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第8話 僕、盗賊ギルドで情報を集める。

「坊や。どうやら時間はあまり残っていないらしいよ」


「それはどういう意味ですか、(あね)さん?」


 ティナと再会した翌日、僕はグローア姉さんからティナを救うために時間的余裕がない事を知った。


「盗賊ギルド経由情報だが、領主様のヤツ。姫様の魅力に我慢しきれずに、婚姻の儀前に手を出しそうなのさ。それも奴隷紋を彫り込んだ上で強姦、後は傀儡にしちまう気らしい」


「未成年の女の子を婚約前、更に同意なしに襲うって、どういうつもりですか、領主様は?」


 ここ異世界。

 下町、平民同士なら同意さえあれば未成年同士の性交渉は、そこまで問題としない。

 性病や妊娠の問題さえなければ、結婚前にお互いに試し合うのもよく聞く話。


 ……地球でも、そのあたりはよくあった事だね。


 だが、貴族社会において純潔は大事にされる。

 血筋を継ぐうえでも純潔であれば、他家の「血」を受けていない証拠となるからだ。


 更には女性の場合は純潔、処女であれば淑女として慎み深いとされ、少なくとも貴族内では婚約の儀以前に手出しされる事は通常まず無い。

 その上、未成年女児を無理矢理に犯すのも、男性の年齢の方が高い場合が多い貴族では良いようには思われない。


「元々、『ロリコン』って傾向があるらしいからな、領主様は。まあ、アタシが見てもフローレンティナ様は、とびっきりの美少女だものね。我慢できなくなるのも時間の問題さ」


「じゃあ、早速乗り込む準備をしなきゃ!」


「まあ、慌てるではないぞ、カイト君。仕込みを十分にしておくのが、酒にしろ料理にしろ、そして策にしても間違いないからのぉ。ほっほっほ!」


 僕が慌てた様子を見せると、神殿長様は僕を制してくれる。


「忍び込む準備は坊やがやりな。その前準備と逃げる準備はアタシらに任せるんだね」


「はい、お願いします! ルークス、領主屋敷の見取り図の準備をお願い。他は手持ちの地球製アイテムを全部使うよ!」


<そうおっしゃると思いまして、既に屋敷の見取り図及び地下下水路の配管図は既に準備しております。拳銃弾も3カートリッジは準備済み、他のアイテムも充電済みですので>


 僕らは、ティナ救出作戦の準備を開始した。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 僕は事前相談に姉さんと一緒に、盗賊ギルド窓口、表向きは酒場兼の宿屋に行った。

 そして師匠の名前と姉さんの顔を使い、ギルド長に面会した。


「ははは! お前、かつての女を、それも貴族令嬢を領主から救うために命をかけるのか? テオドルの義息子(むすこ)が、何やら動いているって聞いて調べていたが、そういう事かよ」


 獣脂蝋燭の揺れる灯りの元、ギルド長は大声で笑う。

 しかし、その眼は一向に笑っておらず、僕を値踏みしている様に思える。


「色々迷惑をかけるが、今回はアタシとテオドルの顔で眼をつむってくれないかい? 悪いようにはしない。ギルドの構成員の怪我や病気を診るのを安くするぞ?」


「グローア、お前のような女傑が、わざわざ小僧の面倒を見るのかい? お前の好みとは小僧は随分と違うはずだが? それに神殿も領主に睨まれるぞ?」


 姉さんは、自分が出来る最大の譲歩を盗賊ギルドに示してくれている。

 僕自身には、姉さんや神殿に返せる物は何も無いのに……。


「この坊や、これでもすげえぞ。テオドルの『技術(テクニック)は一通り修めてる。その上に地球生まれで地球科学ってやつを理解してる。今までも難攻不落だった地球遺跡をいくつも踏破してるぞ」


「だが、『スキル』は何も持っていないそうじゃねぇか。そんな小僧が公爵令嬢、姫さんを養えるとは思えねえぞ? これからは領主から逃げ回る一生だぜ」


 姉さんは僕を褒めるが、ギルド長は現実を見せてくる。

 彼が言うように僕には、この世界で誰もが持つ「スキル」は無く、そしてティナが満足するような生活を与えられる保証もない。


「多分、そこは大丈夫さ。姫さんと坊やは、お互いに一目惚れ、初恋で両想い。この思いを壊したら、アタシはウチの神さんから怒られるよ。それとね、アンタら盗賊ギルドを困らせている領主に一泡吹かせられるぜ。幼妻を寝取られ駆け落ちされた恥ずかしいヤツだって触れまわすだけでね。最近は兵らが暴れている上に税金が増えて、歓楽街でのシノギも減っているんだろ?」


「ほう、そこまでギルドの裏事情を知っているか。グローア、あんたは神官にしておくにはもったいないぜ。是非、俺の愛人に……」


「申し訳ないが、アタシはアンタも好みじゃないし、ウチの神さんを裏切れないからね」


 姉さんと盗賊ギルド長は、お互いに弱みを見せないようにして交渉をしている。

 こんな事は、僕には出来ない。

 姉さんの話術に、僕は自らの未熟さを思い知った。


「まだダメかい? アタシに出せる『カード』は、ここいらが限界さ」


「そうだなぁ。小僧、お前は何を差し出せる? 姫さんを救いたいのなら、お前も何かを差し出しなきゃな」


 盗賊ギルド長は、話を僕に向けてきた。

 確かに彼の言う通り、僕は何も差し出していない。

 何も犠牲無しに、利だけを得るのは間違っている。


「そ、それなら……」

<では、僭越(せんえつ)ながらワタクシから情報を提供致しましょう。領主館の見取り図なぞどうでしょうか、ギルド長様? 他にもご希望の建物の見取り図など、お入り用なら準備致しますが?>


「なんだ、今の声は? 何処に居やがる?」


 突然湧いてきた声にギルド長は、表情を引き締めて周囲を見回す。

 僕が何か言いだす前にルークスが、提案をしてきたのだ。

 今回潜入活動をするうえで入手した領主館の図面を、盗賊ギルドに提供するとの事。


「あ、これは僕の相棒。地球製のAI、自分で考える機械です」


「ほう、これが噂に聞く奴か。なら、そいつを俺に……」


<残念ですが、ワタクシのアクセス権はカイト様だけです、ギルド長様。もし、カイト様に何かしようとするならば、ワタクシはアクセスを拒否。このアジトや盗賊ギルド関係の建物や構成員の個人情報を、全て領主様に売りましょう>


 盗賊ギルド長がルークスを欲しがるが、先にルークスが拒否。

 逆に領主に盗賊ギルドを売り払うと宣言する。


「ははは! 機械にしちゃ良い度胸だ。分かった、今回は小僧の将来性に掛けて、格安にしておいてやる。さっさと領主館の図面を出しやがれ!」


<ありがとうございます、ギルド長様。今後とも、貴方様とは良い取引が出来ましたらと思います>


「ルークス、姉さん……。ありがとぉ」


 僕は盗賊ギルド長の前とはいえ、仲間達の友情に泣いてしまった。


「小僧、男は泣いちゃダメとは言うが、人の事を思い泣くのは悪くねぇ。これからも精進しな。俺は、お前の将来性にチップを掛けたんだからな」


 坊や扱いながらも、ギルド長は僕の頭を撫でて慰めてくれた。

 続き、ティナちゃん救出編は20時更新になります。

 皆様の応援、とても感謝しております。

 では、次も宜しくお願い致します。

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