第29話(累計 第74話) 僕、ティナと共に「攻め」に行く。
「姫男爵様、いえフローレンティナ女帝陛下。いつ帝都に攻め入られるのでしょうか? 大学は全面的にフローレンティナ様を応援いたしております。大公様は大学を廃止しようと考えておられますので」
「ティナちゃん。俺んとこは息子、マインツベルク辺境伯もティナちゃんの味方に付いたぞ。さあ、出陣の命令を飛ばしてくれ!」
「ちょ! 学院長先生。それにパウルおじ様。わたくし、争いを止める為に皇帝就任の宣言をしたのです。それにまだ皇帝じゃないしぃ! 自ら帝都に攻め入るなど、本末転倒なのぉ! カイト、皆を止めてよぉ!」
カールスブルグ帝国大学内に設置された臨時帝国政府。
そこで執務をするティナの元に、多くの貴族、民衆共が毎日陳情に来ている。
誰もが言う事は同じ。
「早く帝都に攻め入って、大公の首を取れ!」と。
「皆さん。まずは落ち着きましょう。ティナ、いやフローレンティナ様が望むのは平和です。間違っても帝位を奪う、覇権を握るのが主目的ではございません。そこを間違えてはいけないのです!」
「婿殿。そうは言うが、こちら側の領地では何時大公の兵が攻め入ってくるのか、皆が不安に思っておるのだが?」
僕は毎度毎度、集まる皆を前に説得をしている。
ティナが皇帝になる宣言をしたのは、大公様へのけん制。
大公様が国民への弾圧や虐殺をしないように、ワザと攻撃対象になっただけだ。
……大公閣下って、自分が皇帝になるのを反対されたから、民衆を弾圧しようとしていたんだよね。でも、先に倒すべき敵としてティナが出来たから、今は逆に国内から兵を集めなきゃいけない。なので、大公様は民衆を迂闊に弾圧できないんだよね。
しかし、ティナを襲うはずだった討伐軍が一方的、かつ未知の攻撃で殲滅されたのを受けて、大公様はうかつに攻めても来れない。
更に、その未知の武力を帝都、いや大公様に直接向けられては死が待つばかり。
……この間の虐殺には「見せつける」、示威的な意味もあったんだよね。誰でもわざわざハチの巣を壊して襲われる危険は犯したくないものさ。
「大公様との間に膠着状態を作り上げるのが今回の策です。慌てて行動などしないでくださいませ、パウル様。それと、僕はまだ婚約者。結婚をしていませんですので婿ではございません。それに、皇帝の王配に異世界人がなっても良いかといえば……」
「そこは俺が太鼓判を押すぜ。なんなら、婿殿を一度俺の養子にでもすれば、身柄的にも問題無いだろ。ティナちゃんを守るためなら魔神相手でも戦う坊やを誰もが婿と認めているさ」
すっかり僕までからかいつつも可愛がってくれるパウル様。
その大きくて傷跡だらけの手で僕の頭をガシガシ撫でてくれた。
「ちょ! パウル様、痛いですぅ。それに僕を子供扱い、あ、痛い。しないでくださーい!」
「パウルおじ様。カイトは丈夫じゃないので、あんまり無茶しないでくださいませ。あ、おほん。さて、皆様。これからの方針についてお話したいと思いますの」
僕がパウル様に弄ばれている間に、ティナは表情を少女から貴族令嬢に改め話し出した。
「わたくしが『ある筋』から入手しました情報によれば、近日中に大公様は皇帝に就任なさる宣言をなさり、わたくしを逆賊として討ちに来るとの事。その為に各諸侯から兵を集める算段です。ですので、それを阻止し逆にわたくし側の兵とするのが作戦方針です!」
「うむ、つまり最初から戦さを起こさせないつもりだな、ティナちゃん。しかし、簡単にはそういかんぞ。具体的にはどうする?」
誰もが疑問顔の中、パウル様は覗き込むようにティナに聞いてきた。
「うふふ。よくぞ聞いてくれましたの、おじ様。わたくし、カイトと共に国内を遊説、行幸しようと思いますの!」
「なんじゃとぉぉ!」
「え!?」
「それ、危なくないか?」
ティナの発言に集まった人々は騒然となる。
……普通、敵を待ち構えるか武力で攻めに行くものだけど、こっちから平和的に「攻め」に行くのは誰しも想定外だよね。
「帝国内は様々な種族、様々な人々が暮らしています。わたくし、その全てを知ってはおりません。また、国内にはわたくし自身を知らない方も多く、このまま皇帝になる事は出来ません。わたくしの眼で直接人々を見てみたいのです!」
ティナは高らかに宣言する。
女帝になるのに、帝国の事を知らずになれるかと。
……ティナ、色々背負いこみ過ぎるのが心配なんだよね。僕がしっかり背中支えてあげなきゃ!
「ティナちゃん。いえ、フローレンティナ陛下。俺、いや自分パウル・デル・マントイフェルは貴方様のしもべ、剣としてお仕え致します。しかし、俺もジジイになる訳だ。あのちっちゃなティナちゃんが、こんなに立派になって……」
ティナの前に跪いて、頭を垂れるパウル様。
涙をボロボロ流し男泣きしているので、ティナもうろたえてしまっていた。
「お、おじ様。そんな事で泣かないで下さいませ。わたくしも泣いてしまいますの……。わたし、わたし……。あーん」
結局、幼子の様に泣き出すティナ。
このところ、かなり無理してお貴族様モードをやっていたから精神的に負担が大きかったのだろう。
僕はティナに寄り添い、そっと彼女を抱きしめた。
「僕の可愛いお嫁さん。大事なティナ。絶対に僕は君を一生守るよ。愛してる」
「うん。わたしも」
この後、流れでキスしてしまい、集まった人々から祝福と囃子、からかいと嫉妬の声を受けてしまう僕であった、まる。
<カイト様、TPOを少しは考えましょう。さて、ワタクシも頑張りますぞ!>
<うふふ。ワタクシ大活躍しますので、皆様。応援宜しくです。ブックマークも随時募集しておりますぞ!>
ティナちゃんの奇策、さてどうなりますか。
明日正午の更新をお楽しみにです。




