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第9話 僕、ティナを救う!

「本当に今晩、領主様は動くのですか?」


「ええ。魔術師が契約魔法用の触媒を多数買い込んでましたから、間違いなく」


 僕は領主館付近の小屋で、盗賊ギルドの連絡員から情報を仕入れている。


 ……ちゃんと事前に盗賊ギルド長に話を通しに行ってて良かったよ。おかげで作戦が成功しそうだものね。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「さて、ここからは天井裏の排気口を進みますか」

<カイト様、お気をつけて>


 僕は肘と脛に合成樹脂製プロテクターを付けた黒い防刃ジャージに身を固め、頭巾を被って顔まで隠して領主館に侵入している。

 ティナを救いだすため、地下下水溝から館の内部に侵入、今度は天井裏を這って進んでいる。


 ……こういう潜入技術は、師匠にとことん鍛えてもらったからね。


 音も無く歩き、狭い隙間を這う。

 影伝いに進み、人の視線を避ける。


 王家の密偵、暗殺者であり護衛でもあった師匠、彼は盗賊ギルドから王家に雇われていた。

 今回、僕が盗賊ギルドと接触できたのは、師匠のコネだ。


 僕は、師匠から教えてもらった初歩の幻影魔法と「技術(テクニック)」を駆使する。

 誰にも気づかれず、僕は領主の私室へと向かった。


「ほう、脇や手足だけでなく、下腹部も綺麗にしておるな。流石は元公爵令嬢だな」


 僕は、天井裏からティナが捕まっているらしい部屋の中を見る。


 すると下着姿、下腹部を脱がされ、騎士らしい男二人によって作業台らしき机の上に抑え込まれているティナが居た。

 メイドの持つ揺らぐ燭台の光に照らされたティナの綺麗な下腹部に、魔術師らしき男が虹色に輝くインクで濡らした筆で魔法円、いや奴隷紋を描いている。


 ……な、なんてイヤらしい事をしやがるんだ! くそぉ。


 僕は、今にも飛び出したくなる気持ちを抑えて辛抱する。

 部屋の中には領主の他、魔術師杖(メイジスタッフ)を持った魔術師、メイドが一ずつ。

 そして騎士らしく、軽装ながら鎧装備の筋骨隆々な男が二人。

 僕一人で瞬時に倒せる人数ではない。


 ……拳銃は準備しているけど、サイレンサーは無いし、殺すと後々厄介だからね。じゃなきゃ、全員殺してやりたいよ!


「ぐ、ぐぅぅ」


 自害防止に口枷をさせられて叫べないティナ。

 瑠璃色の目から、大粒の涙をこぼしている。


 ……ごめんね、ティナ。もうちょっとだけ辛抱して。


 僕は、歯を食いしばりながら敵の隙を伺う。


「ははは、誰も助けには来ぬぞ。何やら神殿の小僧と仲良くしていたらしいが、あんな子供が好みか? まあ、紋章が掘りこまれた後、俺と『事』を成せば、お前は俺の傀儡となる。反発する気も起きなくなり、いつでも従順に股を開くようになるのだ!」


 ……アンタ、残念だけど、僕は助けに来ているぞ。見ていろよ、後で絶対に後悔させてやる! ザマァみさらせ!


「テオバルト様。紋章が彫り込めました。後は、テオバルト様の精を授ければ、術は完成です」


 ティナの真っ白な下腹部に、輝く魔法紋章が現れた。

 おそらくあれが奴隷契約をさせる紋章、俗にいう淫紋という奴だ。


 魔術師の言う通りなら、領主と性交渉をさせなければ、術はまだ未完成。

 僕がティナを救うチャンスは、まだ残っている。


「さて、姫をベットに運ぶのだ。そして縛り付けたのちに抵抗できぬように足を抑え込め。姫よ、なに最初は少々痛むが次第に良くなる。最後は天に昇る快楽の中で何もかも忘れ、俺のモノとなるのだ!」


 ……このエロじじぃ! 僕はオマエは絶対に許さないぞ!!


 全裸に剥かれ、ベットの上で手と足を縛られた上に両側から足を抑え込まれ、股を開かされて涙をこぼすティナ。


「肌も綺麗で、幼げな顔に似合わぬ見事な乳房。これは良い拾い物だったな」


 胸を揉まれているティナは眼を閉じ、涙をボロボロとこぼしている。

 今、騎士二人はティナの足を両側から押さえこんでいる。

 魔術師、メイド、そしてティナの上に覆いかぶさっているテオバルト。

 全ての人の視線がティナに向いていた。


 ……今がチャンスだ!


