第30話(累計 第75話) 僕、ティナと一緒に政治制度を学ぶ。
「カイト。これは、どの車に詰め込めばいい?」
「レオン、それはこっちのトラックにお願いします。あ、足元に気を付けて下さい」
僕達はティナの行幸、視察旅行の準備をしている。
普通、領主が長期間領地を開けるのは宜しくないのだが、留守居役がちゃんといてくれるので、安心だ。
「ティナ様。ボク、絶対に貴方が帰る場所を守り切りますね」
「トビアスお兄様。宜しくお願い致しますの」
今回、トビアスが留守居役として公館に残ってくれる。
ルークスの端末もあるので通信に問題も無いし、彼なら安心して任せられる。
「はい、泥船に……、あ痛! 姉弟子、冗談に決まってますでしょ?」
「そんなんじゃ、あたしとティナちゃんも安心できないよ。全く困った弟分ね」
マルテとトビアスが義姉弟漫才をしているのを見て、ティナも僕も笑ってしまう。
「しかし、坊や。思い切った事を計画したんだね。どういうところから思いついたんだい?」
「それがですね、グローア姉さん。ティナと日本の事を話していた時なんですよ」
◆ ◇ ◆ ◇
「カイトぉ。わたし、どんな皇帝になったら良いと思う?」
「そうだねぇ。優しい女帝様がぴったりかな。ティナに強権は似合わないよ」
ティナが皇帝になる宣言をした直後、たまたま執務室には僕とティナだけの時があった。
「うん。わたしも、そうありたいと思うわ。でもね、優しいだけじゃ人はついてこないと思うの。第一、わたしは帝国全部を知らないし、多分わたしを知らない人の方が多いよね」
「歴代の皇帝でも帝国内全部を知ってた人は居ないと思うよ」
僕の中には、皇帝という者は独裁をして強権で国内を抑え込むという印象が高い。
<地球の歴史上でも強引な皇帝が多いイメージですね。多くの民族を総括するのが皇帝ですから。女帝も歴史上何人かいらっしゃいますが、中国の則天武后を筆頭に困った方が多いです。日本の女性天皇もある意味女帝ですが、推古天皇などこちらは穏やかな方が多いですね>
「そうなのね。そういえば、カイトに昔、日本の天皇陛下の事を聞いたけど、象徴とかで政治には係わられていないのよね」
「僕もそう聞いているけど、学校で学んだ訳じゃないから詳しい事はルークスに任せるよ」
……僕、結局小学校中退だものね。もし地球に行けるようになったら、もう一度学校に行きたいな。出来たらティナと一緒に学校通ってみたいよ。
僕は、セーラー服姿な可愛いティナと一緒に通学するのを一瞬妄想してしまった。
<では、お二人にご教授致します。過去においては天皇も政治を行っていましたが、武家社会。武士という戦闘職種が力を付けて以降は、武力と政治は武家、権威は天皇という感じに分かれてきました>
ルークスが日本の歴史を解説しだす。
快調に、かつ面白く話すのでティナだけでなく僕も聞き込んだ。
<そして第二次大戦に負けた日本。昭和天皇は人間宣言をなさり、憲法により象徴天皇制になりました。明治時代より立憲君主制でしたので、天皇陛下は政治にはほぼ関与なされていませんでしたが>
「戦争で負けたのに陛下は殺されなかったのね。普通は敵国の主君は殺されるのが当たり前だものね。どうしてかしら?」
<そこですが、もし昭和帝に何かあれば日本人は狂気のまま徹底抗戦をし、例え原爆を何発も投下してもアメリカ兵の被害が甚大になり過ぎるという計算結果が出たからです。また戦争に負けたとはいえ、他の敗北国と違い日本は政治機構が健在でした。なので、そのまま体制を継続させるのが正解という事でした。そして昭和帝の血は今も繋がって国民に愛されています。日本人にとって、陛下と食の安全の疎外は禁句ですね>
……僕にも日本人の血が流れているから、なんとなく分かるよ。僕にとってはティナが全部だけどね。
「そうなんだ。でも国民に愛される皇帝ってなんか良いよね、ルークス」
<はい、ティナ様。天皇家が国民に愛されるようになったのは、戦後に国民の前に頻繁に出て来られるようになったからとも言いますね。災害時の慰問、弔問。そして視察。一番有名な視察が戦後すぐの行幸、巡幸ですね。戦後翌年1946年から1954年までをかけて日本全国を回られました>
そこからもルークスは色々と話す。
議会制民主主義、立憲君主制、選挙制度、三権分立などなど。
本来日本では中学校で習う内容だそうだけれど、小学校中退の僕にとっても興味深い話だった。
「……カイト。わたし、とっても良い事思いついたんだけど?」
「……なんとなく想像できるけど、一応聞くね。本気?」
「うん、本気なの。わたし、帝国内を巡幸してみたいの。皆に会って、皆の話を聞いて。そしてわたしの事も知ってもらうの! そうすれば間違いも起きにくくなるし」
ティナは眼をキラキラさせて僕に話しかける。
昭和帝を参考にしての全国行幸、移動手段が精々馬車に限定される帝国では「普通」不可能だ。
……でも、僕達には自動車という移動手段があるんだよね。
「カイトやルークスが運転する自動車で全国を旅行するの! そして最後に帝都に乗り込んで、大公様と話し合うわ。貴方は民の方を見ているんですかって」
「ふぅ。確かに僕が運転すれば不可能じゃないね。でも危険だよ。暗殺されかねないもの」
「そこはルークスの目もあるし、皆。カイトがいるからわたしは安心ね。あ、わたしが皇帝になったら諸侯を議員にしちゃって議会制民主主義、立憲君主制、象徴皇帝制にしちゃうの。そうすれば政治に携わらなくても良いし、カイトと一緒に遊べる時間も作れるね。後は教育機関を平民の方々にも広めて……」
すっかり暴走状態のティナ。
僕は彼女が楽しそうに話すのを聞きながら、その望みを叶える為の方法を色々と考えた。
<またまたワタクシ大活躍でございます! ティナ様を素敵な女帝様にするのですぞ>
では、明日の更新をお楽しみにです。




