで咲菜のスマホを見る。

「やった!やった!やった!」

咲菜の日なのに、私が起きた!咲菜は死んだんだ!

咲菜のLINEで、急いで一色に『今日、デートしたいな』と送る香菜。


約3分後『いいよ。俺も話したいことがあるんだ。10時に駅前のカフェでいいかな?』と返信がくる。

『うん!楽しみにしてるね!』と返信する香菜。

急いで立ち上がり、咲菜のクローゼットをあさる。

どれ、着よう。陽日君はどんな服が好きかな。あー、楽しみだな。

満面の笑みを浮かべる香菜。



駅前のカフェ・店前(約一時間後)

「陽日。お待たせ」

待ち合わせ時間に10分遅れ、ゆっくり歩きながら現れる香菜。


咲菜なら呼び捨てにしてるだろうし、待ち合わせ時間も平気で守らないに決まってる。陽日君を待たせるのは、心苦しいけど、どんな手段を使ってでも咲菜じゃないとばれる訳にはいかない。




陽日君は、今まで見たことのない、晴れやかな笑顔で『私』の名前を呼んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一色の真意が読めないのもあって、まだどんでん返しがあるのでは?と疑ってしまうような、何とも形容しがたい結末が余韻を感じさせます。 単純に咲菜が香菜の言うように頭が弱くて彼女を馬鹿にしたいが…
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