 僕は、天井板の隙間から赤外線対応の赤リン(RP系)煙幕手榴弾を部屋に放り込んだ。

 あっという間に赤外線すら通さない白煙が室内に満ちる。


「ん? ごほ、ごほ。一体何が起こった? 火事か!?」


 煙を吸い込んで咳き込むテオバルトが叫ぶが、もう遅い。


 ……いくぞ!


「ティナに、何やってるんだぁ! このエロジジイめぇ!」


 僕は超音波型暗視装置を装備して天井板を踏み破り、一気に飛び降りる。

 その際にテオバルトの顔を蹴り飛ばし、ベット横に着地。


 状況が認識できずに混乱している騎士2人にも、スキルを使わせる暇を与えず頭部に身体強化した回し蹴りをかました。

 そして倒れた騎士達に、僕は右手に持った高電圧スタンガンを押し付けた。


「ティナ! 約束通り、助けに来たよ!」


 僕は全裸のティナを見ないようにしつつ、彼女に声を掛けた。


 ……暗視装置越しとはいえ、ティナの身体は綺麗すぎるもの。それにティナが恥ずかしいでしょ。


「ぐぅぅ。一体何が起きた? 賊か? 騎士よ、早く殺せ!」


 僕は、目の前が見えず手探りで動いているテオバルトの鳩尾(みぞおち)に、左手に握る高周波ナイフの柄を身体強化しつつ渾身の力で叩き込む。

 そして倒れたテオバルトに、容赦なくスタンガンを押し付けた。


「ぎゃ!」

「テオバルト! ティナは僕が頂いていく!」


 怒りのあまり殺しそうになる気持ちを抑え込み、僕はテオバルトにティナを奪う事を宣言した。


 魔法の光を灯そうとするも、煙で見えないらしくパニックしている魔術師には、こめかみにナイフの柄を叩きつけつつ、足払いをして転げたところにスタンガン。


 ……イヤらしいこいつも殺したいけど、今は我慢!


 蝋燭を持ったままオタオタしていたソバカス巨乳メイドには、やさしくスタンガンだけで終わらせた。


 ……このお姉さんはティナとの面会の時にも居たよね。領主に性奴隷にされてるかも知れないから、あまり傷つけたくないよ。


「ふぅ。これで全員無力化できたかな?」


 僕は、念のために倒れている騎士二人の鎧の隙間からスタンガンの追加を叩き込み、暗視装置を外してティナの方に振り返った。


「ん! んぬぅ!」


 キラキラと涙をこぼしながらも、僕の顔を嬉しそうに見てくれるティナ。

 部屋に充満する白煙の中、全裸でありながらイヤらしさよりも何処か神々しさを感じる姿に、僕は頬が熱くなった。


「待たせてごめんね、ティナ。ここから逃げるよ!」


 僕はティナの裸体の上にシーツを被せ、手足を縛る縄をナイフで切る。

 そして口枷を取り除いた。


「カイト! カイト! わたしのおうじさま!」


 ティナは全裸であるのを忘れたのか、すごい勢いで僕に抱きついてきた。


「あ、痛い! ティナ、ちょ、今は逃げる方が先決だって……」

「こわかった、こわかったのぉ、カイト、カイトぉ!」


 幼くて舌足らずの声で僕の名を何回も叫ぶティナ。

 よく聞くと、何故か日本語で叫んでいる。

 恐怖でかなり混乱しているのだろうか?


「どうどう。まずは落ち着こう。それにティナがそんな恰好だと、僕も困るんだけど?」

「だって、だってぇ。わたし、こわかったんだもん! あ、ごめんなさい」


 僕が優しく背中をさすると、ようやくひと息ついたティナ。

 自分の姿を理解し、赤面しつつ急いでシーツで身を隠した。


「では、姫様。(わたくし)めに姫様の逃亡のエスコートをさせて頂けますか?」

「ええ。頼みますわ、カイト」


 僕は姫に従う騎士の様に、ティナに接する。


 ……さあ、ここからが一大逃亡劇だよ!

 カイト君、地球の科学兵器を駆使してティナを救いました。

 彼は趣味&実益として、異世界に残っている地球製品の収集をしています。

 では、明日正午の更新をお楽しみに!

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